良質なドラマでした。
「塀の中の美容室」 2025年WOWOW
監督/松本佳奈 脚本/狗飼恭子 原作/桜井美奈
出演/奈緒 小林聡美 夏帆 成海璃子 光石研 朝加真由美 由紀さおり 他
脚本の狗飼恭子も、原作者の桜井美奈も、作品リストを見ると、あ、知ってる、という作品が見つかった。
狗飼は、映画「天使のいる図書館」(2017年日本 主演/小芝風花)、桜井は、ドラマ「殺した夫が帰ってきました」(2025年WOWOW 主演/山下美月)。
「天使のいる図書館」は、風変わりで生真面目な小芝風花演じる新人司書が、図書館を訪れた老女の初恋の人を探していくことになるという、ちょっと切なさも感じる、素敵な映画です。
「殺した夫が帰ってきました」は、サスペンス。え?この人は誰?という秘密が解き明かされていくと、そこには大きな社会問題も眠ってるというストーリー展開。
監督の松本佳奈は、監督、演出、脚本で、私の大好きなドラマや映画に多く携わっている。映画「マザーウォーター」(2010年日本 監督)、ドラマ「ペンションメッツア」(2021年WOWOW 監督)、「団地のふたり」(2024年NHK 演出)などなど、小林聡美主演のものも多い。
「秘密〜THE TOP SECRET〜」(2025年カンテレ 出演/板垣李光人 中島裕翔)では、演出。このドラマも、ホラーサスペンスだがなかなか奥の深い内容だった。
「春になったら」(2024年カンテレ 監督)は、奈緒主演の、これもシビアに人生と生死を語りつつ、ほんのりとやわらかい雰囲気に包まれた良質のドラマだった。脚本は福田靖。
松本佳奈馴染みで、「塀の中の美容室」は主演が奈緒、刑務官役に小林聡美、そして、最終話にほんの少しの登場だったが木梨憲武が出演。
木梨は「春になったら」で奈緒の父親役だった。このドラマは、余命宣告されている父(木梨)と娘(奈緒)の葛藤と深い愛が、静かに静かに描かれていた。小林聡美も出演しており、奈緒が助産師として働いている助産院の院長役。
なので、「塀の中の美容室」を観たとき、「“春になったら”だぁ」と思ったほど、感激した。
前置きが長くなった。
奈緒演じる小松原葉留は、服役中。なぜ刑務所に入っているのかは、物語後半に明かされる。
刑務所では、職業訓練が行われているが、そのなかに美容科がある。どこにでもあるわけではなく、特定の刑務所のみ。美容師免許を取得したい人はその刑務所に移るようだ。はじめて知りました。
葉留は、美容科で訓練を受け、免許を取得した。この刑務所内では「あおぞら美容室」を営業している。葉留はここで美容師として働くことになる。物語はそこからはじまる。
刑務所所長の保坂(光石研)は、この美容室を応援している。ちなみに、光石研も「春になったら」に出演していました。医師の役。
小林聡美は、あおぞら美容室担当の刑務官。施術が終わるまでずっと監視していなければならないので、なかなか大変な仕事だ。刑務所内のあらゆる場所で監視は大変だと思うが、美容室にはなにしろ、外からお客がやってくる。一般客だ。それゆえの気遣いも多い。
お客が葉留に個人的な質問をしてきたときには、答えられません、と刑務官が注意を促す、というシーンもある。
客としてやってくる人々、服役者たち、刑務官たちとのふれあいのなかで、葉留は、成長していく。いや、成長というよりも、徐々に自分自身を許し、取り戻していく。
葉留は、自分に厳しすぎるきらいがあり、刑務所から出たくないとまで思っていた。加害者家族となってしまった自分の母(朝加真由美)と姉(夏帆)への、申し訳ない思いから家には帰れないと考えていたのだった。
そして、公民館、老人たちの髪を整え、嬉しそうに働く葉留。
ドラマは、出所した葉留のその後の様子を映し出しながら、あたたかい雰囲気で終わっていく。
奈緒はさまざまな役を巧みにこなす。
ここでは、ひとりの女性、受刑者の複雑な思いを、ここまで強く内側に秘めて、押し殺して演じている。表情から立ち居振る舞いから、すべてが完璧と言えるほど。視聴者としてぐいぐいと引き込まれた。
次はどんな役だろう。楽しみだ。
美容師免許を取得しても、いったいどこが私たちを美容師として雇ってくれるのか、という否定的な感想、不安を述べる受刑者もいた。
ぜひ、資格を取った受刑者だった人たちが、世間で楽しく存分に働けることを願っています。
