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ドラマ「ラストマン-全盲の捜査官-」〜こんな壮大な人間ドラマの警察ドラマがあるとは…〜福山雅治と大泉洋がグッドバディ

 めずらしくちょっといわゆる感動してしまった刑事ドラマだった。

(ネタバレしないように気をつけて書いていますが、純粋に感動を味わっていただきたいので、まだ観ていない方はドラマを観てから読んでください)

 

「ラストマン-全盲の捜査官-」TBS日曜夜9時 2023年4〜6月

脚本/黒岩勉

出演/福山雅治 大泉洋 吉田羊 今田美桜 上川隆也 寺尾聰 津田健次郎

 

 どうなんだろう、最近の日曜劇場、たまに変なのあるし。福山かぁ、でも大泉も出るのかぁ…などとぐずぐず思いながら、絶対観るぞ!という意気込みは全くなかった。

 ところが、第一話から面白い!そして最終話まで堪能した。いやぁいいドラマだった、と思う。

 

 それぞれの配役も適役だったのではないかな。

 福山と大泉はもうバッチリだった。親しくない他人行儀な間柄の設定で、大泉のいつものおどけた演技もなく、どちらかと言えば福山のほうに笑顔や冗談が多いくらいなのだが、それでもしっかり二人の間に潜んでいるコメディが小気味よく表現される。それがまた、不自然でも浮いてもおらず、ちょうどよい塩梅に物語を味付ける。

 脚本も演出も、カメラワークもなにもかもよかった。単純に見やすかった。最近よく見かける奇抜な雰囲気もなくてよかった。

 最終話まで心を委ねることができた。

 

 優秀なFBIの捜査官である皆実広見(福山雅治)が、期間限定の交換研修で日本の警察庁にやってきた。警察庁人材交流企画室の室長・護道心太朗(大泉洋)が、皆実のアテンドを命じられた。そこからドラマは始まる。

 どんな難事件でも必ず最後に解決させることから、皆実はラストマンと呼ばれていた。一方の護道は、どんな手段をこうじてでも犯人を逮捕するという刑事で、悪を人一倍憎んでいる。

 最終話を観たあとに振り返れば、皆実が日本に来たのは、41年前の事件の真相を解明するためだったのだなと実は、と分かる。純粋な交流のためではなく、交流というシステムを利用して。

 

 ということでこのドラマは、一話でひとつの事件が解決するのであるが、その底流には、重大なテーマが脈々と流れ続けていく。

 一話一話のエピソードも、それぞれ見応えのある内容だった。事件そのもの、事件のなかの人物の諸事情、さらに皆実と護道、その他のメンバーたちの人間性やこれまでの人生などが巧みに描き出されていく。そういうのってドラマによっては、取って付けたようになったりうるさかったりすることが少なからずあるのだが、このドラマではとてもスムーズに挿入されていてストレスフリーだった。

 

 事件解決へ向けての皆実の聡明な推理や勇敢な行動が、なんとも言えず爽快だ。加えて、とことん人を信じる力があたたかい人間味と信念の深さを醸し出している。

 高い分析能力と、洞察力は、全盲であることを忘れさせる。いや、全盲だからこそ、の研ぎ澄まされた能力なのかもしれない。

 そして、いつでもどんなときでも、たとえ撃たれても(第8話)、冷静さを失なわず、事件を分析、推理して犯人や解決策を導き出していく。

 

 ドラマの根底を流れるあるひとつの物語、これが非常に濃厚なものだった。それが最終話でようやく真の姿を現すのだが、それも皆実の勘と緻密な調査、そして警察の仲間たちの協力のたまものだった。

 心太朗の実の父である鎌田(津田健次郎)は強盗殺人犯として無期懲役で服役している。その事件は心太朗が子どものときに起きた。心太朗は、事件当時警視庁の理事官だった護道清二(寺尾聰)に養子として引き取られる。護道家は代々警察官の由緒ある家系。兄の京吾(上川隆也)とともに大切に育てられた。

 

 どうしてこの警察官は心太朗を養子にしたんだろう、という疑問が第2話で湧く。何か事情があるに違いない、と視聴者の誰もが思うはずだ。それほどすばらしい心を持った人なんだろうか、それとも、何か裏があるのかな、とか。

 ともあれ、心太朗は正義の人間になろうと、警察官になって、必死で犯人を逮捕しまくるという熱血(?)刑事となった。

 そこへアメリカからやってきた皆実。全盲の凄腕FBI捜査官。はじめは嫌々ながら心太朗は皆実の世話をしつつ、二人で事件を解決していく。警視庁捜査一課も、はじめは皆実を疎ましく思っていたが、次第に皆実の優れた捜査能力を認めざるを得なくなっていく。

 1話から8話まで(犯人役に多彩なゲストを迎えながら)、さまざまな事件を解決していく。

 そして9話でにわかに緊張が高まり、10話のクライマックスへと突入した。

 

 この底辺を流れていた大きな事件は、政治家と企業家と警察の馴れ合いともみ消しという、表向きは大きく派手な構図のように見えていた。しかし実は、鎌田が冤罪かもしれないその事件は、皆実の両親が死に、皆実が視力を失うことになった、強盗放火殺人と言われているその事件、心太朗が護道家の養子になり、皆実がアメリカの祖父母のもとで育てられることになったその事件の背景に横たわっていた物語は、なんとも切ない、そして壮大な41+α年間の人間ドラマだったのだ。そして事件の真相には、鎌田と護道の、子どもたちへの愛情が深く絡んでいたのだった。

 

 ちょっとだけ疑問が残る。

 鎌田は無期懲役だから、文字通り終身刑という意味も含まれているのかもしれないが、聞くところによると15年ほどで出てくる人もいるという。ゆえに、死刑と無期懲役を廃止して、終身刑を設けるよう主張している人もいる。

 鎌田は41年間すでに服役しているわけだが、途中で出所することもあったかもしれない。まあ、そこは護道清二の胸先三寸、支配下にあったのかもしれない。

 加えて41年後に、護道清二がそこまでして守ろうとしたものは何だったのか?心太朗も皆実もすでにいい大人なんだし、もういいんじゃない?と私などは思ったりするが、そこは自分と家族、そして家名だろうか。

 そのあたりがいささかひっかかったのだが、まあ、細かいことである。

 

 以下のシーンは泣けました(泣きたい人は観てから読んでください)。

 鎌田が死の間際病院のベッドで心太朗に投げかけた言葉。苦しそうなかすれた声で「心太朗、腹へってないか?」。鎌田は子どものときのままの息子を今でも慮っていたんだね。

 もうひとつ、皆実が鎌田に言うセリフ「私たちは幸せでした。あなたのおかげで、みんなに愛されて生きてきました。おとうさんありがとうございました」。この言葉を聞いて鎌田はどれほど嬉しかったことだろう。立派な警察官になった息子二人。きっと誇らしい気持ちで旅立っていったことだろう。

 

 ここに来るまでに明かされた数々の真実と、皆実の明快な推理が秀逸だった。そしてそれが、本当に大きな過去のドラマとなって浮かびあがってくるという人生のマジックのような仕掛け。マジックショーでは種明かしはされないが、人生のカーテンの向こう側が見えたとき、たとえそれが残酷な真実だったとしても、人は救われるのかもしれない。

 けれどもこのドラマの場合は、その真実がネガティブなものではなかった。

 実際の人生ではネガティブな場合もあるので気をつけたい、とは思う。知らない方が良かったということもあるので。それでも真実を知ることは必要なのかもしれないが。

 皆実の語る言葉のひとつひとつに、重みと深みがあるところがまた良い。

 

 実は私は、福山雅治のことをあまり高く評価してこなかった。とくに若い頃の彼のドラマはなんとなく腹が立って観ることができなかった。

ガリレオ」は観ていた。話が面白かったので。福山も悪くはなかった。

「ラストマン」での福山は、ひじょ〜に良かった。ガリレオよりずっといい。皆実広見という人物がしっかり作り上げられている。福山を見直した(失礼かもしれないが)。

 今田美桜は、今回のこのような役を演じたら誰にも負けないのではないだろうか。こういった、主役を脇から支える役のほうが断然いい。

 大泉は相変わらずgood.

 

 さて、皆実広見と護道心太朗の関係説明は終わったので、あらためてこのバディが活躍する刑事ドラマとしてシーズン2を放送してくれないかな。希望、期待します。

「ラストマン」皆実と護道a la TsuTom ©2023kinirobotti