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「ゴールドサンセット」〜幕間と人生の回収

 迫力あるドラマでした。

 

「ゴールドサンセット」WOWOW

脚本/大森寿美男 監督/大森寿美男 清水勇気 原作/白尾悠

出演/内野聖陽 毎田暖乃 安藤玉恵 小林聡美

           中島裕翔 今井隆文 三浦透子 和久井映見 坂井真紀 六平直政 風吹ジュン 他

 

 中学2年生の村上琴音(毎田暖乃)は、母・和美(安藤玉恵)とアパートで二人暮らし。隣人が大きな声を出しているのが気になる。

 その隣人は阿久津勇(内野聖陽)。実はセリフの練習をしているのだった。

 琴音の友人がいじめにあって自殺してしまった。琴音は責任を感じ、また琴音自身もいじめを受けており、不登校になっている。

 母へ向けて遺書を書いていたある朝、琴音は部屋を出ていった阿久津に気づき、跡を追う。認知症かもしれないと心配しているのだ。

 自分の悩みを阿久津にぶつける琴音。阿久津は「行くぞ」と、琴音を引き連れて行く。着いた先は劇場だった。

 そこには、劇団員たちがいた。演出家の小巻沢梨子(小林聡美)が主宰する、参加資格54歳以上の市民劇団トーラスシアター。

 琴音は小巻沢に促されるまま、ずっと本読みを見学する。「リア王」の稽古中。

 

 離婚して定年まで仕事をしたのち入団した太田紀江(風吹ジュン)、リストラされて人生を見つめ直している太田の姪っ子・千鹿子(坂井真紀)、広告代理店の社員だったときに受けたパワハラでトラウマを抱えている三橋芳子(和久井映見)、トラースシアターで小巻沢のサポートをしている劇団員の瀬能大樹(今井隆文)、不動産会社で千鹿子の担当だった竹之内駿介(中島裕翔)らの、それぞれの人生を知っていく琴音。

 

 大樹と駿介は恋人同士。実は千鹿子は駿介に「好きだ」と告白した。ごめんなさい、と断られるが、そのときは駿介に同性のパートナーがいることを千鹿子は知らなかった。けれど「リア王」上演の日、そのことを知った千鹿子。

 これって、変な言い方かもしれないが、千鹿子は救われたのではないだろうか。リストラされて結婚相手も見つからず自分の人生を恨んでいるかのような千鹿子は、断られても当然と思って思い切って告白したに違いないが、それでもやはり、とても傷ついていた。でも、相手がいて、しかもその相手が男性だと分かったとき、女性として拒否、否定されたのではなく、いや、女性だから断られたのだけれど、別の女性との比較のなかにあったのではないという感覚は、ある種の救いといってもいいのかもしれない、と私は思った。

 駿介は別の不動産会社に転職した。そこでは、同性カップル、高齢者、外国籍の人、障害者など、住まい探しに困難を強いられる人たちをサポートするという。そんな優しい心の持ち主に、千鹿子はこれからも癒やされていくのではないだろうか。

 

 小巻沢には、そういった劇団員たちの事情をすべて飲みこんでいるかのような言動がある。鋭い感性を持っている演出家だ。

 

 誰もが何かしらを心に秘めて年を取っていく。

 いつまで生き続けるのか、こんな世界で。そんな苦しみを演劇にぶつけ、そしてまた同時に、演劇から気づきと救いを得ていく。

 

 ドラマは、それぞれのエピソードが、「リア王」のセリフをなぞるように進んでいく。 

 演劇ってこういうもんなんだ、と私はあらためて感じ入った。

 すなわち、劇中のセリフというのは、ドラマチックに語ってやけに芝居じみてはいるが(芝居なのだからあたりまえだが)、それらは、人生や出来事を端的に奥深く語っているのだ、ということがよく分かるドラマだった。

 

「リア王」と自分を重ねている、リア王役の阿久津。その苦悩が最終話でようやく明かされる。公演初日の舞台の流れとともに。

 阿久津は若い頃、劇団に所属する俳優だった。が、自分の才能を見限ってしまい俳優の道を断念する。恋人の節子(三浦透子)は、阿久津に俳優を続けてほしかったが、阿久津ともに阿久津の実家へ行き、燃料店を継ぐ。まだ諦めきれない節子。そして節子は3度流産。義母にののしられ、辛い日々を過ごすなか、節子はついに離婚届を置いて家を出る。

 それから阿久津は一度も節子に会っていない。有名な俳優になっている当時の劇団員で友人のゆうこに行方を聞くが教えてくれない。何度も電話するが会わせてもらえない。阿久津の母親が死んだとき、そのことを知らせたいと電話すると、今は再婚して子どももいる、と言われる。

 その後、身体を壊して病院に行ったとき、実は子どもが流産してしまう原因が自分にあったことを知る阿久津。節子に謝罪したいとゆうこに電話するが、節子は自分で死んだ、と聞かされる。

 

 そして阿久津は節子のために今、芝居をしている。

 

舞台にはきっと、夢破れた役者の屍がたくさん埋まってるんだろうな。あんた、その墓から蘇って、またそこに立つわけだね。

 と、劇団員・長谷川登(六平直政)が阿久津に向けて言うセリフがある。

 このドラマは、夢破れた人、途中でリアイアしてしまった人たちの再生の物語でもある。人生100年と言われている昨今、定年退職後、子育て卒業後に、若い頃の夢を叶えようとする人も多いのではないか。

 そんな人生回収の物語にもなっている。

 

 さて、節子は本当に死んだのだろうか、という疑問が、私にはいささか残る。

 が、琴音が死なないように仕向けたりするのは、節子へのお詫びのつもりもあるのだろう。最後、舞台を見てほしい人がいる、と阿久津は言っていたが、琴音の席に若い節子の姿があったので、阿久津のなかで琴音と節子がオーバーラップしているのかもしれない。だとすると、やはり命を絶ってしまっていると解釈したほうがいいのかな。

 

 このドラマ、役者がみなうますぎる。「リア王」の舞台での俳優たちの演技が、本当にうまい。

 なんと言っても内野聖陽の演技は見事だ。阿久津もリア王もすばらしい。内野の舞台を見に行ったことはないが、その様子をまざまざと見せつけてくれているように思う。

 このドラマの内野、「きのう何食べた?」のケンジ、「仁」の坂本龍馬とはまったくの別人だ。

 

 毎田暖乃は、2024年前期の朝ドラ「虎に翼」で、主人公・寅子(伊藤沙莉)の娘・優未を演じた、あの少女だ。これからが楽しみな俳優だ。

 

 小林聡美と和久井映見は、この冬シーズンのドラマ「法廷のドラゴン」(2025年1〜3月テレビ東京)で共演していた。

 

 瀬能大樹を演じた今井隆文は、知る人ぞ知る役者のようだが、私はあのACジャパンのCMで知った。「決めつけ刑事(デカ)」だ。「SNS等の単なる噂話や偏見のみで善悪を判断することに警鐘を鳴らす」キャンペーン。

 SNSの情報を見た嶋田久作演じる刑事によって、証拠もないのに不当に逮捕されてしまう人物が今井である。「やってません!」と大声をあげる今井は印象的だ。「ゴールドサンセット」を見て、あれ?この人?決めつけデカの人じゃない?とすぐ気づいた次第です。

 多くの企業がCMを差し止めているフジテレビで繰り返し流れていたので、一躍有名になったのでは?少なくとも、私にとってはそうだ。これからまたどんな役をやってくれるのか、楽しみだ。

「決めつけデカ」もドラマ化すればいいのに。

 

「ゴールドサンセット」、知的で重々しい素晴らしいドラマでした。

 繰り返し観ると味わいが深まります。いや、繰り返し観ないと、評価しきれないと思う。ゆえに、ここに書いた私の感想も、不完全だと思う。

 ほんとうはもっと細かく丁寧に語らなければもったいない、と思ったりしている。

「ゴールドサンセット」 リア王(阿久津) ©2025kinirobotti