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原作とドラマ〜その満足と不満足〜読んでから観る、観てから読むの功罪

 以前こちらで津村記久子の小説「この世にたやすい仕事はない」について書いた。

 

 映画「君は永遠にそいつらより若い」(2021年日本 出演/佐久間由衣 奈緒 他)を、そのタイトルと紹介文に惹かれてWOWOWで観ることになり、その後に原作者の津村記久子を知り、いくつかの本を図書館で借りたり、購入したりして読むことになった。それが私とこの作家との出会いである。ちなみに、小説だけではなくエッセイもとても面白い。

 小説をまずほとんど読むことのない(20代後半くらいから)私が、津村の小説を読んだ。映画で観た「君は永遠にそいつらより若い」が、原作小説ではどのように描かれているのかを知りたかったので。

 その経緯で「この世にたやすい仕事はない」も読んだ。そのとき、この小説がドラマ化(2017年NHK 主演/真野恵里菜)されていることをネット検索によって知った。真野恵里菜も好きだったこともあって、ぜひともこのドラマを観たい!と思った。

 しばらくしてNHKオンデマンドに入った。もちろん、このドラマのためだけに決めたわけではない。過去のドラマで観たいものもあったし、入ろうかどうしようかずいぶん以前から迷っていたので、その後押しにはなった(ぜ〜んぶの作品を視聴できるわけではないのがいささか不満)。

 

 そしていよいよ観た、のだが…、ちょっと期待はずれだった。小説ではもっとホラー感があった。それがほとんどない。

 ドラマはドラマで、ドラマ設定の伏線は最終話でしっかり回収されており、おそらく出来は悪くない…のだと思う。

 でも、どうしてこんな風に変えてしまったのだろう。どんどん引き込まれながら読み続けた小説のワクワク感がほとんどと言ってよいほどなかった。ちょっと退屈してしまう雰囲気も漂っていて、途中寝てしまったりもした。

 ハローワークでの主人公の担当者が実在していなかった風に終わるところにのみホラー感を集約させていたのが、いささか安易な展開、原作解釈とあえて言わせていただきたい。確かに不思議な登場人物ではあるのだが、そこかなぁ、と。加えて、主人公の復活というよくあるモチベ系の流れになっているところも、ちょっと私の感想とは違っていた。むしろ、そこじゃないところにサスペンス風の尋常ではない不気味さと面白さがあるのに。

 

 私はそこではたと思った(いまさらだが)。ドラマ化ってうまくいくときとそうでないときがあるのだな、と。原作者のファンが、ドラマ化に反対したり、不満を訴えたりすることはときどきあると思うのだが、その人たちの気持ちがすこし分かったような気がした。

 上に書いた「君は永遠にそいつらより若い」は、同じく津村の原作だが、それほどの違和感はなかった。小説も映画同様に堪能できた。大きく違っているエピソードもあったが、世界観はほとんど崩されていなかった。小説をこれほど夢中になって読んだのは、学生時代以来だった。

 

「君は永遠にそいつらより若い」は、映画が先だった。「この世にたやすい仕事はない」のほうは、小説が先だった。

 その違いもあるのだろうか。ドラマを先に観ていたら、ドラマはドラマで堪能して、その後小説の世界にあらためて浸ることができたのだろうか。残念ながら、今となっては証明のしようがない。

 よく、先に読むか先に観るか、で意見が分かれたりもする。どうなんだろう。作品にもよるのだろうし、映像化については、プロデューサーやディレクター、脚本家や演出家の解釈や思いや裁量、能力にもよるだろうから、別の人が撮影すればまた別の手法があるわけで。

 

 私の場合は、どちらかというと、後にも先にも「読まない」。物語は映像で観るのが(てっとり早くて)良いし楽しい、と思ってきたほうだ。

 ゆえに「原作とは結末が違います」などと謳われていても、よほどの興味感心を抱かない限り後から原作を読んだりすることはまずない。ただ、ドラマや映画のほうに不満が残るときには、その結末の違いをあらすじなどで知り得て、原作のほうがいいのにどうしてこんな風に陳腐にしてしまったのか、と思ったり言ったりすることはある。

 TBS日曜劇場で放送された「テセウスの船」(2020年 出演/竹内涼真 鈴木亮平 他)は、まさにそれだった(詳細はドラマエッセイに既述)。原作の結末のほうが断然良いと思った。テレビでは描きにくかったのだろうか。推理ものの場合は原作を読んでいる人には犯人が分かっているので、結末はオリジナルですなどとして視聴率を上げようという意図もあるのかもしれない。

 

「この世にたやすい仕事はない」を小説で読んだときに私の脳裏に浮かんだ主人公のイメージは、江口のりこだったのだ。そもそも真野恵里菜とはだいぶタイプが違う。その時点で、ドラマ制作側の意図と私の感想と想像の間には食い違いがあるようだ。

 

 私は、宮部みゆきのファンであるが、その小説を津村記久子の小説を読むようにむさぼり読んだことはない。「おそろし〜三島屋変調百物語」だけは読んだ。それは、ドラマを観たあとだった。あまりに面白いドラマだったので、その他のヒット作品も考え合わせると宮部みゆきは天才だなとえらく興奮して、図書館で借りて読んだ。

 ドラマはNHKBSプレミアムで2014年に放送された。主演は波留だった。これはドラマも小説も両方よかった。加えて言えば、ドラマの出来が非常によかった。作者の意図はしっかり踏襲されていると感じたし、むしろドラマは視覚にうったえかけてくるぶん分かりやすくもあった。雰囲気も十分に堪能できた。ついでながら、波留も良かった。

「ソロモンの偽証」などは読むが大変なので、映画とドラマで済ませている。推理ものなのに、何度観ても面白い。宮部みゆき作品の場合、これちょっと…と落胆するものには出会っていない(私が観た作品の限りでは)。原作を読まないからかもしれないが。

 

 原作の映像化ということで言えば、「はてしない物語ネバーエンディングストーリー)」は、原作者であるミヒャエル・エンデが映画製作者側を訴えた、ということがかつてあった。原作の意図と違うとかなんとかで。私としては、映画はとてもワクワクして面白かった(ただし一作目に限る)。小説のほうは長くて読むのが大変なので途中で挫折している。「ハリー・ポッター」を全部読んでいる人を尊敬する。

 

 漫画「ヒカルの碁」がアニメ化されたのは2001年。アニメを観ている途中でコミックを大人買いした。このアニメーションは、漫画に忠実に作成されていた。中学生のタバコがガムに変更されるなどの細かい配慮はあったが、ほぼほぼそのまんまだった。両方とも大満足で、コミックだけではなくDVDまで買ってしまうほど夢中になったのを覚えている。最近、中国で実写化された。何話か観たところ、社会背景がだいぶ違うので「そのまんま」ではないが、けっこう面白く仕上がっているようだった。録画して焼いてあるので、時間があるときにゆっくりと視聴する予定。

 

 なんだかんだと言って私の場合「物語」を楽しむなら、たいていは原作よりもドラマ、映画。ここに書いたように原作をも知り得ている、知り得た、という作品のほうが圧倒的に少ない。古典を除いてほとんどない、と言ってもよい。

 ゆえに「この世にたやすい仕事はない」は、ドラマから入っていたらはたしてどのような感想を持っただろうと、今となっては取り返しがつかない想像を思わず知らず働かせてしまうのであった。

 

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