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「警部補 碓氷弘一 マインド」~マインドコントロール?~欲望の解放ではなく欲望からの解放を~

なるほど。「欲望の解放」ですか。

臨床心理士、カウンセラーが絡んだ事件ということで、占い師の私としては興味深い刑事ドラマでした。

 

「警部補 碓氷弘一 マインド」

テレビ朝日 日曜プライム スペシャルドラマ 2018年11月25日放送

原作/今野敏

脚本/高坂隆史

出演/ユースケ・サンタマリア 志田未来 滝藤賢一 三浦貴大 小雪 中村ゆり 他

 

第2弾だそうですが、残念ながら第1弾を観ていません。

このドラマ、面白かったです。

科学警察研究所科警研)研究員で心理捜査を担当する篠宮梓(志田)が、碓氷(ユースケ)たちの捜査に加わります。最近日本の刑事ドラマでもよく登場するようになった心理行動分析官(プロファイラー)による謎解き。ちょっと変わり者の刑事・碓氷のキャラが光ります。

変人風貌の碓氷の今回の相棒は明解な分析をする篠宮。この二人、なかなか良い取り合わせだ。このチームでの連続ドラマができれば、テレビ朝日お得意の犯罪捜査ドラマがもうひとつ出来上がるかもしれません(期待を込めて)。

 

今回の事件で私が注目したのは、心療内科が舞台になっているところです。

同時刻に起きた殺人、自殺、レイプ事件などなど。実は同様の事件はこの日だけではなく、以前から起きていたことを突き止める刑事たち。犯人に共通するのは、そのときの「記憶がない」「本当に自分がやったんですか?」ということ。捜査線上に浮上してきたのは「ラメール・メンタルクリニック」という心療内科

マインドコントロールで犯罪や自殺を誘導しているのか?何のために?けれどもそのようなトリックは、過去の犯罪ドラマでも何回か見かけています。心理的な仕掛けをして犯行に及ばせる。

このドラマの真骨頂は「欲望の解放」というキーワードでした。やりたいことをやりなさい、という誘導を催眠療法でしていた奈緒子(中村)。犯人はクリニック院長で奈緒子の姉・瞳(小雪)のほうではなく、受け付けの仕事をしていた妹の奈緒子のほうだったのです。

 

余談ですが、中村ゆりが登場した時点で、あ、こいつが犯人だな、と視聴者が気づいてしまう中村ゆりの神秘性。先日も「コールド・ケース2」での役どころが強烈でした。ついでながら、ユースケ・サンタマリアも「コールド・ケース1」で犯人を演じていました。彼の場合は、犯人でも刑事でもこの独特さが、犯人なのか刑事なのか見分けがつかない雰囲気。「踊る大捜査線」の爽やか(今よりは)で愉快な雰囲気とはずいぶん変わりましたね。年齢のせいなのか、このような役ばかり回ってくるからなのか……。

 

奈緒子は終末医療に携わっているときに、精神的な厳しさを体験していた。ただ、周囲の評判はよかった。奈緒子と話すと魔法がかかったように患者たちが元気なる、と。 

カウンセラーの宿命で、困っている人、悩んでいる人がいると助けたくなってしまう。どうせ人は死んでいく。であるなら抑圧している欲望を解放してあげるのがいちばんいい、と彼女は思うにいたった。

 

抑圧はよくありません。それは人の精神、心を疲弊させます。

私も占いをするとき、相談者さんたちが嘘の自分を生きないように、本当にやりたいことは何なのかを思い出すように助言します。

それが、このドラマの場合、復讐的殺人やレイプや窃盗という犯罪や自殺という悲劇を招くことになったという恐ろしい結果でした。

 

「本当にやりたいこと」は「欲望」とは違います。

そもそも人間の「すること」の前提にあるべきは「善」です。

 

心が塞いでしまっている原因が誰かにあると思っているとき、その恨み辛みを行動に移してしまいたい欲望は、誰の心にも眠っているのかもしれません。

しかし、「解放」すべきは、そういった「ネガティブに囚われている自分の心」であって、その「ネガティブを解き放つ」ことではありません。

すべきことは、「欲望の解放」ではなく「欲望からの解放」です。

 

やる気や意欲を思い出させたり、引き出したりするのもカウンセラーの仕事。スポーツ選手などはよい例ではないでしょうか。 

本当にやりたいことが殺人やレイプや窃盗だとしたら、それは悪であり間違っているわけです。

理性が働かない状況では誰もがそういったネガティブに心を支配されてしまう、選択してしまうということはあるのかもしれませんが、深い恨みや悩みのなかにある人にはまずは人間性と自身のポジティブを取り戻す作業が必要なのでしょう。

 

いちばん心を病んでいたのは奈緒美だったのですね。

けれども、どこまで奈緒子の罪を問えるのでしょうか。あくまでも実行犯は患者であった人々。マインドコントロールの行く末は、カルト教団による「地下鉄サリン事件」で、私たち日本人は経験済みです。

しかもこの場合、犯罪を誘導したわけではなく、患者たち本人の望みを実行に移すように誘導したわけです。その望みが何であれ。良い例として、瞳の恋人でクリニックの出資者であるIT企業の社長は、奈緒子のカウンセリングで絶望の淵から意欲を取り戻した成功者。

 

オカルト的に言うと、カウンセリングも宗教も自己啓発も一歩間違えるとそこは闇、ということもあります。

 

奈緒子は人を癒すことのできる「魔法」のようなパワーを持っていたのに、それを黒魔術に変えてしまうとは、なんとももったいないことでした。

癒してあげても癒してあげても死んでいく人々を、終末医療の現場で見た奈緒子の絶望感に同情しないでもありません。ですが、人は死んでいくものであることを医療に携わる者であるならば認識していてしかるべき。そしてできるだけ穏やかな思いを持って死を迎えさせてあげる、そういった仕事をしていた自分に誇りを持つべきでした。もちろん、こんなお説教通りでは、犯罪捜査ドラマは始まりませんね。