「海に眠るダイヤモンド」 2024年10〜12月 TBS日曜夜9時(日曜劇場)
脚本/野木亜紀子 プロデュース/新井順子他 演出/塚原あゆ子他
主演/神木隆之介(1965年〜現代 二役)
出演/(1965〜75年 端島)杉咲花 土屋太鳳 池田エライザ 清水尋也 斎藤工 他
(現代 東京)宮本信子 尾美としのり 美保純 酒向芳 豆原一成 片岡凜 他
①から⑤までの記事で、ながながと感想をしたためてきた。
演者たちに、ここであらためて触れさせてください。
✿主演の神木隆之介
端島の炭鉱で外勤として働く荒木鉄平と、東京のホストクラブで働く日下玲央の二役を見事に演じて、その実力を見せつけてくれた。
鉄平は昭和の青年。玲央は令和の青年。時代背景も性格も全く違う人間。ひたむきで真面目な鉄平。人生を諦めている投げやりな玲央。
私としては当初、いささか不安もあった。え?神木隆之介がホスト役?合わないよね、と。ところが、鉄平はもちろんだが、玲央がちゃんと玲央らしく見えてくるから不思議である。神木隆之介、おそるべし。
神木隆之介といえば、ドラマに映画にと、子役時代から第一線で活躍し続けている。ジブリアニメの声優としても有名だ。
2021年、佐藤健とともに、アミューズが出資する新会社「Co-LaVo(コラボ)」に移籍。二人で独立したみたいな雰囲気になった(三浦春馬もいればよかったのに、というファンの声もあがった。私もそう思った)。
どちらかという佐藤健のほうがヴィジュアル的にも目立つ存在。ゴールデンタイムでの主演も多い。
神木は、1995年のCMデビューから2025年の今年ですでに30年のキャリアを持つベテランだ。1993年生まれなので、生まれたときからずっと芸能の仕事をやっている、と言っても過言ではない。そんななかで、佐藤健のようなブレイクがあったかと言えば、そうではなかったように思う。
神木出演作品で私の印象に残っているテレビドラマは「探偵家族」(2002年日本テレビ)「赤鼻のセンセイ」(2009年日本テレビ)「SPEC」(2010〜2013年TBS)「11人もいる」(2011年テレビ朝日)「サムライせんせい」(2015年テレビ朝日)「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(2018年HHK)「コントが始まる」(2021年日本テレビ)。
今回「海に眠るダイヤモンド」で、民放での主役は「11人もいる」以来だそうだ。
そしてなんといっても、2023年前期の朝ドラ「らんまん」。植物学者の牧野富太郎をモデルにした槙野万太郎の生涯。この朝ドラはすっごくよかった。ここ最近の朝ドラでは、「らんまん」と「虎に翼」が飛び抜けて素晴らしい。私は、両方とも、ガイドブックなるものを買ってしまいました。
映画では「SPEC」(2012年2023年)「桐島、部活やめるってよ」(2012年主演)「3月のライオン」(2017年主演)「大名倒産」(2023年主演)「ゴジラ−1.0」(2023年主演)。
他にもたくさんあるが、特に印象深いものだけを挙げた。
「3月のライオン」はたいへん良い作品だった。私は何度も観た。「大名倒産」では杉咲花と共演している。
杉咲との共演は、記事④でも書いたが、サントリーコーヒーニューニュー(クラフトボス)のCMが、心温まる(異国情緒あふれる?)愉快なものに仕上がっている。私はこのCMが大好きなのです。
私のまったくの偏見ではあるが、「SPEC」での一十一(にのまえじゅういち)役が、神木を子役のかわいらしいイメージから脱皮させたと感じている。「3月のライオン」でさらなる成長を遂げ、「らんまん」で大きくなり、今回「海に眠るダイヤモンド」で、ますます磨きがかかった。まだ31歳。これからまたどんな役を見せてくれるのか。
誰かが言っていた。神木隆之介が上手に演じているから視聴者は気づかないかもしれないが、この演技力はすごいのだ、と。鉄平と玲央、ここまで演じ分けられる人はそうそういない、と。
物語序盤、中盤、終盤と、玲央の態度や顔つきは変化していく。
そして、明るい元気な鉄平と、のちの苦悶のなかにある鉄平。演じるのも辛かったのではないか、と思うほどだ。
さらに、鉄平と玲央の間を行ったり来たりする神木。
称賛しかない。褒め過ぎでもいい。それほど素晴らしい作品の素晴らしい役と出会い、見事に演じた、ということだ。
余談。このドラマで、「第122回 ザテレビジョン ドラマアカデミー賞 主演男優賞」を受賞した神木は、受賞後のインタビューのなかで「(鉄平は)いろいろあったけど、けっこう幸せだったんじゃないかと思います」と話している。
台本には描かれていなかったですが、手紙を書くシーンなどは表情で朝子への忘れられない気持ちを表現しています。
なのでラストのいづみさんが鉄平の育てたコスモスを見てくれたシーンはすごくうれしくなりました。あれで鉄平の思いは晴れたのではないかと。それまではきっと死んでもいづみさんの周りをうろちょろしていたと思うので(笑)。
やっぱりあのシーンですね。鉄平は、コスモス畑とその向こうに見える海に浮かぶ端島の絶景を、いつも眺めていたのですものね。朝子に鉄平の想いが伝わって、ほんとうに良かった。
朝子が鉄平に愛されていたことを確認できた瞬間。一瞬にして朝子が鉄平の深い愛を確信した風景。鉄平の日記で読んだあれこれ、誠から聞いた「あの夜」の真相よりも何よりも、朝子に鉄平の想いを知らしめたに違いない、愛と悲しみに満ち溢れた壮大なシーンだ。
ちなみに、鉄平が島を出たのは、戦争という過去を断ち切る意味があったそうだ。兵士だった兄・進平が暴力に暴力を返してしまったのに対して、鉄平は暴力を返さないで逃げるという選択をした。そして、鉄平が全ての罪を背負ってくれたおかげで、島の子どもたち世代は穏やかになった。塚原あゆ子は、監督賞受賞のインタビューのなかでそう語っている。
✿朝子を演じた杉咲花
このところ、演技力が明らかに向上している。「おちょやん」(2020年朝ドラ後期)のときもよかったけど、「ハケン占い師アタル」(2019年テレビ朝日)も、「弥生、三月-君を愛した30年-」(映画2020年/主演・波瑠)も、「朽ちないサクラ」(映画2024年)もよかったけど(先ごろ観たばかりです)、「海に眠るダイヤモンド」で、実力がパワーアップしたように思う。
愛らしい朝子、一生懸命な朝子、健気な朝子、芯の強い朝子、忍耐強い朝子…そんな朝子を「きばって」演じてくれた杉咲。
昨年放送された「アンメット-ある脳外科医の日記-」(2024年フジテレビ)の評判も大変よかった。だが、私はこのドラマを最後まで視聴することができなかった。理由は、相手役の若葉竜也が気味悪かったから。若葉と杉咲の共演は他にもある。「おちゃん」もそうだし、「市子」(映画2023年/これはくら〜い内容だった)も。
「おちょやん」のときは若葉を魅力的だと感じたのだが、「市子」ではそれほど感じず、さらに「アンメット」で、若葉への好印象、高評価は私のなかから消えた。ゆえに、杉咲の演技ではなく、若葉の演技が受けとめきれなかったということである。
いずれにせよ、杉咲花の出演ドラマ、映画にはこれからも注目。
今後の成長、ますます楽しみです。
「ザテレビジョン ドラマアカデミー賞 助演女優賞」を受賞した杉咲。受賞後のインタビューで次のように語っている。
コスモスのお花畑のシーンを観たとき、言葉にならなかったです。どれだけ悲しみに包まれていながらもポジティブに前を向いていようとする鉄平の心意気のようなものが伝わってきて、とても勇気をもらったんです。このドラマは、自分というたったひとりの人生を生きてきた全ての方に贈られる人間讃歌だと思いました。
✿百合子を演じた土屋太鳳
私にとって土屋太鳳といえば、「まれ」(2015年朝ドラ前期)、ですかね。他にもいくつか観てると思うのだけれど、あまり印象に残っていない。武井咲と重なってしまう部分がある。
百合子は気丈に、品性高く振る舞っているが、その心の奥底に暗いわだかまりを抱えている。朝子にいじわるだが、実はとても繊細な女性。母親からキリスト教信仰を教えられた。だが、長崎で被爆することで、神の存在を信じなくなる。母は白血病で亡くなる。
そんな複雑な思いを秘めながら生きている女性の姿を、ある意味、淡々とこなした。
✿謎の歌手・草笛リナを演じた池田エライザ
ここまで書いてきた通り、いづみ(朝子)はリナを許したけれど、リナの存在が悲劇を生んだと私は思っているので、大事な役であり、魅力的な人物でもあるのだが、私としては好きなキャラクターではない。
ただし、池田エライザは好きである。「船を編む」(2024年NHK)で、主役の岸辺みどりをたいへん魅力的に演じていた。ドラマ自体も秀作だった。それ以来注目していたので、このドラマへの出演を知り、楽しみにしていた。リナというキャラクターへの個人的評価は置いておいて、池田は、ますます俳優としての確実な地位を確立しつつあると思う。
✿賢将を演じた清水尋也
熱演だった。いい役だったと思う。
私が清水の存在に気づいたのは、「おかえりモネ」(2021年朝ドラ前期)である。そのあとは「となりのチカラ」(2022年テレビ朝日)。どちらもちょっと、いや、かなり癖のある役どころ。でも、とても味のある良いキャラクターだった。
「海に眠るダイヤモンド」では、俳優としての才覚がどんどん開花している感じを受けた。まだ25歳と若いが、神木、杉咲、土屋らに負けていない。
✿いづみ(2018年から2024年の朝子)を演じた宮本信子
紹介するまでもない大ベテラン俳優。夫は伊丹十三(1997年死去)。
宮本信子と言えば、映画「マルサの女」(1987年)。
年齢を重ねてからもけっこう多くの作品に出演している。印象深いのは、「ひよっこ」(2017年/脚本・岡田惠和)のすずふり亭の店主役、最近では「日曜の夜ぐらいは」(2023年テレビ朝日/脚本・岡田惠和)の主人公のひとりの祖母役、「メタモルフォーゼの縁側」(2022年映画/脚本・岡田惠和)での芦田愛菜との共演。どれも自然で精巧な演技が魅力的で、物語にすんなり溶け込んでいる。岡田作品が多いですね。
杉咲花の朝子がいて、そして宮本信子のいづみ(朝子)がいる。
大検を取って、大学で園芸を学んで、「IKEGAYA」を起業した。子育てをしながら。そして、悲しい過去を封印しながら。そんな健気だが力強い女性として生き抜いてきた姿を、宮本は見せつけてくれた。そして、本当に鉄平が好きだったのだな、ということが伝わってくる恥じらいや戸惑いの表情が、端島の朝子の面影と重なる。
宮本のますますの活躍に期待。
✿いづみの孫・千景を演じた片岡凜
片岡凜は、日本初の女性弁護士のひとりである三淵嘉子をモデルに描いた「虎に翼」(2024年朝ドラ前期/主演・伊藤沙莉)に、ちょっと不気味なサイコパス少女の役で出演していた。なかなか骨のある俳優がでてきたな、とそのとき思った。この秋ドラマでは「嘘解きレトリック」(2024年)でも、ホラー的な役で出演していた。「海に眠るダイヤモンド」にも出演するということで、楽しみにしていた。出演シーンは少なかったが、玲央といっしょに鉄平を探すという重要な位置にいた。
今後が楽しみな役者だ。
✿尾美としのりは、神木と同じ、子役からのベテラン。
私が尾美を知ったのは、映画「時をかける少女」(1983年/監督・大林恒彦)で、主演の原田知世の相手役。私はこの映画が 大好きで、もう数え切れないほど観ている。ちなみに私は、原田知世ファンです。
いづみの息子役、よかったです。
✿鉄平の母親役の中嶋朋子。
中嶋も子役からのベテラン。「北の国から」の蛍役で超有名。しっかり子役のイメージを脱皮して大人の俳優になり、そして今回、年老いた母の役がとてもリアルで自然な演技だった。息子・鉄平への愛を深く胸に抑え込んで耐え抜いている母の姿が、美しくも悲しい。
ちなみに、「北の国から」の主題歌を歌っているさだまさしも、寺の住職として出演しています。長崎出身ですものね。
✿鉄平の兄進平を演じた斎藤工。
この役は、ちょっとふてぶてしい雰囲気のある斎藤工だからできたのかもしれない。鉄平たちよりもかなり大人の雰囲気で、戦地にも行っている。妻を亡くし、リナを助け(人を撃ち)、そして炭鉱のなかで死んでいった。ちょっと一筋縄ではいかないような、優しいけれど心に一物ある男を、斎藤が的確に演じていた。
朝の情報報道番組「THE TIME」内の番宣で、神木と斎藤が登場したとき、兄弟役なんだと分かっても、私はなんとなく違和感を覚えていた。それはきっと、こういった役柄だったからなんだろう、と今は思う。鉄平と朝子の悲恋(悲劇)を生み出した張本人だから。
✿虎次郎役の前原瑞樹。
食堂の店員として出演する、という本人の発信があった。
でも、ちらっとしか出てこない。え?前原がチョイ役ってことないでしょう。と思っていたら、朝子の夫となる人だった。
前原は、「らんまん」で神木とがっつり共演している。大学で植物を研究している藤丸。万太郎(神木)と親しくなり、生涯のよき友人。
今検索したら、長崎出身なのですね。
けっこう注目している俳優さんです。
✿ピンポイントで出演した滝藤賢一と麻生祐未が、ドラマの最後で鉄平の人生を救い、彩ってくれた。
✿本当の鉄平役の百蔵充輝。びっくりさせていただきました。衝撃でした。
✿その他にもたくさんの新人からベテランまで(紹介しきれずごめんなさい)、みな、素晴らしく、very goodな配役でした。
良いドラマには良い役があり、それを演じた俳優も良い影響を受け、視聴者の心にも俳優たちの好印象が残るもの。
このような感じで俳優について書くのははじめでだ。私にとってはそれほどの名作だった、ということである。
演者のみなさま、素晴らしいドラマを、ありがとうございました。
Dear Actors, thank you very much for this wonderful drama.

⑦へつづく