なんというか、同情できない人々ばかりで…
「田鎖ブラザーズ」 2024年4〜6月 TBS金曜よる10時
脚本/渡辺啓 プロデュース/新井順子
出演/岡田将生 染谷将太 山中崇 井川遥 岸谷五朗
中条あやみ 宮近海斗 渡辺真起子 他
最終話を観て、え〜って感じになった。
だって、田鎖兄弟が信頼していた人たちが、言ってみればことごとく悪の側だったわけで。すなわち、兄弟の復讐相手。
こんな可哀想な、理不尽な、悔しくて悲しいことがあっていいのか。この兄弟のここまでの人生を思うと、無慈悲すぎる……。
実は、初回を観て視聴をやめようかと思ったほど「?」な印象だった。
なにしろ、プロデューサーが新井順子ということで、あの「海に眠るダイヤモンド」(2024年TBS日曜劇場 出演/神木隆之介 杉咲花 宮本信子 他)を手掛けた3人組(脚本/野木亜紀子 演出/塚原あゆ子 プロデュース/新井順子)のひとりなので、けっこう期待は大きかったのに。
観るのをやめようと思っていたが、録画していたので、なにげに2回目を観た。そこで、なるほど「復讐がテーマの物語」なんだ、途中途中に出てくる事件も含めて、と理解できた。
が、それでも挫折しそうになるのである。田鎖兄弟の本筋の話のなかに入り込んでくる事件、その手法は決して珍しいことではないのだが、このドラマではそこがちょっと分かり難いつくりだったのだ、私には。
刑事になった兄の田鎖真(岡田将生)と検視官になった稔(染谷将太)、子ども時代、両親を殺された。二人はその犯人を捜している。時効撤廃施行のわずか2日前に、両親殺害事件は時効を迎えた。たった2日…。
そのタッチの差の悔しさを考えると、ずっと遡って撤廃を有効にすればいいのでは?と思うのだが…。そうはなっていないのですね、日本の法律は。
それでも二人は、命をかけて、命にかえて、犯人を捜し続けている。警察官という職業についてまで。
まずは、当時田鎖兄弟の父親・朔太郎(和田正人)を取材していたノンフィクション作家(飯尾和樹)が、死んだ。二人がずっと捜していた人物。やっと見つけ出したときには、ガンですでに意識不明状態だった。
そこから、さまざまな出来事、人物を辿っていき、そして、最終話、真犯人をつきとめる、という物語。
なんていうのかな、ちょっと救われない感じが、私はした。何が気持ちよくないといって、キャラクターたちがみな、腹立たしい。
このドラマについてたくさん書くつもりは全くなかったのだが、最終話を経て、あまりに納得できる人物がいないので、そこだけ、文句として、書き残そうと思った次第。
興味を持ってくださった方、賛同できるよという方、ちょっと長いですが、お読みいただければ幸いです。
<登場人物考(独断と偏見)>
■小池刑事(岸谷五朗)
現在、真の上司。真が31年前の両親殺害事件の犯人を追っていると知って、やめるように促す。小池は、1995年当時の担当刑事のひとりだった。そして、小池の相棒だった刑事は、このあと刑事をやめている(この刑事が暴力団とつながっていることを隠し通した小池)。
でもって、最後の最後(最終話)に、当時犯人逮捕に至らなかったぶん、今度こそ、あの兄弟を救ってやりたいとまで叫んで、急にいい人になった。ずっと後悔しているし、ずっと二人を見守ってきた的な。違和感しかない。
最終話で、当時相棒だった刑事を自首させ、当時のことを語るよう促しはしたが…、でも、すでに時効だ。
■辛島貞夫(長江英和) 辛島ふみ(仙道敦子)
この夫婦が、そもそもいちばん悪いような気がして悪印象しかない。
仙道敦子がこんな役を演じるなんて…。いや、この私の感想は稚拙だ。俳優ですから、どんな役もこなしてこそ。逆に、すばらしい、と言わなければならないだろう。
山岳写真家である妻・ふみの怪我(山での滑落事故)は、海外での最先端技術が必要なほど重症だった。それには莫大な費用がかかる。そのために、夫・貞夫は暴力団からの依頼で拳銃を密造。
貞夫は「辛島金属工場」の工場長だった。田鎖兄弟の父親・朔太郎はこの工場で働いていた。
ある日、朔太郎が、密造拳銃を見つけ、自首をすすめる。
密造がばれてしまったため、貞夫は、田鎖一家の殺害を計画。中華料理店の店主「もっちゃん」こと茂木幸輝(山中崇)に殺害を依頼する。
さらに貞夫は、工場を燃やして保険金を手に入れて、ふみの手術代を確保する。
そのとき、もっちゃんもそこで火傷をした体にする。
妻のふみは、すっかり回復して、堂々たる山岳写真家として活躍。
ふみは、当時何が起きたのかを知っている。刑事となった兄弟が接触してきたときは、白を切る。
小池刑事の手配で、どこぞの別荘のようなところに隠れる。
夫はすでに病気。認知症?なのかな。
夫の悪事は知っているが、そのことで自分は健康を取り戻したことに感謝している。ゆえに、夫を大事にしているふみ。
兄弟が居場所を突き止めてやってきたときも、夫を守る。兄弟が、こんなことをして得たお金で助かって、山に登って、どんな気持ちだったのかと尋ねると、嬉しかった、と言うふみ。何も知らなかったから、と。
でもさ、途中で知ったわけで、そして、今、こうして、兄弟が復讐しようとやってきて、31年間、両親を殺された無念を抱えたままで生きてきた兄弟がいる、ということを知ってもなお、夫を守り、自分を守ろうとするこのふみという女性、私はすごく気持ちが悪い。こういうのを夫婦愛とは言わない。自分たち二人だけの狭い世界では美談的要素を持っているのかもしれないが、そのために人が死んでいる、否、人を殺しているのである。正義の反対である邪悪ではないですか。
たとえ真犯人が別にいるのではないか(後述)と疑問に思っていたとしても、夫が殺人の依頼をした(しかも、もっちゃんに)という事実について、反省も後悔も苦悩もなにも感じていない風なのが、まったく理解不能だ。
夫が病であろうとなかろうと、許されることではない、と私は思う。
何かと病気が盾に使われることがある。その盾を突きつけられた途端に裁けなくなるかのような雰囲気が、世間にはある。あるから、当事者も病気の話をする。つい先日も、国会であった。それは、ちょっと違うと思う。
2019年の「東池袋自動車暴走死傷事故」では、加害者の年齢や病気、いたいたしい杖姿など、盾に取る要素は十分にあった。が、被害者の夫は、とても毅然と誠実に対応し、処罰を求める姿勢を揺るがすことはなかった。結果、しっかり禁固5年の判決となった。
最後に貞夫に、「真と稔、来るかなぁ」と、善人に戻ったかのような穏やかなセリフを言わせたのは、制作スタッフにはどういった意図があったのだろう。私には解せない。年取って、病気になれば、みんな許される、というメッセージになってしまう。
それはよくないと私は思う。
そういう意味で、この夫婦の互いを思う愛情?は、ねじ曲がりすぎている。自己中すぎる。闇すぎる。同情の余地は一欠片もない。
■茂木幸輝(山中崇)
通称、もっちゃん。中華料理店店主。
この人がねぇ、なんとも悲しい。ものすごくいい人なのに。
いい人すぎて、人に騙されるタイプ。この様子からすると、ちょっと発達障害的なのかもしれない。
もっちゃんの人の良さを利用して、そしてもっちゃんの母親を人質にして、辛島は、田鎖一家を殺せと命じた。
どんな思いだったのか。でも、もっちゃんにとっては、母親がいちばん大事だったのだろう。だから…。
このドラマがはじまってすぐ、私は、もっちゃんが犯人だと推測していた。山中崇の演技から、そこはかとなくそんな雰囲気が漂っていた。
田鎖兄弟は、もっちゃんが大好きだった。特に稔は、両親が亡くなった直後から、ずっともっちゃんに甘えていた。もっちゃんのつくるチャーハンが母親のチャーハンと同じ味がする、と。
そんな、兄弟が大好きなもっちゃん、彼が両親を刺した人物だと突き止めたときのショックは計り知れない。
そして、二人はもう気づいているとふみに知らせたあと、もっちゃんは自殺した。
純粋なもっちゃんを悪人に仕立て上げた辛島夫婦、貞夫の罪がいちばん重い、と私は思う。結局31年後に、もっちゃんを殺したのも辛島夫婦だ。
■足利晴子(井川遥)
現在、質屋をやっている。元新聞記者。田鎖兄弟の犯人捜しに、情報屋として協力している。
兄弟は「はるちゃん」と呼んでいる。
晴子は、両親殺害事件のとき、犯人に腕を刺された、ちょうど表を歩いていた高校生だった。助けを求める幼い田鎖兄弟に、救急車を呼ぶように言って助ける。
そのときから、3人はずっと仲良くしていた。晴子は二人を弟のようにかわいがった。
で、なんと、真犯人は、晴子だった。
もっちゃんが兄弟の両親を刺したとき、二人はまったく動かなかった、とふみが言っていた。それで、稔が真犯人を捜しはじめたのだ。間違った人に復讐するわけにはいかない、と。
それもあって、ふみは、夫の殺人教唆は成り立たないと考え、ある種の安堵を感じていたのかもしれない。すなわち、夫は犯罪者じゃない、と。
ま、それでも、もっちゃんが二人の両親を刺したことに間違いはないし(加えて、晴子と稔も刺している)、もっちゃんの行為が致命傷でなかったとしても、辛島が「殺せ」と命じた事実はなくならない。
晴子の父(漁師)は、海に落ちて死んだ。
密造銃の運び屋だったのだ。ゆえに、あの日、朔太郎が貞夫に自首を促した日、銃を持っていけなかったので、口封じに殺されたようだ。
晴子は父の遺品から事情に気づき、工場へ行くと、ちょうど貞夫と朔太郎が話している声を聞く。朔太郎のせいで晴子の父が殺された、と貞夫が朔太郎を責めていた。
そこで、田鎖家の様子をさぐり(こういう才能があるんだね、晴子には。だから新聞記者になった)、いつも朔太郎がもっちゃんの店で「酢」をかけているのを見て、留守を狙って家に侵入し、「酢」のなかに毒を入れた。その毒で、あの日、兄弟の両親は死んだのだった。幼い子どもたちは、酢が嫌いなので使っていない。
最終話、晴子を呼び出して復讐しようとする兄弟。
やっぱり私だったんだ、と言う、晴子。自分の毒殺は失敗したと思っていた、とつぶやく。
晴子は、事件が時効を迎えたとき姿を消していたが、また舞い戻ってきていたのだった。二人が「はるちゃん」と慕ってくれるから、と。
自分が殺した(かもしれない)人物の子どもたちへの、愛情が芽生えていたわけだ。そして、また、この晴子の田鎖朔太郎への行為も、「復讐」だったわけだ。
その晴子への復讐を今、兄弟は、あの密造拳銃で成し遂げようとしている。
二人に罪を犯させたくないと、小池刑事は、部下をつれて、二人を探す。そもそも、あのとき、犯人を逮捕できなかった警察にいちばん責任がある、と。
そして、銃声が鳴り響く。
このあと、晴子は死んだのか…分からない映像になっている。
血は数滴地面に落ちたが…。
…晴子なのか?釣りをしている女性の後ろ姿も映し出される。
真のバディ・宮藤(中条あやみ)が釣りを晴子に教えてもらい、その釣りをする後ろ姿のシーンが少し前にあったので、どっちなのかな、と視聴者を惑わせるしかけ。
■秦野小夜子(渡辺真起子)
秦野は、市役所の福祉健康課相談支援係の相談員。カウンセラー。
こういう心理カウンセラーが殺人教唆をする、という事件は、他の刑事ドラマでもいくつか見たことがある。第6話7話では、ゆえに、あ、こいつが犯人か、とピンと来た視聴者も多いと思う。
カウンセリングを受けにきた被害者遺族を、心理的に誘導して、復讐に導いていく。
複数の殺人事件を調査している警察は、加害者と思われる人間たちがみな、秦野のもとを訪れていることに気づく。
なんとか証拠を見つけ出し、殺人教唆として逮捕に至る。
真が秦野のもとを訪れたとき、カウンセリングのようになっていささか危なかったのだが、それよりも、「田鎖」という名前を聞いて、「たぐさり?」と驚いた様子を示したのが気になっていた。昔、たとえば兄弟の両親と何かあったのかな?などと想像したりもした。
その謎が、最終話でやっと分かる。そしてそこに、更なる不気味さが暴露された。
31年前、晴子の回想シーン。「気分転換に読んでみたら」と植物図鑑を差し出す手。その声は確かに秦野だ。開かれたページには、毒性植物が載っている。
すなわち、兄弟の両親殺害を教唆したのは、秦野だったのだ。ゆえに、真の苗字が「田鎖」だと知って、驚いたのだろう。
でも、すごいね。31年前に田鎖朔太郎への復讐に力を貸し、31年後には、自分が殺した朔太郎の息子の復讐心を煽る。しかもそれは、結果として晴子への復讐になるのだ(秦野は田鎖夫婦の死の本当の原因を知らなかったかもしれないが)。
でも、どうして波多野小夜子は、そんなことをするようになったのかな。そのあたりのエピソード、番外編で描いてほしい。リクエスト。
秦野逮捕のとき、真が「もう、会うことはない」と秦野に言うと、秦野は、「そうかなぁ…きっとあなたは私に会いに来ると思うけど」と不敵に微笑んだ。
これ、どういう意味かなぁ…アメリカの刑事ドラマだと、収容されている不気味な心理操作をしかけてくる犯人のところに、たまに刑事が会いに来るというエピソードがあったりするけど、それ?などと思ったりした。
それとも、まだまだ他にも秦野の心理操作を受けている人間たちがいて、いずれ犯罪を犯す、ということか?
最終話まで観たところだと、兄弟がいずれ晴子に行き着いたとき、そのとき、秦野の存在が再び目の前に現れるよ、ということだったのかもしれない。
こう辿ってくると、いろいろつめこみ過ぎの感もある。複雑に絡んでいて。でも、このくらい複雑なシンクロニシティはいくらでも、これまでにも描かれてきた。
どうしても腑に落ちないのは、最悪の人間が逃げおおせて、しかも、悪びれていない、というところだと思う。なので、後味が悪すぎる。
私は、あの別荘で辛島夫妻が自殺している、そんな悔悟的結末も想像したが、それはなかった。
■石坂直樹(宮近海斗)
役柄について、ではなく、役者について。
「Travis Japan」のメンバー宮近海斗。今回も刑事役かぁ。
「特捜9」(テレビ朝日)では鑑識官、「炎」(WOWOW)でも若手刑事。なんとなく、刑事役あってるなぁ、と思っていたら、「田鎖ブラザーズ」でも。
ってことで、このちょっと釈然としないドラマのなかで、いちばんまともに輝いていたのは、この石坂、すなわち宮近だった、と思った次第。
もちろん、岡田、染谷の演技は、言うまでもなく光っていました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

「田鎖ブラザーズ」 真と稔(ツトムスタイル)
©2026kinirobotti
✿✿✿
ツトムとは?
癒し系ドラム缶型ロボットです

©2026kinirobotti