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「テセウスの船」終〜黒幕はこの人なのか?〜音臼村の人々でファミリードラマを〜

最終話。

すべて回収されたか?

 

テセウスの船」TBS日曜夜9時

鈴木亮平竹内涼真榮倉奈々麻生祐未貫地谷しほり

 

タイムトラベルもののサスペンス。

2020冬ドラマが始まった時点で、このドラマが一番面白いとこちらに書いた。

面白かった。犯人は誰だ?過去は変えられるのか?と次回が楽しみになるのは、昨年日本テレビで放送された「あなたの番です」と似た雰囲気で引き込まれた。

 

サスペンスのみならず、ファミリードラマの要素も詰め込まれていた。最大の見どころは、死刑囚となっている父親・佐野文吾(鈴木亮平)を恨み続けてきた息子・心(しん・竹内涼真)の心の変化だろう。30年前の自分の家族、父の愛情の深さを知った。陽気で明るい母と仲の良い家族との生活は、心が平成の30年間で味わったことのないものだった。なぜなら心は、父が逮捕されたあとに生まれたので。心が知っているのは、マスコミに追いかけられ、周囲から非難され続ける暗い家族の生活だ。ゆえに父への恨みも大きかった。

 

最終話では、殺人事件の黒幕は誰なのかという推測をファンたちは楽しんでいた。私も、あれこれ考えていた。

原作とは違う、と竹内涼真たちが言っていた。

上手に回収してくれるといいなぁと、いささか心配しつつ最終話の日を迎えた。

 

……たぶん、これは回収しきれていない、と思う。

なんと言うか、サスペンス度を増すためにの怪しい演出が不必要に過度になってしまったのではないだろうか。

内容からしてそこまで演出せず、真犯人である少年みきおにより多く寄せて描いたほうが良かったように思う。

 

ネットで予想している人もいたが、この描き方だと村人全員が実は犯人でしたのパターンのほうがおもしろかったかもしれない。「オリエント急行殺人事件」みたいに。とはいえ文吾は、誤解だったとしてもそこまで全員から恨まれるような悪人ではないので、ちょっと無理があるかもしれない。悪人どころかむしろ善人だし。いや、善や正義だと思っていた行為がどこかで誰かを傷つけいた、という物語も悪くはないかもしれないが。

 

違和感①

田中正志(せいや霜降り明星)は黒幕なのだろうか?

子どもひとりでは無理な犯行もあり、結局のところ同様に文吾を抹殺したい大人の共犯者がいたわけだが、その関係性的伏線もあまりしっくりこない。というのも、共犯者・正志とみきおは、正志の家で何らかのきっかけで文吾をターゲットとする思いが一致したのだろうが、正志は「黒幕」と呼べる人物なのだろうか。その設定にするほどの存在感はないように思う。むしろ正志は、みきおの目的のために都合よく使われていたのではないかとさえ想像できる。ゆえに黒幕というよりも、怨念をみきおによって煽られて追い詰められて手伝うような経緯のほうがしっくりくるし、そのほうがみきおの不気味さも増してよいのではないか。

 

違和感②

みきおの扱いはこれでいいのか?

心が現代に戻って大人になっているみきおに会ったとき、みきおは自分が犯人だと話した。要するに、再び心が過去に戻ったときには音臼小事件の真犯人はみきおだと判明しているわけだ。

私が思うに、令和で鈴の夫となっている青年が加藤みきおだと判明し、さらにみきおが自分が真犯人だと吐露する驚愕の瞬間と、その事実を持って平成に戻った心とみきお少年との対峙が、実はこのドラマのサスペンス的見どころ、衝撃なのではないか。

だが、ここはドラマのクライマックスではない。

心は、事件を止めなければならない。もし止められなかったとしても、父親の逮捕を阻止しなければならない。

さらに、みきおの犯行動機。これは視聴者に知らせなければならない最大の要素だ。なぜ大勢の生徒を殺さなければならなかったのか。なぜ文吾を死刑囚にしたかったのか。ただの快楽なのか。

みきおの犯行動機と犯行方法を巧みに描くことで、まさかのサイコパス少年の仕業か?でもなんで?生い立ち?それとも?という謎解きサスペンスを視聴者は堪能できる。ホラー的にぞっとしたり、もしかしたらみきおに同情したりするかもしれないミステリーの醍醐味になる。

原作では大人のみきおも心につながってタイムトラベルして、大人のみきおが子どものみきおにアドバイスする設定らしい(やはり未来を変えたい)。

(私も実は、大人のみきおがタイムトラベルしているのではないかと推理していた。が、同じ時間に同一人物は存在できない、あるいは互いに会ってはいけないというルールめいたものがSFにはあると承知していたので、それはちょっと違反かもしれないなと思ったりしていた。けれども、「スター・トレック」でも別次元の自分と出会ったりしていたし……。心が過去に存在していられるのは、その時の自分がまだ母親のお腹のなかだから?とかいろいろ考えた。)

 

ここで違和感①に戻る。

「黒幕」とまで言うのであれば、原作どおりにしたほうが自然だと思う。真犯人は原作とは違うと謳っていたので、そうするためにはいわゆる黒幕をひねり出さなければならなくなる。そこで考え出されたのが正志だったのか。もちろん怪しさを増すために、村人それぞれに何らかの動機があるように見せていく、そのための背景は様々あっていい。その中のひとりに正志がいて当然だが、みきおの共犯者になりはしても、黒幕というほどにまでなるのだろうか。そのうえ、そのお陰様で、みきおの犯行とその動機が薄まってしまった。

正志が黒幕ということは、タイムトラベルする前の音臼小事件、21人の児童殺害にも正志ががっつり加わっていた、むしろ正志の意志と命令で行われたということになる。心が過去から現代に戻ったあとの世界で、正志は何者か(みきお)によって殺されたので、共犯者か事の顛末を知っている人物ではあることは間違いないという伏線はあるが、黒幕という立ち位置ではないと思う。黒幕だったら、逆になるはずだ。つまり正志がみきおを殺す。そのほうが自然だ。

最終話で正志は、1977年の村祭りで起きた死亡事故にたいして自分の母親がまるで殺人犯のように世間から責められて辛い思いをしてきた、妹も自殺した、そう叫んでいた。文吾を死刑囚にして、佐野家の面々にも自分と同じ思いをさせてやるのが目的だったのだろうということは分かるし、十分な動機にはなる。さらに言えば、このドラマのテーマでもある家族愛にも十二分に絡んでくるという観点から言えば、回収できた、のかもしれない。

文吾も最終話でその事件のことはすっかり忘れていたと言っており、前半でそれらしい伏線はあったものの、しかし、みきおの不気味さが描かれてきたなかでの「正志黒幕」という解決は、興ざめた場所へと視聴者を送り込んでしまった。少なくとも私を。

 

みきおの殺人動機と作戦変更の理由には、なるほど感が大きい。ドラマでは、心と文吾の事件阻止という必死の邪魔によって犯行の手口を変え、さらに鈴の様子を見て願望達成のために作戦を変えることにしたが、その点も、大人になった自分があの事件は失敗だったと思っているということを子どもの自分が知り得て作戦を変える、というほうが説得力があるし、ホラー感も増す。

ドラマでは、文吾の逮捕が鈴へのイジメを引き起こし、また鈴を悲しませてしまうことなのだとみきおが自ら気づき、作戦を変更する。それゆえ、これまでの事件について自白する。おそらくは文吾の冤罪を晴らしてあげるために。けれども、ちょっと幼稚なのか何なのか、そんなことをすれば犯人である自分に鈴が思いを寄せてくれるはずもないのに、父親を助けてくれた人という正義の味方にでもなれると幼稚で鬱屈した妄想を得たのか?それとも、純粋に鈴を助けたかったのか。心を黒幕に仕立てられるとでも考えたのか……。

ということで、文吾を死刑囚にすることができなくなったあとは、正志の復讐心は文吾殺害への向かう。それが、平成の音臼村での最後のシーンになるのだろう。

それはそれでひとつのストーリーではあるが、みきおの動機が明らかになる瞬間のほうが、黒幕という位置づけにされた正志が正体を現す瞬間より衝撃が大きかったように思う。

正志黒幕解決は、贔屓目に見ても色褪せ感を拭えない。

例えば、少年みきおが鈴のために計画を変更したと正志に話し、逆上した正志が文吾を殺しに行く、というようなラストにしたほうがすっきりする。

さらに言えば、正志をはじめからもっと怪しく描いて、黒幕はみきおだった、という解決編にしたほうが面白い。

 

違和感エトセトラ

校長先生(笹野高史)。最初から怪しい雰囲気は出していたが、最終話でそこまで演出しなくても……。スリル感は味わえたが。 

校長先生の家族問題も、絵を描くというシーンで伏線はあったが、最終話ぎりぎりまでじわじわと演出される校長の怪しさと、黒幕が暴かれるスリルにこだわったことによって、引き伸ばし演出感を免れず、面白さが半減してしまったようにも思う。

他の箇所でいくつもそういったじれったずぎる演出が目についた。過ぎたるは及ばざるが如しではないか?

 

金丸刑事(ユースケ・サンタマリア)を崖から突き落としたのは、みきおなのか正志なのか。

 

佐々木紀子(芦名星)は、心の最初の平成タイムトラベルのあとの令和で殺されたが、再度のタイムトラベルのあとはどうしているのか、元気なのか、気になる。2度目の平成へのタイムトラベルのときには、心は紀子に会っていない。

 

全てが変化したあとの、つまりテセウスの船状態になったあとの心の姉・鈴(貫地谷しほり)は、貫地谷しほりではだめなのではないか?整形して別人になった鈴が貫地谷しほりなので、特殊メイクをするか、もしくは配役を変えるべきだ。父親が殺人犯、死刑囚ではないので、たぶん整形していないだろうから。というより、物語の流れからして、整形していない鈴のほうが妥当だ。

 

さらに不可解なのは、みきおとみきおを養子にした木村さつき(麻生祐未)。

木村さつきが子どもにこだわるのは、高校生のときの妊娠と不幸な結末によるようなのだが、それも、校長先生があのとき助けられなくてと謝罪したのは、自分の息子と関係があるのか?

そしてテセウスの船状態になった令和では、さつきとみきおが、なんと笑顔で明るくカフェかなんかを経営している。

え?全ての事件はなかったことになったのか?

あのときみきおは逮捕されなかったのか?いや自白したのだから逮捕はされたのだろう。少年なので、早々に出所して生活しているということなのだろうが、それにしても、サイコパスなのにここまで更生している様子はおかしすぎる。

もしかして、少年サイコパスシリアルキラーというものがテレビ的、コンプライアンス的に難しいという理由からの緩和策?それゆえの、正志という黒幕設定?

 

そして当の正志はどうなってるんだ?

 

音臼小学校は、元の世界では廃校になっていたが、テセウスの船状態の世界ではどうなっているのか?元の世界の21人の児童が死んだ音臼小事件は起きなかったわけなので。

 

さらにさらに、心は、過去の世界で最後死んだのだろうか?そもそも平成に再度戻る前の令和の音臼小学校跡地で、心はみきおに殺されたのか?

平成で死んだとしても、母・和子(榮倉奈々)のお腹のなかにいる心が生まれてテセウスの船の世界を生きた、ということなのかな。

 

疑問ばかりが残るのでとても残念だ。面白かっただけに。

いや、タイムトラベルものはこんなものかもしれない。パラドックスに陥る。

 

視聴者のみなさんが満足できる最終話になっていると思います、と竹内涼真は番宣で言っていたが、上に書いた通り、サイコパスシリアルキラーとしての少年みきおの衝撃が薄れないような演出のほうが、私は満足だった。

家族全員が幸せに暮らしている、という「テセウスの船」には満足だったが。

 

これだけ書いてしまったということは、それだけハマって視聴していた、という証だ。

 

ストーリーとは関係ないが、榮倉奈々の特殊メイクがあまり上手ではなかったように思う。

 

竹内涼真鈴木亮平榮倉奈々で、ファミリードラマをやってほしい。

いや、この音臼村で、最近見かけなくなったファミリードラマがつくれそうだ。

 

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テセウスの船」 ©2020kinirobotti