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映画シャーロック「バスカヴィル家の犬」〜何が悪かったのか…

 う〜ん、なんだろう。

 

「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」2022年日本

監督 西谷弘/脚本 東山狭

原作 アーサー・コナン・ドイル「バスカヴィル家の犬」

出演/ディーン・フジオカ 岩田剛典 新木優子 広末涼子

 

 原作を読んだことがないので、あれやこれや言うのは無礼なのかもしれないが、ちょっとだけ感想を残しておこうと思いました。

 

 これは2019年にフジテレビで放送されたテレビドラマ「シャーロック」の劇場版。

 テレビドラマはそれなりに面白く、毎回観ていた。

 ディーン・フジオカ演じる誉獅子雄(ほまれ ししお)、すなわちシャーロックのキャラクターが独特だった。ここまでファンタジック?に作り込まなくてもなぁ、ともすこし思うが。

 その映画、しかもタイトルがなかなか魅力的だ。ということで、ちょっと、いや、けっこう期待して観た。それがよくなかったのかもしれない。期待して観なければ、期待してなかったけどまぁまぁ面白かった、ってなったかもしれない。

 ということは?そう、がっかりだったのである。

 がっかりポイントはいくつかあるのだが、それを書いていこうと思う。

 

 まず全体的に違和感満載。え?となった。いや、それでもそれなりに推理しながら観たのに…。

 そしておそらく例に漏れず、私も原作について調べた。「バスカヴィル家の犬」は、シャーロック・ホームズシリーズのなかでも傑作と言われている長編作品らしいことを知った。

 え、そうなんだ。

 だとしたら、これは……ひどい。傑作作品をぶち壊している。

 

 アーサー・コナン・ドイルが心霊研究家でもあることは有名だ。この小説の舞台となったのは、イギリス南西部デボン州のダートムア。ここに魔犬伝説が残っている。

なぜ作品が魅力的なのか。やはり『二つの英国』がよく描かれているからだと思います。魔犬伝説が残る土俗的な地方と、合理主義者ホームズが住む近代都市ロンドン。この二つの融合が絶妙なのです。(トリニティー・カレッジ・ダブリンでホームズ作品の研究に取り組むダリル・ジョーンズ教授)

(「ホームズ、名作誕生秘話 ドイル、心霊主義者の顔」

<取材・文 篠田航一>毎日新聞2023年6月1日)

 この映画を観た2日後に、私はこの記事を読むというシンクロニシティを体験した。

 記事によると、1900年、南アフリカの第2次ボーア戦争(1899~1902年)に軍医として従軍したドイルが、帰りの船のなかでバートラム・フレッチャー・ロビンソンという新聞記者と知り合い、帰国後、このロビンソンが、自身が少年期を過ごしたデボン州の魔犬伝説についてドイルに語ったという。

興味をそそられたドイルはロビンソンと共に現地取材に出掛け、作品に登場する青銅器時代のグリムズパウンド遺跡などを見て回った。取材を基に雑誌で連載を始め、単行本が出版されたのは1902年。この時、ドイルは42歳だった。

(同上)

 この小説が「バスカヴィル家の犬」である。

 ドイルは、不思議な話に惹かれる傾向があり、テレパシーや霊媒の存在を信じていて、降霊会にもしばしば参加していたようだ。

こうした趣味が色濃く出たのが「バスカビル」であり、ジョーンズ氏は「限りなく超常現象に近付けた小説」と分析する。(文字はそのまま)

(同上)

 超常現象小説に限りなく近い作品ということは、それだけミステリアスで不可思議が満載の物語なのだろうと思う。ところが、この日本の映画では、あまりそうした雰囲気は漂っていない。

 それはなぜか?

 

 上に原作をぶち壊していると書いたが、そもそも原作とは大きく内容が異なっている。全く別の物語だと言ってもよいほどだ。魔犬も屋敷も、それらしき人物も登場しているのだが、ストーリーが違う。原作をちょっと下敷きにした程度、かな。

 加えて、シャーロックすなわち獅子雄の突飛なキャラクターが、全くこの物語にそぐわない。この映画のストーリーだったら、「ミス・シャーロック」(2018年Hulu)のほうが合っているような気がする。シャーロックの役は竹内結子が演じていた。ぜひとも撮りなおしてほしいところだが、その願いはもう絶対に叶わない…。

 

 さらに、新木優子がなんともよろしくない。なぜこの俳優を使ったのか。

ガリレオ 禁断の魔術」(2022年フジテレビ土曜プレミアム)にも、柴咲コウ吉高由里子に代わって出演していたが、こちらもかなりいただけなく、せっかく楽しみにしていたドラマがぶち壊された心地がした。演技が未熟なのか、役柄に恵まれないのか、いずれにせよ私には納得できないものだった。おかげさまで、話の内容は全く記憶にない。

 余談になるが、北川景子も、顔だけで演技が下手くそだとずっと言われていた、と本人が言っていたが、今は私は下手くそだとは思わない(以前をよく知らない)。コメディを演じることができるということはうまいのだと思う。それに北川がナビゲーターのドキュメンタリーを観たことがあるが、とてもさっぱりとした元気な口調の人だ。その個性を素直に出すまでに時間がかかったのかもしれない。

 何を言いたいかというと、荒木にもまだまだチャンスはあるのかもしれない。が、こればかりは分からない。演技の上手い下手は、どうやら生来のものである可能性が高いのではないか、というのが私の最近の見解なので。

 

 加えて、岩田剛典も今ひとつである。岩田が演じる若宮潤一は、原作のワトソンくんの立場なのだと思うが……もしかしたら演技が未熟なのかもしれない。

 比較しては申し訳ないのだが、同じEXILE系でも町田啓太はいい俳優だ。朗読も上手で、NHKの「100分de名著」で私は彼の実力の高さに驚いた。ヤマザキマリが指南役だった「安部公房砂の女」の朗読だった。実は町田の朗読を期待していなかったので、そのうまさに本当にびっくりした。そしてこのときふと思ったのだった。演技や朗読の能力は、訓練で向上するものとは違うのではないか、と。

 俳優の好き嫌いは人それぞれだ。私の場合はこのように感じた次第。

 

 上にも書いたが、ストーリーはかなり違っている。原作を下敷きにしているのは確かなのだが、魔犬が出てくるのとタイトルから「あ、ドイルのあれか」と分かる程度ではないだろうか。あくまでも私は原作を読んでいないので、ネットのあらすじからの認識でしかないが。

 とはいえこの映画のストーリー自体は、これはこれで悪くないと私は思っている。

 離れ離れにさせられた親子とその復讐。

 娘が自分の本当の親が誰であるかに気づき納得する。その理由がそれまでの生育環境にあるところなど、観ている側も妙に納得してしまうはずだ。そして、どうしてそのようなことになったのか、そのあたりをもう少し丁寧に描いて、このシャーロックとワトソンのコンビをもう少しどうにかするか、あるいは全く別のサスペンスドラマにするか。さすれば大変見ごたえのある、そして感動的なドラマに変貌すると、私はとても身勝手に、そして真剣に思っているのだった。

「バスカヴィル家の犬」とツトム ©2023kinirobotti