ねことんぼプロムナード

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「いちばんすきな花」〜自分と他人との関わりのなかで自律していくことの…

 ぐちゃぐちゃしてるけど、これが人間だと思った。

 

「いちばんすきな花」フジテレビ 木曜夜10時 2023年10〜12月

脚本/生方美久

出演/多部未華子 松下洸平 今田美桜 神尾楓珠 田中麗奈

 

 友だちってなんだろう。人間関係ってなんだろう。男女の友情ってあるのか。

 

 実は、視聴するつもりがほとんどなかった。でも1話目は…と思って録画しておいたのを何気に観た。予想どおりつまらなかったら次回から録画しないんで、2話目も観るかどうか、録画するかどうかを決めるためだけに観た。

 な、なんと、面白かった(いつも思うのだが、番宣はドラマの魅力を本気で正確に伝えようという気があるのか)。

 なんだか主人公の4人が、ごちゃごちゃとあれこれ自分のことを語るので、ちょっと面倒になる雰囲気もあったが、どちらかというと、私もたぶんこのタイプなので、共感できた。そして、いわゆるはみ出し者的な、生きづらさを感じている人間の苦悩がこれでもかというくらい執拗に描かれていく。

 この雰囲気についていくのが難しい人、苦手な人は途中で脱落するかもしれないな、と思いつつ、私は視聴し続けた。

 

 主人公は4人。

潮ゆくえ 34歳(多部未華子

 学習塾講師。昔から二人組をつくるのが苦手だった。仲の良い男友達(仲野太賀)がいたが、結婚することになり、もういっしょに遊べなくなって寂しい思いをしていた。

 

春木椿 36歳(松下洸平

 出版社勤務。実家は花屋。昔から二人組にさせてもらえなかった。会社では、誰でも助けてあげるいい人。婚約者がいたが、彼女のほうから離れていってしまった。

 

深雪夜々26歳(今田美桜

 美容師。昔から一対一で人と向き合うのが怖かった。美しい容貌のせいで嫌な思いをたくさんしてきた。母親から自分の好きでないことを押し付けられて育った。

 

佐藤紅葉 27歳(神尾楓珠

 コンビニバイト。イラストレーター。昔から一対一で向き合ってくれる人がいなかった。友だちが多いのではなく、人から頼まれたことを断らずに引き受けているだけ。

 ゆくえとは幼馴染。

 

 こんな4人が、椿の新居で出会うところからドラマは始まる。

 紅葉がクラス会について「先生」に知らせようと家を訪れるが、そこには椿が住んでいた。ゆくえが知り合いの家に行こうと花屋で花を買うと、そこで椿の母親から椿のところへ結婚祝いの花を届けてほしいと頼まれる。夜々は、前日夜々の美容室を訪れた椿の忘れ物を住所を頼りに届けに来る。

 椿の母親から、花を届けてくれたお客さんにコーヒーくらい出せとラインが入り、結局3人は椿の家に入ることに。

 

 語らっているうちに、4人は似た者同士であることに気づく。すっかり話の合う間柄になって、3人は椿の家に入り浸ることになる。

 

 仲良くしていたと思っていた友人たち。結婚式に自分だけ呼ばれていなかったことに同窓会で気づくゆくえ。それでもその場を繕っていい顔をしようとする。

 職場の男性から誘われて食事に付き合ったら誤解されて、逆にお前の方が悪い的に罵倒される夜々。

 バイト先の同僚からはシフトを代わってくれと頼まれ、同級生たちからは幹事を押し付けられる(自分から手をあげているのだが)紅葉。

 上司からも同僚からも後輩からも、体よく頼まれ事をされて二つ返事で引き受けてしまう椿。本当にいい人。

 

 おとなしくて静かな人なのかと思いきや、椿は喫煙所などに行っては、そこにいる人たちにペラペラと話しかける。煙草も吸わないのに。なぜか?二度と会わない人たちだから何でも話せる、という理由。実は夜々の美容室もそうだった。これ一度きりと決めているから夜々にいろいろと話した。

 この気持ち、分かる。旅先で出会った人に何でも話してしまうみたいなことが、おそらく多くの人の経験にあると思うのだが、それと似ている行為だと思う。「旅の恥はかき捨て」といったところだろうか。私は占い師だが、周囲の人には話せない悩み事も旅先の人になら話せますよ、と言ったりする。いや、そのために実は占い師が存在しているのだが。

 でも美容室に関しては、椿さん、都度新しい美容室探すの大変だろうな、とちょっと現実的には思う。加えて、気に入ったいつもの美容師さんにお願いするほうが、いちいち説明しなくていいので楽、なはずだ。あ、でも、椿さんはお喋りがしたいんだね、髪型の要望も含めて。そちらがメインだから、初めて会う美容師さん、しかも「またお待ちしております」と言われても二度と訪れることのない美容室、それがベスト。

 

 ゆくえは、学校の先生だと人間関係やらなんやらで面倒なことが多いので、塾の先生になった、と言う。教えることが好きだから。この気持ちも分かる。

 加えて、私も塾でアルバイトをしたことがあるが、クラスの授業よりも個人指導のほうが得意、というか好きだった。じっくり向き合うことができるし、邪魔が入らない。なので、私は占い師の仕事が好きだ。私の場合、椿とゆくえの合せ技かもしれない。占いは、自分の裁量でいっぱい喋ることができる。二度と会わない相談者さんもいるが、気に入ってくれて長いお付き合いになる相談者さんもいる。

 

 夜々はいわゆる毒親に愛されている。いや、愛されすぎて夜々からみれば母親は毒親になってしまった。自分の母親だからなかなか無碍にもできない。でも夜々は、3人との出会いで変わっていき、ついに母親を突き放すことができた。

 毒親の相談は占いでも多い。あるいは毒親とまでは言わなくても、親の価値観に縛られている人は本当に多い。それが悩みの要因になっているのだが、なかなかそれに気づくことができない。どれだけ話しても理解できない人もいる。自分で気づくまでなかなか難しいのが親子関係だ。気づいたとしても、肉親ゆえに、切り離す決意はなかなか難しかったりもする。

 

 この4人のなかで、いちばん感情移入できなかったのが紅葉だ。

 紅葉はまだイラストだけで食べていくことができていない。すなわち、夢を諦めずに描き続けている(ドラマ中盤、椿の出版社から仕事が入って、将来の兆しが見える)。夢を諦めない、誰がなんと言おうと、どれほどばかにされようと。その精神には大いに賛同する。

 理解不能なのは、頼まれたことを安々と引き受ける、あるいはみんなが嫌がって避けていることを自ら引き受ける、というところだ。どうして?つまり「嫌じゃない」ってことだよね。それは、友だちがいるように見せかけたいから?それとも優しさ?

 第5話。紅葉の高校時代のエピソード。ひとりぼっちで絵を描いていた篠宮(葉山奨之)に声を掛け、仲良くなる。現在、篠宮はシノという名で売れっ子画家になっており、紅葉をSNSで見つけていっしょに仕事をしないかと声を掛けてくる。紅葉はその仕事を断る。

 篠宮は、紅葉が仲良くしてくれて嬉しかったと話す。紅葉は、可哀想なやつを見つけて優しいふりをしただけ、そういうやつは自分を裏切らないから、と残酷な告白をする。ここでは「優しいふり」とはっきり言っている。

 それ、どうなんだろう。ほんとうに「ふり」だったのかな?

 これら2つの感情、というか人への対応の仕方が、なんともアンバランスに見える。紅葉が気にかけているのは、世間体なのか、それとも自分自身なのか。

 篠宮とのやり取りで、ひとつ極めて個人的な解釈をさせてもらうと、これはある意味で、紅葉の意地でもあったのではないか。すなわち、売れっ子画家の同級生に拾ってもらって仕事(お金)をいただくなんて、ちょっとプライドが許さない。僕は自分で仕事を勝ち取るよ、という意思表明だったような気もする。篠宮のほうは、まだ絵で食べていけていないであろう紅葉を見つけて、高校時代のお礼のつもりもあったかもしれない。が、そこに哀れみの気持ちが全くなかったかと言えばどうなのかな(自分は売れっ子で紅葉はくすぶっている)。最後にポツリと、仕事がひとつなくなると大変だろうからマネージャーに何か紹介してくれるように頼んでおく、みたいことを言っていた。「可哀想なやつを見つけて優しいふりをしただけ」という紅葉とどこか似通う。

 う〜ん、何ていうか、こういう感情って難しいところではあるよね。様々入り混じっているのが人間だ。でも、自分が助けられる立場になっていたら、誰かを助けたいと思うのは、優越感とかではなく、自然な感情なんだろう。が、そこに優越感が全くないかと言えば嘘になる、のかもしれない。

 だから春木宅に集まる4人は、ああだこうだと喋くりまくる。

 

 物語終盤になって、5人目の人物が現れる。

志木美鳥36歳(田中麗奈

 ゆくえの高校時代の塾の先生。

 椿の中学時代の同級生。

 夜々のいとこ。

 紅葉の高校の先生。

 美鳥をめぐって、4人の印象が全く違う。別人のよう。

 椿の家の元住人が美鳥で、紅葉は年賀状の住所を辿って美鳥に会いにやってきた、ゆくえも美鳥の家を訪ねようとしていた、というのが物語のはじまりだった。

 美鳥は、4人に大きな影響を与えた人物だった。その過去エピソードのなかで、美鳥の複雑な過去も描かれる。

 美鳥は言う。自分はずっと誤解されやすい人生だった、と。

 よく誤解されると言えば、実は私もそうだった。そういう風に人から言われたこともある。なので、美鳥の気持ちが分かる(と簡単に言ってはいけないのだが)。

 ちょっと違うかもしれないけれど、それこそ、二人組とかグループをつくるというときに、必ずひとりになってしまうという人もいるよね。私もそのタイプだが。誤解をよく受けてしまう、というものもそれと似た性質かな、と思った。

 そしてこれも。

yoshitomo nara / 奈良美智@michinara3·1月12日
かつやでカツ丼
最初に来るはずのお茶がきてないことに気づいたが、いいや〜
自分にはよく飛行機やお店で忘れられることが多々あります。またかぁ〜という感じ。その分もっと良いことが起こってくれるのだと思っている。

(2023年1月12日X(旧ツィッター)より)

 画家・奈良美智のつぶやき。このドラマの5人と似てる。

 

 さて、美鳥が椿の家を買い戻し、椿は引っ越すことになる。が、4人はこれからも、きっとずっと会い続ける。

 美鳥は、この家で塾を再開する。

 ゆくえは、クラス会で会った友人の結婚式の招待を断る。 

 椿は、はじめて同じ美容室に2回行った。

 夜々は、母親と言い寄ってくる同僚に自分の気持ちを正直に伝えた。

 紅葉は、自律し、自分の絵に自信を持つことができた。

 それぞれ個性は失わずに、束縛を解くことができた。

 

 気になった点。

 椿が、社内の女性社員二人の会話で、こういう人だよね、ああいう人だよね、と批評されるシーンが序盤と終盤に出て来くるのだが、これは必要だった、のか…。

 

 恋愛2つ。

 夜々は椿のことが好きだった。けれども椿は頑なに断った。第1話で、夜々が椿の忘れ物を届けに来たのは、椿のことが気になっていたからだったのかな。

 ゆくえは紅葉の気持ちに気づいているが、無視している。二人にとってそのほうがいいから。

 そもそもこのドラマのテーマが、男女の友情は成立するのか、ということにあったことからすると、その答えはどうなんだろう?

 ゆくえと赤田の友情は完璧に成立しているようだ。

 この4人は?告白なりがあったのにも拘わらず、この先も4人で集まろうね、と仲良くやっているということは、友情は成立しているということだろう。

 ちょっと疑問が残るは、好きですと告白して断ったほうも、断られたほうも、気まずくならないという状況。そこから友情へ戻していけるんだ。というか、もし夜々と椿がカップルになったら、そこから4人グループは成立しなくなるだろうな。

 そもそもこの4人の間に、恋愛感情は必要だったのかな。でもやっぱり男女が集まれば、どうしてもそういうことになる、ならざるを得ない、ということなのか。

 

 Excellentなドラマでした。

 主題歌も、劇伴も、たいへん印象的で、ずっと耳に残っている。物語にぴったり合っていた。

 最終話では、椿の家の居間にグランドピアノが現れ、藤井風が主題歌「花」を弾き語る。そこへ4人が2階から降りてきて、いつもの食卓を囲んで楽しそうに会話する。

 この演出が最高でした。

 

 4人をはじめ、全出演者が、役に恵まれたと思う。特に多部未華子は、ここ最近ではいちばん良い役に当たったのではないかな。

 

 続編を観てみたい。

 いや、観ないほうがいいのかな。この余韻のままで…

「いちばんすきな花」ゆくえ 椿 夜々 紅葉 a la TsuTom ©2024kinirobotti