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死神幸福論~手っ取り早く自分のやりたいことを知るために③~死の期限を知る2つのテレビドラマ~

承前)

 

1年後でも6か月後でも、自分の人生の期限が迫っていることを知ったとき、人はどうするでしょうか?

前述の「僕の生きる道」とも重なりますが、以下にご紹介するテレビドラマのエピソードは、戸惑いよりも「何をするか」に重点が置かれた秀作です。

 

「フラジャイル 病理医岸京一郎の所見」2016年フジテレビ
脚本/橋部敦子(原作/草水敏 作画/恵三朗) 主演/長瀬智也

第5話「余命1年の宣告通知 難病の青年の夢よ叶え 命を諦めない診断」
ゲスト/安田章大

末期癌で余命1年の宣告を受けた小早川洋行(安田章大)は、保育士をやめる。積極的治療は望まず、緩和ケア科へ入院。ひとつ治療方法が残されていたが、莫大な費用がかかるので諦めている。
そんな小早川と臨床検査技師の森井(野村周平)が出会う。
やりたいことはないのか?と問われて何もない、と言っていた小早川が、森井に心を開き、実は音大に入って作曲の勉強がしたかったんだ、と話す。
森井も打ち明け話をする。国立大学に入れるほどの頭もなくて三流の私立に入ったが、実家の商売が傾いて中退。この病院の奨学金で医療専門学校に通い、病理技師になった。だから、自分は医師ではないのだ、と。
二人の青年の希望と後悔が交錯する。

「人生の選択肢がお金のあるなしで決まるなんて……」
お金がないのを理由に諦めるな、と小早川に高額治療方法をすすめる森井。説得に応じたが、残念ながら適合検査を通らなかった。
小早川は、残された時間で曲をつくることを決意。素晴らしいインスピレーションを受けて、病室で夢中になって曲を書く(このシーンはとても美しく描かれていました)。
その後、買い物で外出したとき、しんどくなった身体を休めていると、上の道路から保育園で受け持っていた園児が、「せんせ~」と手を振ってきた。園児は、思い余って欄干から落ちてしまう。
小早川が駆け込み、園児を受け止めて救う。
小早川は死んでしまう。
小早川のいなくなった病室。
「疾走」とタイトルの書かれた楽譜。それを手に取る森井。
最後のページに、「やったこと」という記録が残されていた。
やったこと
① 一曲だけ、曲を書いた 
② たったひとりだけど、友達ができた
③                
たったひとりできた友人とは森井のことだ。

③には何も書かれていない。書く前に死んでしまったからだ。
森井の後ろ姿がつぶやく。
「③(まるさん)。ひとつの命を救った」
小早川は森井に言っていた。
「これからだって医者になれるんじゃないですか?それでも今の仕事をやめないのは、今が気に入っているからじゃないですか?」

 

本当は別にやりたい事があった。本当になりたかった自分になっていない。けれども、だからといって、このドラマのこの二人は、保育士も病理技師も嫌いだというわけではありません。
ただ死にゆくときに、小早川は最後まで保育士として働く選択はしませんでした。現実的には体調の問題もあって保育園や園児たちに迷惑がかかってはいけない、という理由だったとしても。
小早川は、保育士を辞めて、緩和ケア病棟で最後の日を迎えようとします。高額な治療は受けられないので、「諦め」という形のある種の自暴自棄です。それでも「諦めるな」と刺激を与えてくれた森井のおかげで活性化した小早川の心。
そしてさらに、助かるかもしれないという希望を抱いたあとの期待外れだっただけにもっとヤケクソになってもおかしくない状況だったと思いますが、小早川はあらためて自分の「死」と「死までの短い時間」に向き合います。
そして「やりたかったこと」を病室のベッドでやります。本当に本当に美しい曲が出来上がりました。最初で最後の小早川の作品、遺作。
保育園の園児を助けて死ぬという設定が、小早川の逝く先が天国であることをほのめかしています。彼は、最後の最後まで保育士でもあったのです。
小早川のメモはなぜ「やったこと」という過去形だったのでしょう。

人生の時間制限あるとき、「やりたいこと」と希望的未来形にしてリストを書き出す人の方が多いでしょう。健康な人でもいわゆるto doリストとか書いたりしますよね。そのほうが計画を立てやすい。すべきことを忘れないですみますし、実現したらチェックを入れていけばいいわけですから。
小早川のように、「やったこと」を書きとめていくほうが、逆にポジティブなのかもしれません。死んだあとにチェックの入っていない「やりたいこと」リストが残っていたら、それを見た人は「心残りだろうに」などと要らない同情を寄せるでしょうから。死者からしてもいい迷惑です。同情というのはネガティブな感情ですので。このドラマのように「③  」と書いてあると、何て書くつもりだったのかなとかいろいろ想像できる。森井のように、小早川が最後にやったことをつぶやいてあげることもできる。夢と希望とまでは言いませんが、ポジティブな終わり方のようにも見えます。

 

命の期限を扱ったドラマをもうひとつご紹介します。

「死神くん」2014年テレビ朝日
原作/えんどコイチ 脚本/橋本裕志 主演/大野智
第1話「心美人お迎えに参りました」
ゲスト/大原櫻子

文字通り「死神」が活躍する物語です。
この第1話は、傑作だと思います。

高校生・福子(大原櫻子)のもとに死神くん(大野智)が現われる。死神くんの仕事は、死の予告をすること。猶予は3日。「その間にやり残したこと、やっておきたいことをやりなさい」と伝える。
自分が死ぬなんて、と戸惑う福子。
それでもようやく理解した福子。だが、やりたいことが見つからない。なんとか懸命に考えて3つ、見つける。
好きな男の子三城くんをデートに誘う(が、明日なら、と言われる。福子に明日はない)。
お父さんとお母さんに「ありがとう」と言う。
そして最後のひとつは……。
親友だと思っていた同級生の真実。読者モデルもやっている学校の人気者。いじめられっ子の福子をいつも助けてくれた。でもそれはパフォーマンスだった。その真実は、事故で目を負傷して入院中。
三城くんのことでけんかしていた福子と真実。最後の日、わがままな真実にはっきりと自分の気持ちを伝える福子。
……
真実は目の移植をしてくれる人が見つかって急きょ手術を受けることになる。
「感謝しなきゃ」と言う真実。そして、福子に会いたい、と……。
隣のベッドを覗く看護師。交通事故で死亡したドナーが横たわっている。それは福子だった。
福子は、死神くんといっしょに天界へと昇っていく。

 

この物語は「銀河鉄道の夜」(カンパネッラは、いじめっこの同級生を助けて溺れて死んでしまった)的要素があると同時に、死神の役割をゆるやかに描いてくれています。

「3日後にあなたは死にます。だからやっておきたいこと、やり残したことをやってください」といきなり言われても、おそらくあまりに突然で、やりたいことが思いつかないというのが人間の悲しいところかもしれません。
実際にはたった3日では、やれない事も多いことでしょう。本当にやりたいことや諦めた夢などは、やろうと思っても今日明日中にできることばかりではないでしょうから。
このドラマの福子がやろうとしたこと、やったことは、好きな人とデートすること、両親にお礼を言うこと、友人の失明した目のドナーになること。これらは即座にできること。デートは相手の都合でできませんでしたが、でも申し込みは断られませんでした。

このエピソードのタイトル「心美人」とあるのは、福子はブスだと虐められていたからです。親友と思っていた真実は、モデルですからもちろん美人です。福子を助けてくれていた真実。人気取りのための行為だったと分かったのに、福子は死んだあと自分の目を真実にあげることを決めます。もちろん、もともと心優しい少女ですが、この最後の行いは「心美人」の象徴となりました。

 

===④へつづく

 

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「フラジャイル」 ©2019kinirobotti

        病室で曲を書く小早川。素晴らしいシーンだった。

 

 

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「死神くん」 ©2019kinirobotti

     福子が死神くんと旅立っていく、悲しくも温かいラストシーン。

 

 

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