ねことんぼプロムナード

新しいルネサンスの小径

映画「弥生、三月―君を愛した30年―」〜人生のパノラマ〜

日本映画。久しぶりに惹き込まれた。

ちょうど、Netflixで「シカゴ7裁判」(2020年アメリカ)を観ていたく感動しており、日本の映画はやっぱりハリウッドにはかなわないよなぁ、などと偉そうに考えていたその3日後にWOWOWで録画していたものを観たのだった。

 

「弥生、三月―君を愛した30年―」

2020年

脚本監督/遊川和彦

出演/波瑠 成田凌 杉咲花

 

まず、え?「おちょやん」成田凌杉咲花

この二人、すでにここで共演してたのですね。そもそも「おちょやん」(NHK朝ドラ・これを書いている2021年3月現在放送中)には主人公・千代を演じる杉咲花の、記憶に残る(私にとって)共演者が出てくる。千代の師匠となる山村千鳥一座の山村千鳥はハケン占い師アタル」で杉咲が演じる主人公・アタルの母親役の若村麻由美。一平(成田)の母親は「ハケン占い師アタル」で杉咲が共演した板谷由夏板谷はアタルが働くことになったイベント会社の上司(課長)。「ハケン占い師アタル」は2019年にテレビ朝日で放送された遊川作品。「おちょやん」の脚本は遊川ではないが、遊川作品の常連と重なるところに良くも悪くも目がいってしまう。

「弥生、三月」では山田太郎、通称サンタ(成田凌)の母親役の黒木瞳も遊川作品常連だ。

遊川作品ということで言うと、弥生(波瑠)の夫となる白井琢磨を演ずる小澤征悦も「ハケン占い師アタル」でのアタルの同僚だ。

主演の波瑠よりも杉咲花との縁の深さを感じてしまう本作品だが、一方でスポンサーに大同生命とあったので、やっぱり波瑠かぁ、と納得。波瑠は朝ドラ「あさが来た」(2015年NHK)で大同生命創始者広岡浅子をモデルとした白岡あさの生涯を演じて、高視聴率をあげている。これは大同生命のイメージアップにものすごくつながった作品だったと思う。朝ドラのあと波瑠はこの保険会社のCMに起用されている。

 

波瑠はいわゆる大女優と言っても過言ではないのではないか、と波瑠ファンの私としては贔屓目に観させてもらった。

この映画では、波瑠の演技力の高さを目の当たりにできるシーンをいくつも観ることができた。

私が波瑠という存在に気づいて注目したのは「相棒」テレビ朝日)だった。シーズン11の11話元旦スペシャル(2013年)「アリス」。過去と現在、そしてファンタジーと社会性の入り交じる物語で、内容も展開もよくできたストーリーだった。波瑠は現代世界で元ホテルのオーナーだった家の若き当主・茜役。ちなみに、昭和30年(1955年)にそのホテルから行方不明になってしまう元子爵の令嬢で高校生の瑠璃子広瀬アリスが演じており、こちらも大変よかった。

そのあと救命病棟24時とか「ごめんね青春」とかあったが、「あさが来た」以外では宮部みゆき原作の「おそろし」(2014年NHKBSプレミアム)、私はこれをかなり気に入っている。最近では「G線上のあなたと私」(2019年TBS)が他の出演者ともどもよい出来栄えのドラマだった(特に松下由樹が好演だった)。

直近では「リモラブ〜普通の恋は邪道〜」(2020年日本テレビ)が“妙に”面白かった。恋愛ドラマだし…と期待しておらず、波瑠が出演するというだけで視聴することにしたのだが、期待ハズレに面白かった。コロナ禍の社会状況を上手に取り入れたドラマ。他にもリモートドラマなど創意工夫のドラマがいくつかあったが、これは自然に描かれていて楽しめた。そしてコメディーだった。波瑠はコメディーを演じさせてもうまい、と私は思っている。コメディーが上手な俳優はうまい俳優だと私は勝手に評価している。たまにコメディーなのに(なのだろうが)全く愉快ではないドラマにぶち当たって苦痛になることがある。脚本のせいなのか、演出のせいかなのか。それもあるだろうが、俳優が下手なのだ。コメディーを演じられていないのだ。普通の二枚目役は大根役者にもできる。だが、コメディー作品には演技力が問われる。

コメディータッチのドラマはハリウッドがうまい。役者なのか台本なのか、言語や文化の違いなのか、そのあたりは探究中です。

 

さて、そもそも恋愛ドラマ嫌いの私だが「弥生、三月」のような恋愛ドラマなら見ることができる。恋愛ドラマというよりも、私は「人生ドラマ」と受け取ったが。

「リモラブ」とは正反対の全くのシリアスドラマだが、遊川の脚本が静かに唸りながらぐいぐいと観る者を引き込み、30年という歳月を流れに乗せていく。2011年にはもちろん東北の震災もあり、それも登場人物たちとともに体験させてくれる。

高校時代の親友であるサクラ(杉咲花)の死からの30年間。弥生(波瑠)とサンタこと太郎(成田凌)、二人の人生の展開が、希望と悲哀のなかで描かれていく。

 

遊川作品で例えると、純と愛(2012年NHK朝ドラ)」「同期のサクラ(2019年日本テレビ)」「35歳の少女(2020年日本テレビ)」の要素が詰め込まれている感じ。

夢と毒親と死(意識不明)と再生の物語の集大成かなと「35歳の少女」を位置づけようと私はしていたのだが、この映画が描かれていたことを知らなかった。制作は「35歳の少女」の前になるのだろうと考えると、「同期のサクラ」「弥生、三月」「35歳の少女」という順番で捉えることができるのだろうか。なるほど。

もちろん脚本はいつ書いたのか知らないが。そもそも「同期のサクラ」の主人公はサクラ(高畑充希)だし「弥生、三月」でもサクラ(杉咲花)が登場する。「同期のサクラ」では意識不明で病院のベッドに横たわるサクラに向かって登場人物たちがそれぞれの過去を語る。「弥生、三月」では桜の木の前のサクラの墓前で弥生もサンタも自分を吐露する。「同期のサクラ」では、最終話、桜の木の前に集まった仲間たちがそれぞれの道へと旅立っていく。「弥生、三月」でも、最後は桜が満開だ。

 

1986年3月からの30年間の3月のある日が描かれている。

すれ違う二人と、30年後に蘇るサクラからのメッセージ。このテープのメッセージという設定は「35歳の少女」に通じるものがある。「35歳の少女」では、過去(小学生)の自分自身からのメッセージ。

遊川ファンなら意味深な繋がりを感じる場面が多々ある映画だ。

 

時が進んでいくなかで次第に過去と交錯していくという描かれ方が、人生の切なさをより浮き立たせる。

ネタバレをしたくないので詳しくは書かない。ぜひ観て、そしてそれぞれの感覚で堪能してください。

弥生と父親の関係について本当は思いっきり語りたいところなのだが、ここでは我慢。またいずれどこかで取り上げるチャンスがあるかもしれない。そういえば「純と愛」の父親の毒もひどいものだったなぁ。

毒親が描かれるとき、ドラマの最後に、実はいい人だった的な回収の仕方はどうなのかなぁ、とは思っている。

 

高校の卒業式から30年なので、もちろん映画のクライマックスの二人は若くない。老けメイクが自然な仕上がりで大変よかった。

そして最後の最後、まったくの始まりの時に戻るという、この運命と、そしてよく言われるところの運命のいたずら。

いや、いたずらでは済まない重々しい出来事の数々。それが人生なのか。

タロットカードNo10「運命の輪」は、ラッキーでシンクロな出来事を予感させるが、うっかりすると運命に翻弄されるという意味を伝えてくる。

 

音楽は平井真美子森山直太朗の妻)。

このピアノの音色を聞くと「ハケン占い師アタル」「同期のサクラ」などが蘇る。

 

ついでながら、

冒頭で言及した「シカゴ7裁判」ベトナム戦争時の実話に基づくアメリカの法廷映画。ぜひこちらもお勧めします。出演者も台本も演出も、すばらしいと思いました。

 

余話

副題に「人生の機微」と書いたが、アップ直前に「パノラマ」に変えた。機微だと泥臭い私小説なイメージが私にはあるゆえ。

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「弥生、三月」 @kinirobotti