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タロット占い師のetc

占い〜密かな反省〜

精神科医である香山リカのコラム「相手を尊重するとは」の次のような一節が目にとまりました。

(略)よく考えるのは「患者さんの家族に診察室に入ってもらうかどうか」の問題だ。

精神科では基本的に、患者さんはひとりで診察室に入ってもらい、面接を行う。中学生でも高齢者でも、(略)。

本人がなにを困っているのかが大切だし、本人と家族の思いが違う場合もあるからだ。

(「香山リカのココロの万華鏡」

毎日新聞2021年2月16日)

このあと、ずいぶん昔の出来事として香山自身の体験談が続きます。

息子夫婦に連れられて来た70代の女性。認知症かもしれない。息子たち同席のもとに検査を進めた。質問への答えがちぐはぐで、認知症を疑った。

ところがあるとき、孫が熱を出したと息子夫婦の付き添いなしでその女性がひとりで診察に来た。

「実は息子たちに知られたくない悩みがあるのです」と女性が語り出したのは、なんと、恋バナだった。

女性は認知症ではなく“秘めたる恋”で気持ちが沈んでいるのだった。私は、最初に女性ひとりの話を聞かなかったことを後悔した。

けれども内科診療でも「まずは患者さんおひとりで」と言ったところ、「娘のことをいちばん知っているのは母親の私です」と言われたこともあったという香山。

からだの症状に見えて実際には誰にも言えないストレスが原因ということもあるので、本当は「まずはひとりで」がいいような気もする。

 

精神科の専門書には「たとえ認知症の患者であってもまずは本人ひとりと面談」とあるそうです。

家族としては、付き添うのか、まずはひとりで診察を受けてもらうのか「どちらがいいという答えはないが考えてみてほしい」と病人の家族の側に問いかけて、コラムは締めくくられています。

 

占いも同様のことがあるなぁ、とこれを読みながら思い、過去に出会った何人かの相談者さんの顔が心を過りました。いえ、はっきりと顔を覚えているわけではないのですが、そのときの状況写真のような映像は私の目の奥に残っています。占いをしたあとに、とても気がかりだったので深く記憶に残っているのでしょう。すなわち香山が書いている「私は、最初に女性ひとりの話を聞かなかったことを後悔した」という感覚と似ていると思います。

私の場合、後悔とは少し違います。何しろ「占いはまずはおひとりで」とは言い難いし、医師のようにこちらから要求できません、一般的には。

 

占いをしにくる相談者さんの多くは「おひとり」でいらっしゃいます。悩み相談ではなくたとえ運勢のみでも、誰にも聞かれたくないかもしれませんし(運勢を聞きながら悩み事を話すかもしれません)、ときに占い師という通りすがり系の人間になら話せるといった類いの話題もあるでしょうから。

相性を知りたいとか、共通の悩み事ということで二人で来られるのは、恋人同士や夫婦です。

友人で2人、3人、4人とグループでいらっしゃる場合もあります。その場合は2種類あります。ひとつは、娯楽気分の方々。この方々は全員でひとりの占いを順番に聞いていたりします。ときどきちょっかいも入れたりしますが、自分の番が終わって待ち時間が長くなるとソワソワしたり、席を外したりする人ももちろんいます。もうひとつは、互いに尊重しあって、ひとりの人が占っているときには、別の人(たち)は少し離れた所で待機しながら、読書をしたり、スマホを見たり、もうひとりの友人とお喋りしたりしていたり、あるいは別の場所で時間をつぶして終わったころ戻ってくる(スマホで連絡し合って)という人もいます。どんなこと言われた?と、あとでお茶などしながら、当たり障りのないことは話したりしているのかもしれませんが。

 

占い師としては(私の個人的見解です)、基本的には「ひとり」がいいと思っています。が、「占いはしないけれど付き添いです」という相談者さんのご友人にとても助けられたこともありました。けれども今考えてみますと、そのご友人の助け舟によって、実は「正直なところ」という対話ができなかったということもあるかもしれません。こればかりは、判断が難しいですね。ただ、その時はそれで良かったように感じています。あとで気がかりになりませんでしたし。

 

問題があるときは、占いの最中から起こります。

友人、親子、夫婦。

それぞれ印象深い出来事をひとつずつご紹介します。

 

友人と2人でいらした若い女性。夢があって、そのことを続けていくべきかどうか考えていました。カードに尋ねると才能がありそうでした。なので諦めないほうがいいと助言しました。物理的にもまだまだ若いので十分にチャンレジできそうです。いろいろ挑戦してみたら、などと話していると、彼女の友人の様子がとても気になりました。マイナスな感情を思いっきり発していたのです。変だと思って少し話を振ってみたりしたのですが、良い反応ではありませんでした。反対しているのか、嫉妬なのか、どうでもいいと思っているのか。相談者さんの方は、この友人を信頼しているようでした。が、「このあなたのお友だちは決して応援してくれないし、いっしょにいたら夢を潰されてしまうかもしれないよ」そんなドラマチックな妄想的呼びかけまで浮かんでしまいました(こういうときの私のカン、たいてい当たるんです)。

私は心のなかで「後日もういちどおいで」と叫んでいました。ちょっと弱々しい雰囲気で、友人に遠慮しているような様子も見え隠れしていたからです。なので、「ひとり」のほうがいい、と思ったのです。

占いに行く、というのはちょっと勇気が必要かもしれません。なので、誰かが付き添ってくれれば行きやすい、ということもあるのでしょう。そう思いますと、やむを得ないのかもしれません。私も10代20代の頃はそうでした。

今思えば、一期一会を念頭に、思い切って「ごめんね、ちょっとお友だちに席を外してもらってもいい?」とかなんとか提案すればよかったですね。たぶんですけれど、この友人に相談したところ何か言われたのでしょう。それで占いでも行ってみる?となって。でもこの友人は私が言ったようなポジティブな助言は予想していなかったのだと思います。むしろ否定される、と。否定されることを期待すらしていたかもしれません。記憶は定かではないのですが、いろいろな人がいろいろなことを言うかもしれない、周囲の助言もありがたいことだけれど、まずは自分がどうしたいのか、何ができるのかを自分で考えて、自分の気持ちを大切にすることだよ、というようなことを語りかけたと思います(伝わってくれぇ、と念じながら)。

でも難しいですね。友人の占いを聞きながら、自分も聞きたいことある、ってなる人もいるので。そのときはその人の相談のチャンスを奪ってしまうことになりますからね。え?売上的な問題だろうって?もちろんそれが全くないとは言いません。私も一生懸命仕事をしているので。

冗談はさておき、毅然として彼女をひとりにしてあげるべきだったかな、というのは反省ではあります。けれども私が提案しても本人が望まないかもしれません。そうなったときはちょっとやりにくくなっちゃいますよね。あるいは、その後の彼女たち二人の関係まで忖度してしまいます。

 

親子の場合はどうでしょう。

お子さんがあまりに小さい場合は、占い師と一対一というのはなかなか厳しいものがあります。その場合はお子さんが聞きたいというよりも、親御さんがお子さんの運勢だったり性質だったりを知ってこれからの参考にしたい、という場合のほうが多いですので、付き添っての占いに問題はないと思います。

けれども、11歳12歳より上ともなりますと、ちょっとややこしくなってきます。純粋にお子さんのことを知りたいという気持ちで寄り添っている親御さんは良いのですが、そうではない場合が悩ましい。

この例は親子ではなく、祖母と孫でした。占いの最中、この祖母がどうしても自分の思いのほうへ誘導するかのような発言をちょいちょい挟んできます。そして、おばあちゃんの言った通りだろうと孫に同意を求めるのです。孫もどちらかというとハキハキとしたしっかりタイプのようで、質問もきちんと自分でします。それでも祖母に押され気味でした。押されているというよりも、おばあちゃんのことを日頃から頼りにしている、そういう関係なのかもしれません。孫は中学生だったか翌年から中学だったか、そのくらいの年齢でした。男の子でまだ変声前でした。何をやりたいのかは明確に教えてくれませんでしたが、どうしてもやりたいことがあって、どのように進んでいったらいいかという問いかけだったと記憶しています。目標の選択というよりも、そこへ到達するまでの道のりについての祖母の意見が強い、という感じでしょうか。なので私は心のなかで「本当にそうしたいの?それでいいの?」と叫んでいました。祖母の意見が良いことだと納得しようとしているように私には見えたからです。

私も努力したんですよ。それでいいのか確認しようとしたり、素直な思いを引き出そうとしたり、どこかで心が変わったら別の道もあるんだよ、決めつけなくていいんだよ、と何気に言ってみたり。でも、祖母が都合よく解釈した翻訳を大きな声で孫に伝えるので、どうにもなりません。この祖母と孫の場合は、ちょっとひとりで占ってもいいですか?などと言おうものなら、祖母の反感を買ったと予想しますが、意外と素直に従ってくれたかもしれない、と年月が経った今はちょっと思っています。

この子はまだ子どもなので、あとでひとりで来る可能性はまずないということは分かっていますが、もし気が向いたら来て、と思いました。中学生でもひとりで来てくれる人もいます。

 

さて、恋人でも夫婦でも、別れたいというときはひとりで来るでしょうから、二人で来るときはうまくいっているとき、のはずです。

たまにそうでもないときもあるので、厄介です。

このカップルは、とある都内のカフェで私が占いをしていたとき、そこの店員さんから紹介されたのでした。

仕事や二人の関係についての相談でした。カードを見たところ、男性のほうの愛情に問題があるように見えました。なのでやんわりと男らしさも大事だけれども、優しさとのバランスを取ることがもっと大事だというようなことを話したと思います。女性のほうは、やりたいことがあるようでした。じっとしているよりも動きたい感じ。

二人がときどき話す様子を見ていると、男性のほうが一方的に女性を支配したがっているようでした。よい状況なのだと納得させようとしているように感じました。カードからもそれは読み取れましたが、二人を前にしてスバリ言うわよ、とはできません。

このときはまだなりたての初々しい占い師でしたが、ああ、夫婦とか恋人は、問題を抱えている場合は個別にみるべきだな、と思ったのを覚えています。けれども「一緒に」というご要望でしたらそれに逆らうことはできません。とはいえ、夫婦でも恋人でも、一緒に占うことが良い場合もしばしばあります。占いの場合、相談者さんのご希望に沿うのがある意味で、香山リカがコラムで書いている「尊重」のひとつに当たるのかもしれません。

確か、結婚が決まっているとこの二人は言っていたと記憶しています。二人の間でもすでに何らかの話し合いめいたものがあったのかもしれません。それで占いによって彼女を安心させたい、その気持が強かったのかもしれません。

女性のほうがひとりで占いに来ていたら、おそらく「別れたいなら、疑問を感じているなら、いったん立ち止まったほうがいいかも」と私は言ったと思います。そして、もし別れたくないならという場合のアドバイスもできていたでしょう

女性の浮かない表情が気にかかりました。多くの相談者さんが占いのあと元気な表情になってお帰りになる、その様子を頻繁に見てきた今でも(もちろん全員ではありませんし、自慢でもありません)、いや今だからこそ、気にかかったままです。このときは、この彼女、あとからひとりで見てあげたいな、と思いました。上手い人なら、ささっと彼女にすり寄ってなにかメッセージを渡すことができるのでしょうね。私は不器用なのでできません。そういうことをすると必ず失敗します。

トリッキーな人のほうが占い師向きなのかもしれませんね。その点、私は真面目すぎます。

 

香山リカはときどきコラムで、過去の後悔や反省を書いています。あんなにたくさんの本を出版している精神科医香山リカでも、いまだに悔いていることや反省事があるのだな、と思いますと、私の心も楽になります。

 

3つの体験談について書きましたが、私のスタンスは基本的には「いっしょでいいですか?」と問われたら「あなたたちがよければ」です。

ただしここでちょこっと喚起しておきたいのは、自分の悩みならできるだけひとりで占ってもらったほうがいい、ということです。親でも友人でも兄弟姉妹でも誰でも、誰か隣りにいると、どうしても遠慮したり本心が言えなかったりするものですから。これは人間の当然至極です。もしかしたら、友人には知られたくない事を、占い師がぽろっと言ってしまうかもしれませんし。

もし、誰かに付き添ってもらったとしても、もう一度(もう知ってる占い師なのですから怖くありません)、訪れてみることをおすすめします。占い師の応答も変わるかもしれませんし、なにより相談者自身の質問や感じ方が変わると思います。

 

もっと言えば、自分の「ほんとう」を知りたかったら、読書などしつつ、世間の喧騒から離れて、静かに静かに自分の心と対話することです。それは、タロットカードNo9「隠者」のエネルギーです。

そこまでお連れするのが、タロット占い師の役目だと私は思っています。

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