なるほど〜。
「世界はラテン語でできている」
ラテン語さん SB新書
確かに「世界はラテン語でできている」と言っても過言ではない。ということは、私もぼんやり認識していた、と思う。
車をはじめとする商品の名前、会社や公共施設の名称、身体、病、薬、生活から星座、宇宙まで、ラテン語由来の言葉で満ち溢れている。
え?それも?ってな具合。そうじゃない言葉を探すほうが難しそうな勢いだ。
それらの名称、言葉を、すんなり受け入れてしまっている消費者、市民、国民。なんというか、ラテン語マジックとでも言いたい気分になる。
あの車名「カローラ」もそうだったなんて。いや、その言葉の意味を知ろうともせずに子どものころから商品名として馴染んでいた自分が、なんだか情けない。そのものの単なる名前として、すなわち太郎とか花子同様の感覚でずっといたと思う。「カローラ」ってどういう意味だろうなんて、本当に本当に考えたこともなく生きてきた。
太陽のコロナの語源はラテン語のcorona「かんむり」で、これはcrownの語源でもあります。また、ラテン語で「小さい冠」はcorollaといい、車名の「カローラ」の元になっています。
(P140)
でも、それほどなんか、しっくりした名称だということなんだろうな。考案者はすごいと思う。
テクノロジーにもたくさんのラテン語が潜んでいる。
例えば「ファクシミリ」
(略)ラテン語で「似た物を作れ(fac simile)」という意味です。facはfacio「作る」の命令形で、facioは英語のfactory「工場」の語源になっています。
simileは英語のsimilar 「似ている」や、resemble「似る、似ている」のsembleの部分、またsimulation「シミュレーション」の語源にもなっています。
(P146)
ほかにもこの類いものがいっぱい紹介されている。それほど「ラテン語」というのはあらゆる場所に溶け込んでいる。それもごく自然に。
違和感がないのは何故なのか。
おそらく、ラテン語という古語に、それだけのパワーがあるのではないか。
意味が分からなくても、その物とラテン語由来の名称がすんなりと人の意識のなかで結びつくのかもしれない。
ラテン語はヨーロッパの言語の基になっている(ラテン語由来の単語はたくさんある)し、学問の基礎になる言葉は、ほとんどすべてラテン語と言っても過言ではない(一部はギリシャ語、アラビア語)。元素もそうだし、動物や植物などの学名は、一般的にもよく知られている。
今では、ゲームや漫画、アニメでもいやというほど使用されている。
クリエーターのみなさん、すごいなぁ、と思う。ラテン語から適切な意味を持つ言葉を探してきて、そして命名する。作家たちのその能力、才能に脱帽である。
<Sic semper tyrannis>「暴君は常にかくのごとく」という、アメリカ・ヴァージニア州の州章がすごい。
これはヴァージニア州のモットーです。州章にはこの言葉とともに、槍を持つ女性の戦士が、王冠が外れて鎖をつけられた男性を踏みつけている姿が描かれています。つまりこのフレーズを通して、「専制的な政治をする人は、必ず悲惨な最後を遂げる」ということが暗示されているのです。
(略)
これは古代ローマ時代に書かれた文献に登場するフレーズではなく、アメリカ人によって作られたラテン語になります。
(P62)
巻末に、ヤマザキマリとラテン語さんの特別対談が掲載されている。
ヤマザキマリは、古代ローマ、ラテン語、イタリア語に精通している漫画家、随筆家だ。イタリア人は、当たり前だが、日本人よりずっとラテン語と親しい。
大ヒットした漫画で映画化された「テルマエ・ロマエ」(2012年2014年日本 出演/阿部寛 上戸彩 他)は、ラテン語で thermae Romae「ローマの温浴場」という意味。
ヤマザキマリがイタリアで教えられたという言葉が紹介されている。
Omnes viae Romam dudunt.「すべての道はローマに通ず」
Cultura animi philosophia est.「魂を耕すことが哲学である」(キケロ)
キケロつながりで、しかしまったくの余談だが、先日テレビ番組のなかでヤマザキの住居が映されたとき、書棚にあった本を私も持っていたので、嬉しかった。もう絶版になっているとても古い本。私も古書で購入した。「世界の名著13 キケロ エピクテトス マルクス・アウレリウス」
「ハリー・ポッター」の呪文も、エクソシストが使う悪魔の嫌がる言葉も、ラテン語。
ラテン語にはやっぱりパワーがあるようだ。
ちなみに私も大学時代、ラテン語とギリシャ語の講義を選択したが、挫折した。教科書は今でも書棚に、退屈そうに並んでいる。いつか再挑戦したい、と思いつつ、すでに人生の終盤がやってきてしまった。