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「虎に翼」第17週〜“特別”な関係が“いびつ”になるとき

 涼子様と玉ちゃんの関係が…

 優未、航一、杉田弁護士…なんだか展開がいろいろ複雑になってきた。

 

「女の情に蛇が住む?」

「女の情愛は執念深い。深入りすれば恐ろしいものだ」などの意味で使われる言葉です。

(ハフポストより)

 これは、何のこと?誰のこと?

 寅子、涼子、玉、美佐江、まさかの優未?

 美佐江がまだ17週では謎の存在のままで問題は解決していない。が、その目的は分からないが、態度的にこのことわざに近いような雰囲気を醸してはいる。

 

 三条市の喫茶店「Lighthouse」で涼子(桜井ユキ)と14年ぶりに再会した寅子(伊藤沙莉)。

 よね(土居志央梨)、轟(戸塚純貴)、梅子(平岩紙)、ヒャンちゃん(香子 ハ・ヨンス)が無事でがんばっていることを知り、喜びに涙する涼子。寅子の活躍は、新聞や雑誌で知っている、という。そして、結婚後も(司法試験に)挑戦できたはずだが、それをしなかったのは自分の選択だ、と。

憲法第14条2項

華族その他の貴族の制度は、これを認めない

 あの戦争で苦労してない人はいない、人々が平等になるためには致し方ない、これまでが恵まれていただけだ、と語る涼子。

 この新憲法により、桜川家は失われた。

 母(筒井真理子)は戦時中に病死。使用人の多くも空襲で亡くなった。涼子のお付きだった玉(羽瀬川なぎ)は、空襲のとき腰を痛め、歩行が困難になった。

 涼子は桜川家の別荘を売り、そのお金で店舗となる物件を手に入れた。玉と仕事をして生きていくために。

 玉は英語が堪能になっており、店で高校生たちに英語を教える仕事もしている。そのなかに森口美佐江(片岡凜)がいた。例の地主の娘。

 

 優未(竹澤咲子)は学校に友だちがいないという。でも平気だと、いっしょにいると疲れる、とまで。寅子は積極的に声をかけて友だちになってみたら?とすすめるが……優未は本当に平気なようだ。

 

 そもそも、なぜ人は「友だちをつくれ」というのか。「ともだち100人できるかな」ってCMが昔あったけど。友だちは多けりゃいいってもんじゃないし、悪い友人ならいないほうがよい。友だちといってもその関係性の濃淡はさまざまだろうし、あまり濃密な関係もどうなんだろう。そのうえ、こちらは友だちと思っていても、相手にはそうでもなかったり、負担になっていたりすることだってある。人間関係というのはさっぱりしているのがいいのだろう、と私は思う。

「君子の交わりは淡きこと水のごとし」

立派な人物の交際は淡泊であるが、その友情はいつまでも変わることがない、ということ。

(コトバンク)

 第17週の格言はこちらのほうがよかったのでは?あ、でも「女」ではなく「君子」だもんね。「付き合いは淡白のほうがいい」に導くための今週の副題だったのかな。

 

 寅子は玉の様子が気になっていた。ある日曜日、寅子は玉の本心を聞く機会を得る。玉は涼子の負担になりたくない、ゆえに、障害者のための施設に入れるように力を貸してほしい、と寅子に頼む。

 後日、寅子はその結果を持ってLighthouseを訪れた。そこで、涼子と玉が本心を打ち明け合うことに。

 玉は、せっかく母親からも身分からも開放された涼子を自分が束縛してしまっいる、そのことに耐えられないのだ、だからここを出たい、と話す。自分がいなければ、涼子はなりたい何かになれていたはずだ、と。

 涼子は涼子で、自分がもっと早くにお故郷(くに)に帰しておけば、玉は結婚して幸せになっていたかもしれない、と話す。ひとりになるのが恐ろしくていつまでもそばに置いてしまった、玉の人生を自分が奪った、と。でも今はとっても幸せ、玉と生きていくのが幸せ。でもそれは独りよがりだった。

「私はせめて二人が対等であってほしい、全てを諦めてほしくない」と言う寅子。

 玉は、これ以上涼子の負担にはなりたくない、でも「友だち」になりたい、と言う。このあと玉は、涼子のことを「お嬢様」ではなく「涼子ちゃん」と呼ぶことになった。

 それでも涼子たちのことが心配な寅子は、稲(田中真弓)を涼子の店に派遣することにする。

 稲は、花江(森田望智)の実家のお手伝いさんだった人で、戦争が激しくなる前に新潟へ帰っていたのだった。今は一人暮らしで時間を持て余しているという。花江の計らいで、寅子が本庁に行く水曜日と忙しいときに手伝いに来てもらっていた。

 寅子は、その稲に次のように語った。

優未と私はいずれこの土地を去ります。

私、優未が友だちがいないと言ったとき、なにを言うのが正解だったかずっと考えていました。

心のよりどころがひとりだと、関係が対等から特別になっていびつになっていく。失ったときなかなか立ち直れない。だから優未にはよりどころをたくさんつくってほしかったんだと思います。

でもよりどころは、友だちじゃなくたっていいんだわ。私、稲さんにも、そういう場所や人をたくさんつくってほしいなって。

 

「よりどころは友だちじゃなくたっていい」。「虎に翼」のなかで、この価値観は一定している。

 家庭裁判所での親権調停のとき、帰るのは親元だけではない、と少年に助言していた。「〇〇じゃなきゃ」という考え方は、社会のなかに、自分のすぐそばにも意外とある。私たちはそれを疑うことなく内面化していたりする。でも、そうではないことに気づいたときの「アハ体験」はすがすがしいものだ。ほんの少しの違いだったりするのだが。例えば「あ、これって、右側に置いたほうが便利なんだ」的な。

 

 そして優未が言う。

私、よりどころならたくさんあるよ、お母さん、花江さん家族、直明お兄ちゃんに道男お兄ちゃん。それに稲さん。お絵描きもお料理も好き、あと歌うのも。 

 優未が強いのは(お腹きゅるきゅるの悩みはあったが)、友だちにこだわらないのも、よりどころがたくさんあるからなんだ、ということがここで判明する。

 

「心のよりどころがひとりだと、関係が対等から特別になっていびつになっていく」という言葉はなかなか強烈だ。

 涼子の母が寂しさのなかで死んでいったのも、涼子がひとりになることを恐れたのも、ある意味「よりこどころ」がなかったからだ。

 涼子は玉に恩返しをしているんだと言っていたが、一方で涼子の反省の言が示している通り、自分のそばに置いておきたいという願望があったことも事実なんだろう。そもそも二人の関係は「対等」ではなく「特別」だったわけで、戦争、新しい憲法を経て、「特別からいびつ」になっていったのかもしれない。けれども同時に二人の間には、互いを思い遣る気持ちが常に流れていたのは間違いない。

「特別からいびつ」というのは、例えば、AさんがBさんを支配するようになったり、BさんがAさんに嫌われたくないために過度に従順になったりするのは分かり易い「いびつ」であろう。そういう関係は私たちの周りでも少なからず見かける。そういう関係から殺人事件が起きたりするエピソードが刑事ドラマにあったりする。

「虎に翼」 涼子と玉の仲を取り持つ寅子 ©2024kinirobotti

 

 さて、寅子が本庁で抱えている案件は、少年の障害事件だった。カバンをひったくられた男が、ひったくりの少年を殴って怪我を負わせてしまった。

 後日、窃盗をしたと言う少年たちが自首してきた。互いに関係性がない。学校も違う。貧困でもない(これは、SNS上で知り合った、名前も素性も何も知らない者たちが集まって犯罪を犯すという昨今の状況と似ている)。ただ共通する言い分が「スッキリさせたいから」。

 実は、上に既述した、玉が英語を教えている高校生・美佐江(森口の娘)から、寅子は「特別な人」だと言われてミサンガをもらっていた。

 法定でそのミサンガを寅子の手首に見たひったくり少年は、自分もそれを手首にしていることをアピールする。ひったくりの理由を尋ねると、「あの子をスッキリさせたくて」と言う。

 寅子が美佐江からもらったミサンガを、窃盗少年団も全員持っていた。

「あの子」とは美佐江のことだろう…。

 志望大学のことで相談があると裁判所に突然現れた美佐江。

「ミサンガは特別な人にだけあげる」と話す。寅子が「特別」とはどういうことかを尋ねると、美佐江はミサンガを引きちぎってしまった。そして「用事を思い出したので失礼します」と極めて冷静に立ち去る。

 う〜ん、このシーンはホラーだ。再びのスティーヴン・キング。

 もしかして地主の父親になにか不満があるのか…。

 ひったくり少年は、自分が盗んだものは「どうせ汚いことをして儲けたお金だ」とも言っていた。それで「あの子がスッキリする」…んだ。

 おそらくこれも、「心のよりどころがひとりだと、関係が対等から特別になっていびつになっていく」の類いなのではないか。

 少年たちの場合は、そもそも「心のよりどころ」がなく、ミサンガという象徴を「私の特別」と言われて受け取ることで、まずは「特別」になり、おそらくは美佐江の何らかの誘導によって「いびつ」が育っていった、と想像できなくもない。

 涼子が言っていた。「Lighthouse」に学びに来る生徒たちのなかで、ときどき一部の子たちが昔の私のような顔をする、貧困が理由でない犯罪も多いと聞く、と。

 昔の涼子様のような顔、というのは、家とか親に束縛されていて不自由や不満を感じている顔、ということかな。

 これらのミサンガグループの犯罪は、そういったことへの復讐なのだろうか。

 美佐江から、どうやって法律を学んだのかと尋ねられた寅子が、自分の家族に当てはめて法律を理解しようとしていた、と答えたことがあった。これも伏線だろうか。

 なんだかホラーとミステリー感が増してきました。

 

 さてさて、第17週の初っ端で、杉田弁護士(兄・太郎⇒高橋克実/弟・次郎⇒田口浩正)主催の麻雀大会に、深田課長(遠山俊也)が執拗に誘われていたので、「私が参加しましょうか」と寅子が助け舟を出すシーンがあった。と言ったものの、寅子は麻雀を全く知らないので、図書館で本を借りて勉強することに。その後、航一が麻雀好きと分かる。

 麻雀大会の現場へ、航一と優未と寅子が訪れる。

 見学させてくれと入っていくと、優未を見た太郎が突如泣き出す。

長岡の空襲でひとり娘と孫娘を亡くしているんです。なんとなく似てんですかね、佐田判事のお嬢さん、兄の孫娘のアキコに。

 と説明する次郎。

 すると航一が「ごめんなさい」と太郎を抱きしめたのだ。

 太郎は2年ほど前に妻も亡くし、今は一人暮らし。星判事の言う「死を受け入れられない」ってことのことか、と次郎。

 そうだったんですね。高瀬(望月歩)には厳しく言っていたけど、太郎自身も同じ感情に苛まれていたのですね。

 だからといって、太郎のパターナリズムが許容されるわけではありませんよ。

 

 時が流れるのを待つしかないのか。心に傷を負った人に寄り添いたいものだ。航一にそうしみじみと語る寅子。この時代は、戦争で深い傷を負った人たちが日本国中に本当にたくさんいたのですよね。いや、全員ですね。そして戦後80年近く経った今も、まだまだ傷は癒えていない。

 

 航一さんは戦時中に何か…?と寅子が尋ねると、航一は「秘密」だと言う。

 どうやら何かありそうだ。