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「この世にたやすい仕事はない」〜お仕事小説というよりミステリー小説

 久しぶりの小説。面白い。

 

「この世にたやすい仕事はない」

津村記久子著 

日本経済新聞出版 新潮文庫

 

「お仕事小説」という宣伝文句があったので、もうちょっと違った雰囲気の物語を想像していた。

 お仕事小説というよりも、ミステリー小説とでも言ったほうがいいような……。もっと分かりやすく言えば「世にも奇妙な物語」とか「星新一ショートショート」的な世界だ。

 帯には「ファンタジー」とも書いてあったようだが、それも違う。やっぱり「ミステリー」。

 

 主人公の語り手(30代半ばの女性)は、福祉関係の仕事をしていたが「燃え尽き症候群のような状態になってやめ、療養のために実家に帰っていた」。

 失業保険も切れ、いつまでもぶらぶらしているわけにもいかず、職探しを始める。ハローワーク(だと思うのだが)の担当の相談員に「一日スキンケア用品のコラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」とふざけたことを言ってしまう。が、相談員は「あなたにぴったりの仕事があります」と言う。

 紹介されたのが「みはりのしごと」「バスのアナウンスのしごと」「おかきの袋のしごと」「路地を訪ねるしごと」「大きな森の小屋での簡単なしごと」。

 どれもひとりで黙々とできる仕事なのだが、仕事(場)の特徴や状況が次第に語り手の負担になり、これらすべての仕事を順番に紹介されてやっていくことになる。

 

 上記のように、相談員はそのつど語り手に合っていると思われる仕事を、結局は5つ(最後の偶然まで含めると6つ)も探してくれた。こんなに面倒見のいい相談員はどこにいるんだろう、と私は思いながら読んだ。

 本当にこれらのような仕事が存在しているのか私には分からないし、あまりに奇妙なので、実生活に役立つとか、あるいは社会性のある小説でもない。

 この相談員がそもそも不可思議な存在だ。すぐ仕事を見つけてくれるし、それらの会社の内実も知り得ているような喋りっぷりだ。だからといって、語り手に何か教訓を与えようというのでもない。

 

 それぞれの仕事場でのミステリーはぜひ読んで楽しんでください。ここで私が詳しくあらすじに伴った感想を述べてしまうのはよろしくないと、この小説に限ってはとても思うので。

 

 全体として言えば、主人公である語り手の働きぶりは、好奇心旺盛でのめり込みがちなので、「燃え尽き症候群のような状態になってやめた」という告白には頷ける。

 どの仕事にも、ミステリアスな人物と現象がつきまとう。それをつきとめようとしたり、解決しようとしたり、語り手の孤軍奮闘は妄想的ですらもある。しかしそれらは決して妄想ではないのだ。

 

 小説としては、読み始めから「なんだろうなんだろう」という気持ちでぐいぐい引き込まれる。「君は永遠にそいつらより若い」もそうだったが、作者独特の文体も大きく影響しているだろう。

 あれこれ思考を巡らせながら仕事にのめり込んでいく語り手についていく読者も、くたびれる。精神的にもそうだが、物理的にはすなわち、読むのやめられなくなるので身体と眼と頭がバキバキに疲労する。

 

 「おかきの袋のしごと」をやめた理由には、同感した。せっかく気に入っていた自分の仕事場をあとから来た誰かに奪われるような感覚。私もそれは耐え難いかもしれない。モチベーションが下がる。

 

 なんと、2017年NHKBSプレミアムでドラマ化されていることを知った。

 ドラマは全8話。ひとつのエピソードを2回に分けて放送。小説では一番最初に働いた「みはりのしごと」は、ドラマでは描かれていない。

 主演は真野恵里菜

 この小説を読みながら私の想像に入ってきた語り手の俳優は、江口のりこだった。ぶつぶつ考えながら前進していく様が江口っぽいと思った。

 真野恵里菜が演じる主人公は、どのような按配なのだろう。

 NHKオンデマンドと契約して視聴しようと思っている。早速。

 

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