「“謎”解き」ではなく、「“嘘”解き」である。
昭和初期の緩やかな雰囲気も楽しめた。
「嘘解きレトリック」 2024年10〜12月 フジテレビ月曜夜9時
原作/都戸利津 脚本/武石栞 村田こけし 大口幸子
出演/鈴鹿央士 松本穂香 味方良介 片山友希 若村麻由美 他
舞台は、昭和初期、九十九夜町(つくもやちょう)。
浦部鹿乃子(松本穂香)は、幼い頃から「嘘」を聞き分ける能力を持っていた。その特殊能力のせいで、故郷の村ではつまはじき。村人たちは、不気味がり、同時に、本当のことを言ってしまう鹿乃子を敬遠する。
大人になった鹿乃子は、村を出る。自分は他人の嘘が分かるから騙されることはない、だから安心して、と母(若村麻由美)に言い残す。
鹿乃子は、たどり着いた九十九夜町で、探偵の祝左右馬(いわいそうま/鈴鹿央士)と出会う。鹿乃子は、左右馬に能力を受けとめてもらい、探偵事務所に居候しながら、助手として事件の解決に挑んでいくことに。
貧乏な左右馬は、一見するとぐうたらに見えるが、探偵のとしての腕前は実はなかなかのもので、そこに鹿乃子の嘘を見破る能力が加わり、よりパワフルになる。
左右馬の推理は、単に謎を解明して事件を解決するだけではなく、その背景に潜む人間たちの機微をも掴んで、よりよい方向と解決を見い出していく。
加えて、このドラマでは「嘘」が大きなテーマとなっている。
人が嘘をつくときはどんなときなのか?私たちは、騙そうとか、陥れようとか、誤魔化そうとか、自己保身でとか、そういうことだけで嘘をつくのではない。誰かを何かを守ろうとしてつく優しい嘘もある。ときに、誰も嘘をついていないのに、噛み合わずに騒動になってしまうこともある。
左右馬は、最終話でこう言っている。
ただ事実ではないというだけではなく、嘘にはつく人の、願望がある、欲がある、願いがある。
そして、鹿乃子は心でこうつぶやく。
打算や悪巧み、保身や人助け、見栄や気遣い、叱られたくない、羨ましく思われたい、喜んでほしい、助けたい、醜かったり、優しかったり……。
これらは、左右馬と鹿乃子が向き合ってきた事件、出来事を言い表している。
嘘をつくことでしか見えないものがあるのだとしたら、私の耳に聞こえてくるのは、そんな人の願い、なのかもしれません。
昭和初期のレトロな舞台装置、衣装も粋だ。
左右馬の周辺の庶民の暮らしと、お金持ちの人々との対比もよい。裕福なお宅の問題を解決したときの多額の謝礼が左右馬の暮らしを助ける(借金の支払いでなくなってしまうのだが)。
その裕福なお宅、藤島家の令嬢である千代の存在が光っていた。探偵小説が好きで、なにかと左右馬と鹿乃子に絡んでくる。
演じたのは片山友希。最近よく見かける俳優だ。私は、「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」(2022年日本テレビ)から片山に注目している。とても演技が上手だったのだ。CMでも良い表情を見せている。天性のものなのだろうな。
もうひとりの注目俳優は、片岡凜。第4,5話で登場した人形屋敷に住む、いささかホラーな女性、品子を演じた。市松人形の格好をしている。今年の朝ドラ「虎に翼」でも、サイコパスな女性を演じて話題となった。この秋ドラマでは、他に「海に眠るダイヤモンド」にも出演している。
私は、今後のふたりの活躍がとても楽しみだ。良い作品に巡り合えるといいですね。ふたりとも、朝ドラの主演ができそう。
鹿乃子を演じた松本穂香は、若いがすでにベテランの風格があるので、ここであらためて称賛するまでもないだろう。
左右馬役の鈴鹿央士。なんと広瀬すずのスカウト(マネージャーを通して)で事務所入りしたそうで。ときどき見かけてはいたが、私が注目したのは「ゆりあ先生の赤い糸」(2023年テレビ朝日)。主人公の夫の彼氏役。風貌も演技もとてもよかった。望月歩と重なって記憶していた部分もあったが、「嘘解きレトリック」によって鈴鹿央士として認識できるようになった。左右馬役ははまり役ではないだろうか。2025年はどんな役を演じてくれるだろう。
派手な内容、演出はないが、こういった静かな世界観を鑑賞したいドラマファンには、魅力的な仕上がりだったと思う。
シーズン2を望む。