ねことんぼプロムナード

タロット占い師のetc

2022年夏ドラマ(下)+(文句の番外編)〜「初恋の悪魔」「オールドルーキー」「拾われた男」「魔法のリノベ」

「初恋の悪魔」土曜夜10時日本テレビ

脚本/坂元裕二

出演/林遣都 中野太賀 松岡茉優 柄本佑

 なんというか、奇想天外な刑事ドラマ。ミステリアスコメディ。

 上記4人は、殺人事件の捜査に加わることのできない刑事と警察職員。摘木(松岡)は元県警捜査一課だが現在は生活安全課。鹿浜(林)は停職処分中の刑事。馬渕(中野)は総務課の職員。小鳥(柄本)は会計課の職員。この4人が、こっそりと聞き込みをしたりしながら鹿浜の屋敷に集まり、事件現場の模型をつくってバーチャル捜査をして犯人を特定していく。手柄はそっと刑事課に渡す。

 加えて登場人物たちの謎の伏線もあり、それがどう判明し、解決されていくのかという好奇心も十分に湧く。

 私は「問題のあるレストラン(2015年フジテレビ)」から坂元裕二のファンになった、と記憶している。その後は「カルテット(2017年TBS)」そして昨年2021年フジテレビで放送された「大豆田とわ子と三人の元夫」を興味深く視聴した。大変おもしろかった。そして良質のドラマだったと思う。「2022年夏ドラマ(上)」にも書いたが、「カルテット」で「夫」「夫さん」をセリフに入れて日常化していた坂元は、今回のドラマでは、刑事課その他にも自然と女性を入れ込んでおり、自然な映像、風景となっている。日本の刑事ドラマの映像の多くが男ばかりであることが目立って気味悪いなか、気持ちの良いドラマだ。

 

「オールドルーキー」日曜夜9時TBS

出演/綾野剛 芳根京子 中川大志 榮倉奈々 反町隆史

 飛び抜けてすばらしいというほどでもないが、それなりに面白い。最近日曜劇場に多いタイプのサスペンスや過激演出のドラマではなく、いわゆるヒューマンドラマの部類に入るのだろう。

 元日本代表のサッカー選手だった新町(綾野剛)が、ある日突然所属チームが解散して引退を余儀なくされ、ひょんなきっかけでスポーツマネジメント会社で働くこととなった。スポーツ選手をマネジメントするあたって、彼らの抱えるさまざまな問題や要望、希望と向き合い、常に選手に寄り添ったよりよい解決方法を見出していこうとする新町が、お金第一主義の業界のなかでひときわ人間らしさをじんわりと醸し出す。

 殺伐とした昨今、ヒューマンドラマ、ファミリードラマが減っているなか(ご都合主義の展開はドラマなのでさておき)、両方楽しめるドラマだ。余談だが、そういう意味でも前記事で言及した「となりのチカラ(2022年テレビ朝日遊川和彦脚本/松本潤主演)」も良かったのである。

 

「拾われた男」日曜夜10時NHKBSプレミアム

原作/松尾諭

出演/中野太賀 伊藤沙莉 鈴木杏 薬師丸ひろ子 草彅剛

 これは面白い!

 俳優・松尾諭の半生(?)が綴られたエッセイをドラマにしたもの。松尾の役を中野太賀が演じている。中野は10キロほど太ってこのドラマに臨んだ。中野はどちらかというと小柄の役者だが、大きな松尾を松尾らしく演じることができていて、ときどきどっちが松尾でどっちが中野か混乱するほどだ。

 とにかく、松尾諭が俳優になってそこから売れていく過程、様子が面白すぎる。というかミラクルすぎる。

 そもそも事務所の社長(薬師丸ひろ子)との出会いが、自動販売機の下に落ちていた航空券を拾ったことからはじまるのだから、俳優を目指していたとはいえ、いくらなんでもそんな出会い方あるのか?とにわかには信じがたい状況だが、本当の話だということで、やっぱり奇跡ってあるんだな、と思わざるを得ない。松尾の強い思い(本当に強い思いがあったのかいささか疑惑だが)と、もしかしたら役者を探していた事務所の社長の思いが互いを呼び寄せたのだろう、といわゆる「引き寄せの法則」的には説明できる。

 ここまで劇的ではないにしろ、世の中の仕組み、人生の流れというのはこういったシンクロニシティで進んでいっているというのは確実なのだと思う。誰でも思い返してみれば、今自分がいる場所、していることは気づきの大小にかかわらず、何らかの「縁」というものを介してそうなっていると言えるのではないだろうか。

 松尾の持ち前の明るさと人懐っこさゆえか、映画のちょい役でもラッキーなことが起きる。そして次第にメインな役を獲得していき、結婚し、レンタルビデオ店でのアルバイトをやめていく。

 劇団乾電池や井川遥など、ちょいちょい本人が本人役で登場するのも見どころだ。

 井川遥とのエピソードはなかなか内容が深い。松尾は井川が癒やされキャラとして多忙だったとき井川の運転手をやっていた、その時代のエピソードだ。私は、NHKテレビの「フランス語講座」に出演していた井川遥には馴染みがあるのだが、そのころこんな様子だったんだな、と今更ながら知ることとなった。そういえば、井川遥密着取材の番組をどっかで放送していたが、あのとき黒っぽいバンから井川が「おはうようございます」って降りてきたけど、運転していたのは松尾だったのか?もしれない。

 妻役の伊藤沙莉との掛け合いも絶妙だ。

 コメディのなかに人生の苦悩までしっかり描かれていて、良質のドラマに仕上がっていると思う。原作エッセイを読んでみたくなった。

〜〜〜〜〜

 

番外編 ちょっと文句な……

 この夏は面白いドラマがいっぱいだな、とけっこうわくわくしていた。が、すでに視聴を中止したドラマもいくつかある。

「魔法のリノベ(月曜夜10時フジテレビ)」

ユニコーンに乗って(火曜夜10時TBS)」

「プリズム(火曜夜10時NHK)」

 そもそもはじめから観ていないものはのぞく。

 

「魔法のリノベ」は波瑠が主演なので、楽しみにしていた。が、1話目からがっかり。

 いち視聴者として、いち波瑠ファンとして言うことを許していただけるのなら、波瑠は出演するドラマをしっかり選んだほうがいい、と思う。

 コロナ感染拡大直前からここまでをあえて振り返る。「G線上のあなたと私」「リモラブ」「ナイト・ドクター」「愛しい嘘 優しい闇」「未来への10カウント」「魔法のリノベ」。

「G線上のあなたと私」は、登場人物たちの揺れ動く心が上手に描かれている上質のドラマだった。「リモラブ」は、まさにCOVID19只中の2020年秋ドラマ。ドラマのなかでも感染防止中の会社と人々が描かれており、波瑠は産業医の役。コメディタッチの愉快なドラマだった。「ナイト・ドクター」もまだ良かった。十分視聴に耐えた。

「愛しい嘘 優しい闇」は申し訳ないけれど駄作だった。3話くらいまで観てやめて、そのあと犯人が知りたかったので最終話だけ観るという邪道なことをした。「未来への10カウント」は主演俳優が好みではなくそもそも観ていないので、評価できない。

 そして今期の「魔法のリノベ」。1話目で離脱した。

 コメディも演じることのできる波瑠さん。演技はうまいと思うんだよね。朝ドラ「あさが来た」は、ほめすぎになってしまうかもしれないが、ものすごく良かった。コメディな演技というのはシリアスな演技よりもずっと難しいと(素人ながら)思っている。それを見事に演じていた。

 同じNHKBSプレミアム)で2014年に放送された「おそろし〜三島屋変調百物語」も大変すばらしかった。これは、原作が宮部みゆきなので、物語自体が秀逸だったこともあるが、私は波瑠のこういう演技も好きだ。

 映画では、2020年3月に公開された「弥生、三月―君を愛した30年―」の弥生役もすばらしかった。こちらも遊川和彦脚本監督なので、ストーリーも描かれ方も傑作だったのですばらしいと思うのかもしれない。が、それも含めていちファンとして、出演作品を選んでほしいという願いを心から抱いてしまったのは、直近作品から今期への流れのなかで、なのである。

 

ユニコーンに乗って」「プリズム」は、背景を壮大な感じに設定しているが、実質はチープな恋愛ドラマだと見限った次第。

ユニコーンに乗って」は、アカデミー国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」の主演俳優である西島秀俊が出演するというので、楽しみにしていた分、落胆が大きい。ついでながら「ドライブ・マイ・カー」はすでに観たが、その良さがよく分からなかった。私にとっては面白くない映画だった。

 

 夏ドラマ終了にあたって、また批評、感想を書く予定です。

テレビを観るツトム ©2022kinirobotti