「カムカムエヴリバディ」
NHK2021年後期朝ドラ(2021年11月〜2022年4月)
脚本/藤本有紀
野暮なことをした。
安子とるいとひなたを占ってみた。
だから何なんだって話だが、生年月日がしっかり分かっていることと、3人の人生がなかなか興味深い100年の物語であることが、そうした他愛もない誘惑に駆られてしまった要因だ。
あくまでも私の占術であるタロット数秘術に基づくものです。興味を持ってくださった読者諸氏は、お遊び程度にお付き合いください。
安子が持って生まれたカード「No15悪魔」
〜キーワードを簡単に
束縛 情熱 熱狂 感情 人気 カリスマ 絶望 錯覚 詐欺 ユーモアと愛
るいが持って生まれたカード「No5神官」
〜キーワードを簡単に
先生 信仰 従属 帰属 規則 勉強 スピリチュアルな試練 慈悲
ひなたが持って生まれたカード「No20審判」
〜キーワードを簡単に
人生にとって本当に大切なものは何かを知る 浄化 昇華 コーリング
何がしたいのかを明確にする
安子のカードは「悪魔」なので、ちょっとびっくりする人も多いだろう。
実際占いの最中にこのカードを引いたときには私もできるだけの注意は促すし、安子のように自身のカードだった場合や未来の位置に出た場合には、相談者さんも驚くだろうし、私も説明に配慮を要するときもある。今少し説明を加えると、過去や現在の位置に出たときには、そういう時期だからいろいろあったんだ、あるんだ、と納得して逆に安心する相談者さんもいる。
私の数秘術の場合、このパーソナルカードがあなた自身だと思ってくださいとお伝えするので、自分は悪魔なのかと思って心を痛めてしまう人もいるのではないか、と想像したりもするのだが、そこは相談者さんのほうがずっとおとなのようで、カードが持つ奥深い意味に冷静に耳を傾けてくれる。
そもそも全てのカードがポジティブとネガティブの両面を持っているわけであるし、実際のところ悪い話をするわけではない。すなわち、カリスマ的性質を持っているのが悪魔の特質なのだから、人生で成功する可能性を十分に秘めている。世によくいうカリスマ〇〇である(ご承知かと思うが、カリスマ〇〇と言われている人たちがみなこのカードを持っているわけではない)。出世の方法において、ときに尋常ではなかったり、詐欺まがいなことをすり抜けて成功するような能力もあるにはあるが、世に出るということはそういうことなのかもしれない。とにかくパワーは強い。
昭和の初めといえば、家父長制の根付く極めて封建的で女性の自由や権利がほぼほぼないような時代に、安子は自分の生き方を貫いた女性だ。好きな人を諦めず、両家の反対を押し切って結婚した。その前には、兄である算太が実家の和菓子店を継ぐ気持ちが全くないのをみて、自分が和菓子店を継ぎたい勢いでもあった。
夫である稔が戦死したあと義母から雉真家を出ていくように意地悪を言われても、自分は稔さんの妻だと言ってひるまず、娘のるいを置いて再婚するように促されると、今度はるいを連れて自立の道を選択する。
ロバートとアメリカへ行くという選択も、るいに嫌悪を突きつけられるというアクシデントのあとのいささか正気ではいられない状況だったとはいえ、なかなかの思い切った行動である。ある種の束縛、しがらみから逃れる選択とも言える。
のちに安子についてのあれこれを聞いたひなたは、安子すなわち祖母のことを、最先端を行く人だったんだ、と感想を漏らしている。
古い習慣や規則、拘束を嫌い、女性としての自由を求めていたように見える安子は、このカードのエネルギーをまさに生きていたと解釈することができる。
加えて、大きな絶望のなかにありながらも情熱を失うことのない人だった。ただ、稔への強い想いが執着となって(ある意味美しいのかもしれないが)、さまざま齟齬が生じてしまったとも言えそうだ。
最終週で「稔さんの願いが叶った」と安子は言っていたが、稔への想いだけを心に秘めて生きた生涯だったのかもしれない。ロバートとのアメリカでの生活は、稔との思い出を大事に包んでおくことができる場所だったのかもしれない。アメリカで映画の勉強をしてその仕事に就いたのも、稔と観た時代劇の記憶がそうさせたのだろう。
他からの束縛を嫌いつつ、一方で自身の思いには縛られ、激しい感情うずまく怒涛の人生が、悪魔カードの妙技のひとつと言えようか。
アメリカでの生活については、ロバートが木漏れ日のように優しい人で幸せだったということ以外詳しく描かれていない。とはいえ、人種差別的なことは多かれ少なかれあったであろう(ないはずがない)。ゆえに身勝手な空想になるが、カードの性質からするとおそらく安子は、挫けない意志と、愛とユーモアの精神、ときに巧みな処世術で艱難辛苦を乗り越えたことだろう、と想像する。
そして最後は、ようやく正体を明かして(しかもラジオ番組で)、るいに謝罪し、なんだかんだいって自分の思いを遂げ、そして100歳を迎える。あっぱれだ。
るいは、高校卒業後に大阪へ出て洗濯屋に住み込みで働くことになるが、「神官」というカードからすると、大学で勉強して教師になる道もあったはずだ。るいの能力を抜群に発揮できたかもしれない。洗濯屋でも知性的な振る舞いではあった。そして、前の記事でも書いたが、品性はそこはかとなく漂っていた。
ラジオ英会話をずっと聞き続けているなど勉強好きなところは、まさに神官カードの真骨頂である。あんこの作り方を安子のもとで子どものころに吸収するという、習い事が得意なのも生来の才能と言えよう。
精神的な試練を通して成長するという人生の課題を持っているのだが、父親がるいの誕生前に戦死していたり、安子とは幸せな時も過ごせたが、誤解や周囲の巧みな誘導によって結局は安子と生き別れてしまったり、額の傷による就職差別と失恋、錠一郎の謎の病気による挫折など、心に負担のかかる大きな出来事を体験している。
夫の錠一郎が仕事に就いていないので、るいが大黒柱として回転焼きの店を切り盛りしている。人を導く力を持っているので、やっぱりそうなんだなと思ってしまう。一方でるいは、錠一郎がいつか音楽(トランペット)で復活してくれるのを待ち続けているという忍耐強さと慈愛の眼差しを忘れない。
ドラマではまったく描かれていないが、るいは、自分の考えやルールを押し付けるような厳格さを持っているかもしれない。ゆえに、母である安子とロバートが一緒にいたのを許せなかったのであろう。まあ、子どもなら誰でもそうなるかもしれないが、わざわざ自分の額の傷を見せて「I hate you」と言い放って扉をぴしゃりと閉じる、すなわち母親を追い出す行為をしてみせるのは、神官が悪魔を教会から追い出すかのごとくにも見える。
一方で、自分の娘と息子に厳しくあたるシーンはなかった。それは、出産までの精神的試練によって成熟した証しなのかもしれない。
カード的に言えば、母の愛よりも父の愛に近いだろう。厳しい愛、である。
人に何かを教えたりすることも得意だ。3日坊主のひなたに、あんこの作り方を教えたり、ラジオ英会話をようやく続けさせることに成功したり、人生について語ったり、親であり先生である人物を体現していた。
安子とるいは、正反対とも言えるカードを持っていることになる。悪魔と神官。長い年月を経て仲直りできたが、生き別れになってしまうのも言ってみれば運命だったのかな。悪魔と神官では相容れない部分もあるだろう。
ひなたは、明るく元気で開けっぴろげなキャラクターとして描かれていたが、実はなかなか複雑な精神を持っている人だ。
人生にとって大切なことは目に見えないことなのだ、ということを学ぼうとして生まれてきたというカードエネルギーの影響を受けているので、自分の性格に自分で手を焼いたり、望みがなかなか思い通りにいかなかったりすることも、自分自身や人生について考える機会となっていると言えよう。
けれども、自分のやりたいことが見えてからは、人生がどんどん前へと進んでいく。天職を得ることができたのだと思う。
そして、母・るいの周囲で起きていたこと、父・錠一郎が抱えていたことを知っていくにつれ、人生の機微を驚きながらも学んでいくこととなる。
失恋もあったりして結局ひなたは、60歳まで結婚せずに映画の仕事を続けた。30歳を過ぎてから本格的に英語に取り組み、40歳を過ぎてから留学するという、いわゆる人生の世間体には当てはまらない生き方である。葛藤しつつも結局のところは、自身のやりたいことをやりたいようにひとつひとつこなしてきたと言えるだろう。
やりたくないことを何かのために我慢してやる、ということは苦痛になるはずだ。が、一方でその考え方を誰かに押し付けてしまうと、相手にプレッシャーを与えてしまうことになる。それが五十嵐との関係が壊れてしまった要因のひとつと言ってもよいだろう。
そして、母・るいが見失ってきた人生での出来事の複数の点が線となって結びついていくためのエンジェルの役割を、ひなたは図らずも担うこととなった。
関係性をみてみると、安子とるいの間が「No11力」なので、二人で協力しておはぎを売っていたときは良かったし大いに繁栄したのだが、歯車が狂ってしまったあとの転落具合が半端ではない、という現象はまさにこのカードを体現している。このカードのパワーは、上にも下にも同様に強力に働くので。
るいとひなたの間は「No16塔」なので、相性が良いか悪いかという観点からだけで見れば、良くない。ドラマでは描かれていないが、るいとひなたは互いに理解しずらい部分があったはずだ。そもそも礼儀正しくきちんとして勉強好きのるいと、だらしなくて三日坊主で勉強嫌いのひなたでは、相通ずるものがないと言っても過言ではない。
けれども、互いが互いの存在とその個性を認め合って、干渉しすぎないことが調和の原動力となる。それは、大月家ではできていたようだ。ここでは詳しくは述べないが、父親である錠一郎と弟の桃太郎のエネルギーも大いに緩和剤となっている。
安子とひなたの関係性は「No17星」。このカードを私は才能カードと呼んでいる(他にそう呼んでいる占い師はいないかもしれない)。まさにスターのカード。
安子はひなたの才能を引き出してくれた。ひなたは安子のすすめで留学して本領発揮、キャスティング・ディレクターとなり成功する。
もともとそういう星のもとに生まれたこのふたりは、出会うまでに時間はかかったが、出会ってからは互いの助力によって光り輝いていった。
安子も、ひなたの存在によって、これまでの長い長い人生を回収する道が開けたと言えるだろう。
最後に、安子とるいとひなたの関係性は「NoO愚者」。
3人は、それぞれ勇気を持って新しい一歩を踏み出した女性たちだ。ときに、軽率なことも愚かなこともあったが、3人のエネルギーが近づいていくに従って、3人ともより率直になっていく。そして3人が集合すると、その無限の可能性が迸る。
加えて、3人は、3人で鍋を囲んでおいしいあんこをつくる。まるで幼い日が戻ったかのように。
ざっとみてきた。
すでに分かっている物語に合わせて占っているので、それは何とでも言えるかもしれない。確かに、どのカードからも誰の人生をも語れるかもしれない、ストーリーテラーならお手の物だろう。
同じようにみえる人生でも、そこに行くまで、それを選択する理由の根底にあるものが、カードのエネルギーによって違ってくる。また、明らかな違いも見て取れる。例えば安子とるい。持って生まれたカードが逆だったらと想像してみると、やっぱり違うように思う。安子は情熱的で、るいは抑制的だ。安子は激しく、るいは静かだ。やはりカードは正直に物語ってくれる。
とはいえテレビドラマ、架空の世界です。楽しんでいただければ幸いです。
そして、もしかして何かのお役に立てることもあるかもしれないと願いつつ、筆を置きます。