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「凪のお暇」~依存からの脱却~2019夏ドラマ終~

黒木華ファンとしては、とても楽しめた作品だった。

が、正直なところ最終話にいささかの不満が残る。

 

「凪のお暇」TBS夜10時

黒木華高橋一生中村倫也市川実日子

 

これは登場人物たちの「自立」の物語だった。経済的に独り暮らしができる、という自立ではなく、精神的自立。様々な「依存からの脱却」である。

 

会社の人間関係にくたびれ、そして恋人との間柄にくたびれ果てた凪(なぎ・黒木)が、これまでの生活から逃げ出していっときのお暇(いとま)をする物語。テレビドラマ「すいか」や映画「めがね」を思い出すテイスト。余談だが、どちらも小林聡美主演で、市川実日子も出演している。「凪のお暇」に市川実日子が出演しているので、よけいにそう感じるのかもしれない。

 

結論から言うと、凪は自立できた。嘘の自分、モラハラ的恋人関係、そして毒親からも。途中、いくつかの誘惑はあったが、それにふらふらと吸い込まれてしまうことはなかった。

凪の元恋人である慎二(高橋)も自立できた。エリートだが愛のない家族と、そして大きな口はたたくが実は弱虫だった自分から。

凪がお暇先で好きになってしまった隣人男性のゴン(中村)は、自堕落な生活と女性関係から、自立できた……?この人の場合、すぐ元にもどりそうではあるが。余談だが、ゴンは、「半分、青い」で中村が演じた正人を彷彿とさせる役柄だ。

坂本さん(市川)は、頼っていたパワーストーンから自立した。

緑(三田佳子)は、長年避けていた家族と和解。逃げている頑固さからの自立。

白石みすず(吉田羊)。みすずは、登場人物のなかで唯一はじめから自立している女性と言ってよいだろう。彼女の存在が、凪のお暇に関わってくる人々をひきしめている。けっしてぶれず、自分と娘を信じてまっすぐに生きているステキなシングルマザー。

 

坂本のパワーストーンは分かりやすい依存だ。カルト的グループに参加して購入した。凪とハローワークで出会ったばかりのとき、坂本は凪に参加するよう誘っている。

慎二のサイコパス気質は、家族の不具合から来ているものだった。凪へのモラハラ、支配的態度は、その反動だろう。そうしなければ生きていけない、自己破たんしてしまいかねない。家族の不調を外で解消する典型だ。慎二は凪を支配して満足感を得ていたのだが、凪がいなくなってから、自分が凪のことが本気で好きだったことに気づくという情けないあまのじゃくぶりも見せていた。

ゴンの人たらし言動。これは、彼の背景が明瞭ではないので、どこから来たものなのかは分からない。生来のものかもしれない(そういう意味では慎二もそうかもしれない)。ゴンは、凪のことが好きになり、あまたの女性たち渡していた部屋の鍵を回収することで凪への愛の証とした。けれども、こういう人は必ずまた同じことをする、と私は思っている。慎二も同様だ。

 

お暇生活をはじめてからの凪は、用心深い。坂本のパワーストーンにも誘惑されないし、詐欺会社で働き始めた坂本を救い出したりもする。

慎二が未練がましく訪ねてきても、それに引きずられることはない。

ゴンのことは好きになってしまったが、そちらへ行くのは魔の道だと認識している。 

これまでのドラマにありがちだったのは、「やっぱりそっちへ行っちゃうのか」というパターン。そして主人公は苦しむ。ずるずると抜け出せない。抜け出せないどころか、新しい環境をことごとく古い環境に戻してしまう。

このドラマで言えば、慎二のサイコパス態度は横に置いて、慎二の本心を知った凪が慎二のもとに戻る、というストーリー。慎二って実はいい人じゃん、いいとこあるじゃん、を視聴者に伝えて来るシーンはいくつかあった。そのたびに、ひょっとして寄り戻す?空気読みながらなんとか慎二の理想の女性になろうとずっとやってきた凪のことだから戻っちゃうんじゃないか?的な感情を送り込んできていた。

別のドラマで言えば、乱暴なほど厳格で支配的だった父親が、実はおまえのためを思ってのことだったんだとお涙ちょうだい的シーンで親子が和解する、そんな場面だ。

このパターンだと、凪が反省することになる。そういったドラマ、昭和は特に多かったように記憶している。だから、そんなストーリー展開に一度もならなくてよかった。戻るか?と思わせて、毅然としている凪。これは、これからの女性(視聴者)たちの人生に少なからず影響を与えてくれるかもしれない。

人権無視、父権主義、男尊女卑がベースとなっていた日本のドラマは、古臭くなりつつある。「凪のお暇」は、それをコメディタッチで描くことに成功したドラマではないかと、いささか誉めすぎ、誇張しすぎかもしれないが、思う。

 

で?最終話、凪はどっちを選ぶの?慎二orゴン?と思っていた視聴者も多かったのではないかと推測する。

私としては、これでどちらかを選んだら、凪にがっかりだなと思っていた。おそらく最終話は、どちらも振って、どこへも戻らず、自立した道を歩んでいくことになるのではないかと予想し、そうなってくれと願っていた。

よかった。裏切られなかった。

 

冒頭に書いた「ちょっと不満が残る」のは、坂本さんだ。

東大卒の坂本さんは仕事探しに苦労している最中にお暇している凪と出会った。そんななかで、近所のコインランドリーが跡継ぎがおらず閉店することになった。安く買えるということで、凪と坂本さんは、二人でそこを買って事業を始める計画を立てる。が、用意していた支払いができなくなり、諦める。それでも夢は諦めないと、いつかやってくる日のために、それぞれ仕事をしながら「憩いの場としてのコインランドリー」を経営するための勉強と準備をしようと励まし、誓い合う二人。

ところが、坂本さんは男性と暮らし始めてしまう。そっちへ行ってはいけないと、何度も凪を止めてきた坂本さんだったのに、いとも簡単にそっちへ行ってしまった。相手の男が、慎二の兄で、親に逆らいまくっているユーチューバーであることに意味があるのかもしれないが。つまり慎二の兄は、家族の束縛から自立している人なので。

もしかしたら、坂本さんにとっては、恋人をつくって一緒に暮らすことが新しい次の道だったのかもしれない。まさかの……。生真面目な人ほど陥りやすいパターン?

これが最終話の、極めて個人的に回収不能の落胆である。

 

私の予想、いや妄想はこうだった。緑さんは、どうやら資産家のおばあちゃんらしいので、例のコインランドリーを買ったというのは実は緑さんで、最後、自立した凪と坂本さんがそこで事業を始めてめでたしめでたし。

全然違ってしまった。まあ私の妄想はおめでた過ぎるか。

 

いずれにせよ、凪が自立できてよかった。  

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「凪のお暇」©2019kinirobotti