名言集でもありますね。
「独断と偏見」二宮和也
集英社新書
ジャニー喜多川の性加害問題があって、ジャニーズ事務所はなくなった(とはいえ、引き継いでいる事務所はある)。
当時、すなわち二宮和也が旧ジャニーズ事務所スマイルアップから独立することになったとき、確か、どんどん仕事が減っていくことが怖かった、といったようなことを言っていたと記憶している。
現在(2025年時点)は、以前のように戻っているが、当時は、ジャニーズ事務所所属タレントは、紅白もなくなり、CMもなくなり…という状態だった。
独立するタレントは多くなっていった。二宮もそのなかのひとりとなった。
実力のある人はそれでいいのではないか、と私は思っていた。なのでむしろ私は、旧ジャニーズ事務所を離れていくタレントのほうを応援したい気持ちになっている。たぶんこれからもそうだ。
けれども、この本のなかで二宮は、独立することの大変さを述べている。独立する、会社をつくるということはそういうことだ。今まで会社が全部やってくれていたことを自分で管理しなければならないのだから。
はじめのころは、マネージャーもおらず、本当に何から何まで本人がひとりでやっていた(ただし、ホームページはお姉様がつくっていたという逸話は有名ですね)というから、すごい。もちろんそういう人はどこにでもいる。それでも勇気の要ることだ。いくら大スターでも。ふんぞり返っていては誰も寄って来なくなるだろう。そもそも二宮はふんぞり返ってしまうタイプの人間ではないようだが。
この本は、集英社の編集者である野呂望子によるインタビューに二宮が回答する形でなりなっている。
テーマは10タイトル。すべて四字熟語。「第一章 心機一転」「第二章 適材適所」など。
二宮の語り口には、ちょっと独特な感じを受けた。慣れるまですこし戸惑った。
ひとことで言って、二宮は地頭の良い人なんだな、ということ。最近クイズ番組などのバラエティで見かけたが、そのときもそう思った。ものすごく読書したり勉強したりということはおそらくないと想像するのだが、そうだとすると、知性や知識というよりも、地頭なのだろうと思った次第。
そしてこの本から伝わってくるのは、良く考えている、ということ。好感がもてる。
「MUSIC GIFT 2025〜あなたに贈ろう 希望の歌〜」(NHK2025年8月9日)でも、MCを務めていた二宮。前半は「あんぱんスペシャルステージ」だった。ご存知のように、二宮は、朝ドラ「あんぱん」(2025NHK)に柳井崇(北村匠海)の父親役で出演。崇が幼い頃に父親は亡くなってしまったので、回想シーンのみの短い出演だった。が、北村匠海と今田美桜(のぶ役)を見て、自分は共演はなかったけど二人がいっしょにいる姿を見ると嬉しい、と番組内でコメントしていた。
崇とのぶが退場するときに、崇が「じゃあ、おとうさん」と言うと「おぅ息子」と声をかける様子は微笑ましくてよかった。
こういう様子からも、二宮のタレントとしての能力の高さに気づかされた。なんていうのか、エゴとか嫌味とかがない、アイドル、スターとしては珍しいのではないか。どんなに繕っても、言葉や態度の端々に本性は滲み出てしまうものだ。
全体的に言えるのは、いや、二宮がこの本のなかで繰り返し言っているのは、「利他性」である。二宮は、いつも自分のことは考えない、考えているのは、ファンや視聴者、世間がどれだけ楽しんでくれるかを考えている、と話す。
【「人のために働く」とは?】
自分が面白いとか嬉しいとか楽しいとか、そういう主観ではなく、自分が何をどうすればもとめてくれる人の熱量を上げられるかを考えること。
(P24)
これはねぇ、いささかちょっと立ち止まりました。
私は占い師ですが、どの道を進むか悩んでいる人に、「あなたが楽しいこと、嬉しいこと面白いこと、そういう道を選ぶ」ことを助言することは多い。なぜなら、嫌いなこと、辛いことを選ばされたりすることは、自分を生きていないことだから。
私の助言は、おそらく第一歩のところなのだろうと思う。おそらく二宮は、ここはとっくに少年のころに通り越しているのだろう。特殊な世界だし、特殊な才能がなければやっていけない世界だ。ここまで達観できているのか、と思うと驚きである。
ある意味、「自分という存在の意味、意義」を客観的に理解しているのだろう。
黒柳徹子は、やりたくないことはやらない、好きなことだけをやる、それが健康の秘訣だと言っていた。二宮もそこはもちろん踏まえているはずだ。
逆に言うと「人に楽しんでもらうこと、それが、自分自身が楽しい嬉しいこと」ということなのだろう。スポットライトをあびて、拍手喝采を受けてほめられることが嬉しいのではない。ここに含まれるエゴの割合が人格を決めていくのだろう。
【もし、企業の採用試験の面接官だとしたら、どのような質問を?】
ひと通り雛形のことを聞いて、最後に「何か聞きたいことはありますか?」って聞く。なんか、その答えにこそ人間性が出ると思っているから。
(……)
僕が受ける立場だったら、その面接官に「なぜこの会社に入りたいと思ったんですか?」って聞く。
(P40)
これ、いいですね。面接官側の立場でも、受験者側の立場でも。本音が聞ける。
二宮が面接官だったら、「最後に言いたいこととして自分のプレゼンをする人は、僕は通さないかもね」と言う。いいですねぇ。
【人を見る目に自信はある?】
そもそも、人は裏切るもの。歴史を見ても、ずっと裏切り裏切られてきているわけだよ、人間なんていうものは。織田信長を見てみなよ(笑)。
(P42)
「かつて裏切られたこともあるけど、見る目はあると勝手に思っている」と語る二宮。そして、上のように言う。
確かにね。裏切られて心身症になるよりも(私です)、いつ裏切ってくるかなくらいに思っていたほうが楽。裏切られなければ、それはそれで嬉しいし。
裏切ってくるには、それなりの理由はある。二宮は自分にも何か、悪いところや隙があったのかもしれないと考えるそうだが、まあ、一方的に相手が悪、ということは少ないかもしれない。もともとの詐欺師以外は。
【芸能における「古い」の価値、「新しい」の価値とは?】
流行にも周期があるように、芸能やお芝居にもなんらかの周期があって、革新的な何かって意外とない気がする。時間は進むけど、時代は回るから。
(P51)
これ、名言ですね。
「時間はとめられないけど、時代はもうすでにあって、いずれまためぐってくる。リメイクが成立する理由もそこにあるんだろうし。だから、古さ、新しさ、どちらにも価値があるんだよ」
こういった思考の俳優がゆえに、柳井崇の父親役に選ばれたのかもしれない。出版社に勤務していた父親は、人生メモのような手帳を残している。そのなかの文言が崇を助ける。
【災害時に火事場泥棒をする者や高齢者をだます詐欺師など、人の苦境や弱みにつけこむ輩(やから)があとを絶たない。なぜなのか。人間の「悪の心理」は撲滅できないのか?】
捕まると思っていないから悪行をやめない。自分だけは大丈夫って思っているんだよ。
(……)
「悪」って、生きながらえるための生命力がすごく強いものなんだよ。かならずどこかに入り込む隙を見つけてくる。
(P106)
これは私にとってもずっと課題。そうなんです。「悪は強い」のです。ゆえに善は簡単に負けたりするのです。ウルトラマンもいつも負けそうになるでしょう。
常識ある人なら、良心のある人なら世間のルールを守るが、悪人はそんなのおかまいなしなのだ。いわゆる最強の人。
「私の夫と結婚して」(Amazon Prime Video配信2025年 韓国ドラマのリメイク 主演/小芝風花 佐藤健)でも、二人の幸福を壊そうとする邪悪な二人のことを「彼らには勝てない」と佐藤健演じる鈴木亘が言っていたのが印象的だった。
いやぁ、ほんとうにそうなんですよ。
「生きながらえるための生命力が強い」という二宮の言葉、まさにその通り。戦争中もそうだった。「善人から先に死んでいく」それは多くの人が言っているし、「あんぱん」でもヤムおんちゃん(阿部サダヲ)のセリフにあった。
この編集者も、よくこんな質問したなぁとちょっとびっくり。二宮なら答えてくれるような気がしたのかもしれない。
【対極的に、これまで繰り返し語ってきた「人のため」という信念は利他そのものに思えるが、自身が私欲で動くことはないのだろうか?】
(……)利他を貫けるっていうのは、誰かから利他的に接してもらっているからかもしれないね。博愛的というか、誰かの助けになると、誰かが助けてくれたっていうこと。
(P108)
これは、「ペイフォワード Pay it forward」だ。日本的に言えば「恩送り」。誰かからもらった善を別の誰かに渡していく。
二宮は、この幸福と平和の循環を、自然にやっているということのようだ。
【そもそも「死」は「終わり」なのだろうか?】
(……)
まったく同じ人生観で人生二周目みたいなのも面白いかもしれないけど、僕はもう二度とこの人生を歩みたくないなと思うくらい、いまの人生を頑張る。
(……)
だから、死ぬまでに何ができるかっていうよりも、どうやって生きたかということを考えたいよね。
(P123)
これは、深い。
「ブラッシュアップライフ」(2023年日本テレビ 主演/安藤サクラ)は、まさに「人生何周目」の物語だった。おもしろかったけど、ちょっとしんどそうだった。
でね、「僕はもう二度とこの人生を歩みたくないなと思うくらい、いまの人生を頑張る」ってのがすごい!
一般的には、「もう二度とこの人生を歩みたくない」という表現は、悲惨な人生、過酷な人生のことを言うと思うのだが、二宮の価値観、人生観では違う。すなわち、「それほど、もうこれでOKってくらい頑張った人生」ということだ。本人は「やりきった人生」と言っている。
なんていうのか、やりきってがんばって、すなわち成功した人生のことを、もう二度と歩みたくない、と表現できるという潔さというのか、それこそ二宮がずっと言っている主観ではなく客観としての人生なのか、ちょっと私は、ショックを受けるほどすばらしいと感じました。

ちなみに、私がいちばん印象深い二宮和也出演作品は「フリーター、家を買う。」(2010年フジテレビ)だ。 もう15年も前ですかぁ。これは今でもときどき思い返すほどよいドラマでした。毎週楽しみに視聴していた記憶があります。