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「虎に翼」第10週〜好きで学んできた 好きでここに戻ってきた それが本当の私

 憲法、民法について学べる週だった。

 そして、トラちゃんらしさが戻ってきて嬉しかったけど、ショックも同時にやってきた週だった。

 

「女の知恵は鼻の先?」

女は目先のことにとらわれて、先のこと、大局的なことが見えなくなりがちだということ。

(ことわざ辞典)

 そうなんだろうか。わざわざ「女の」と付け加える必要がどこにあるのか、良くわからない。これも、性差の問題ではなく、人による。加えて、時と場合、あるいは物事によることもあるだろう。

 

脚本/吉田恵里香

出演/伊藤沙莉 石田ゆり子 森田望智 三山凌輝 

   松山ケンイチ 沢村一樹 名村辰  岩田剛典

語り/尾野真千子

 

 そして、このドラマを観る限り、そうさせているのは世の男性たちのようだ。すなわち、建前的には、大きな社会のことよりも、自分の身近なことに目を向け、関わることが女性の幸せだろう、と。本音的には、家事だけやってろ、社会のことに首を突っ込むな、ではないだろうか。

 

 寅子(伊藤沙莉)は、司法省の桂場(松山ケンイチ)には断られたが、久藤頼安(沢村一樹)に気に入られて、司法省民事局民法調査室に配属され、久藤のもとで働くことになった。

 久藤は自分を「頼安(よりやす)」からライアンと名乗り、寅子のことは「佐田」からサディと呼ぶ。ちょっとアメリカかぶれの殿様判事(世が世なら久藤藩藩主だった)。

 このアメリカンネームで呼ぶという遊び(?)、「カムカムエヴリバディ」(2021年後期朝ドラ)でもあったな。ジャズ仲間でベリー(市川実日子)とかトミー(早乙女太一)とか…。

 

目次===

〜民法改正草案

〜〜花江と甘くとろけるチョコレート

〜〜〜寅子の覚醒

〜〜〜〜日本国憲法

〜〜〜〜〜花岡の死

〜〜〜〜〜〜追記

=========

 

〜民法改正草案

 寅子が担当するのは「民法 親族編 相続編」の法改正草案の作成。

「新民法では、家制度、戸主、家督相続の廃止、婚姻や相続の場面においても、女性の地位向上がはかられている」とライアンは説明する。

 実は寅子、ここへきてからスンとしているのだった。保守的になっている。たぶん自分の家族を守るため、なんだろう。そんな自分を「謙虚」と言われていささか気にしている寅子。あれは良い意味で言われていない、と。わかってるじゃん。

 

 民法改正審議会の委員のひとり、帝大教授の神保(木場勝己)は改正草案を見て、「我が国の家族観を、この国を、破滅させる気かな?」と言う。

 あれ?これって、つい最近どこかで聞いたようなセリフ。同性婚とか夫婦別姓の法案を通すことを野党が求めたときに、自民党がそれに反対する理由として言ってなかったっけ、同じこと。

 古き良き美徳、家制度、戸主制度がなくなって、家族のあり方まで変わったら、国中が混乱する。そんな先のことを見ている場合ではない、未来ではなく今困っている人を助けることが大事。ああ、これ、「女の知恵は鼻の先」ですね。そして、もっともらしいことを言って、先のばしして消滅させようとする手法。どこかの党のお家芸だと、思想家の内田樹が言っていました。

 もちろん、そういうこともある。今目の前の事に対処するほうが大事というときもあるけど、ここは民法を作成している現場。憲法もそうだけど、そこには理想が書かれている必要があるはず。これから目指すべき世の中の姿を言語化して、それに従って理想へ向かって社会を営むための法だ。

「我が国の国民にあった民主化が必要だ」とも神保は言う。これもつい最近、似たような言説をどこかで聞いた記憶がある。

「神保は保守のお手本のような人だ」と評するライアン。なるほどなるほど。ライアンさんはアメリカかぶれで、そのうえ胡散臭く見えるが、非常にフラットな思想を持っている人物のようだ。日本にも、しかも敗戦直後に、こういう人(男性)が一定の割合でいたんだろうな。ちょっと救われます。

 

 審議会では穂高(小林薫)と神保がやりあう。

神保 なぜ今の家族のあり方を否定する必要があるのか。

穂高 男性に権利が偏っている家制度が、均斉が取れているとは思えない。そもそもこの審議の場に、女性が佐田くんしかいないというのも問題だと思う。

 それは今もほとんど変わっていないのですよ、残念ながら、穂高教授。

 

 婦人代議士の集まりで意見を聞く寅子。

立花(伊勢志摩) どうして男性は封建的な家父長制にしがみつきたいのかしら。

寅子 日本の古き良き家族観、美徳が失われる、と。

議員 古き良きなんて、明治時代からはじまった決まりばかりじゃない。

議員 女性たちを縛り付けておきたいの間違いでしょう?

立花 あなたもお偉い先生方にビシッと、言っておやりなさいな。

寅子 …そうですよね。

  スンとしている寅子、本当の自分を取り戻してくれ!

 この立花さんのモデルは市川房枝さんでしょうか。

 

「我々は、封建的家族制度の残滓を一掃し、世界に誇るに足る、真に民主的な民法改正が実現されることを希望するものである」

 という内容の決議書が立花たちから提出され、寅子も署名に参加して名を連ねた。

 各団体から意見書が出揃ったところで再び民法改正審議会が開かれる。

 寅子が挙手し、そして意見を述べる。

「今も昔も思っております。個人としての尊厳を失うことで守られても、あけすけに申せば、大きなお世話である、と」

「ひとりひとりの尊厳を信じ守れば、家族を大事にするという美風は失われないのではないか」

 神保も反論する。

「みんなが自分のことばかり主張しだしたら、家族なんてすぐにちりぢりになってしまう」

 もしかして神保は、家族がバラバラになるような経験をしているのかもしれない、と私はふと思った。だから、そこはどうしても譲れない。

 意外と人間って誰でも、自分のトラウマで動いていたりするんですよね。

 

 寅子は、改正草案を花江(森田望智)とはる(石田ゆり子)に読んでもらい、感想を求める。

「カタカナばかりで読みにくいわね」

「なんでこう私たちに分からせまいとする書き方をするのかしら」

「きっと自分たちが頭がいいって自慢したいんじゃないかしら」

 これによって、寅子は口語表記の提案をし、それが通る。

 カタカナ文字よりも全然読みやすくはなったけれど、口語とはいえ、いまだに分かり難い条文や役所の手続きはいくらでもある。そうか、自慢したいのか。

 いやいや、それだけじゃなくて、わざと分かり難く複雑に、面倒にして、庶民に理解させたり判断させたりするのを困難にして、なんだったら諦めさせようという意地悪な意図さえ感じる(給付金とか年金とか)。文字も小さいしね。さらに、権力者側に都合よくなんとでも解釈できるようにするため、もあるのでは?

 

〜〜花江と甘くとろけるチョコレート

 猪爪家では、寅子がアメリカ人と仲良く仕事をしている話を聞いて、楽しそうにしている。ただひとり、花江はいっしょに笑えずにいた。アメリカは直道(上川周作)の敵の国。

 アメリカ(人)を受け入れられない花江。怒涛のように変化していく世の中についていけないようだ。

 ある日、GHQから派遣されて民法改正に携わっているアルバート・ホーナー(ブレイク・クロフォード)が、寅子にチョコレートをくれた。その夜、そのチョコレートを家族で食べていると、ライアンとホーナーが猪爪家へやって来る。家族が多いと聞いていたので、どうしてもたくさんのチョコレートを寅子の家族ために渡したい。と。

 子どもたちの喜ぶ姿を見て涙ぐむホーナー。ホーナーは、祖父母がユダヤ人で、ドイツからアメリカに亡命。戦争では大勢の親戚が犠牲になったそうだ、と語るライアン。

 このホーナーにもモデルの人物がいるそうだ。第二次世界大戦の心底恐ろしかったところのひとつに、ホロコーストがある。こんなことができるって、人間じゃない。人を人間じゃなくするのが戦争かもしれないけど…それでも……。

「戦争で何も傷ついていない人なんていないですよね」直明(三山凌輝)の指摘は聡明で的確だ。

 それを聞いていた花江。チョコレートを受け取って、Thank you for childrenとホーナーに礼を述べる。

 ようやく花江の心も救われた、かな。

 チョコレートごときで手なづけて、と思う人もいるだろう。私もそう思う。私の母のおじが当時アメリカ大使館(?)で働いていたそうで、とにかくそこにはお菓子がいっぱいあった、と母が話しているのを聞いたことがある。戦中よりも戦後のほうが食糧難だった日本。しかも甘〜いお菓子なんて夢のような食べ物だったんじゃないだろうか。

 花江は、もちろんチョコレートによって救われたわけではない。ホーナーにも辛い体験があるのを知ったからだ。もちろん、花江にだってそんなこと「分かっている」。頭で分かっていることが、心にストンと落ち込んだ瞬間だったのではないだろうか。

 確か「ごちそうさん」(2013年後期朝ドラ)でもこういうシーンがあった。め以子(杏)の次男が戦死してしまった。め以子はずっとアメリカ(人)を憎み続けていた。アメリカ人に料理を振る舞うことになって、しぶしぶ引き受けるめ以子。そこで、そのアメリカ人も家族を失ったという話を聞いて、め以子の心は次第にほどけていく。

 

〜〜〜寅子の覚醒

 桂場は寅子の採用には反対だった。が、スンとする寅子を見る桂場の奇妙な表情から察するに、どうやら桂場は、寅子にスンとしてほしくない、謙虚であってほしくない、と思っているようだ。そう視聴者にも分かる演出。

 民法改正審議会の日、穂高が寅子に別の仕事を探してきて、法曹界をやめるよう勧めてきた。もう苦しむ必要はない、寅子をこの道に引きずり込んで不幸にしてしまったことをずっと悔やんでいた、と言う穂高。

「はて?」

 ようやく出ました「はて?」。

 後方にいた桂場も「おっ(でた)」というような顔つきを寅子の背に向けた。

 私は、この穂高という人の価値観が良くわからない。先進的で民主的で平等を求める発信をするのに、なぜか寅子には保守的なことをすすめる。寅子が妊娠したときもそうだった。なんでなんだろう。これも「女の知恵は鼻の先」かな。

 この人の場合は、理想やより良いことは何なのかということは分かっていて、それを書いたり、発言したりはするけれど、いざ目の前の、例えば、家族とか知り合いとか、寅子のような親密な教え子のこととなると、保守的になってしまうのかもしれない。そういう人っていつの時代にもいる。例えば、他人のことには物分りがいいのに、自分の家族に関してはやたらと厳しく束縛する父親、とか。

 こういう人って、ちょっと扱い難いかも。言動不一致だから。

 けれども、ここではこの穂高のトンチンカンな思い遣りが功を奏して、寅子の心に火をつけた。

私は、無理に法律を学びつづけたわけじゃない。好きでやったんです。好きでここにいるんです。

そうです。私は好きでここに戻ってきた。戦争や挫折でいろいろと変わってはしまったけれど、私は好きでここに来たんです。それが、私なんです。

だから、ご厚意だけ受け取っておきます。

 よかった、これこそトラちゃん。優三さん(仲野太賀)が大好きだったトラちゃん。

「私はまた問題を起こしたか」と驚いている穂高に、「いや、ある意味、背中を押してやれたんじゃないんですかね」と返す桂場。

 

〜〜〜〜日本国憲法

第11条「国民は すべての基本的人権の享有を妨げられない」

第12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は 国民の不断の努力によってこれを保持しなければならない」

第13条「すべて国民は 個人として尊重される」

第14条「すべて国民は 法のもとに平等であって 人種 信条 性別 社会的身分 又は門地により 政治的 経済的 又は社会的関係において 差別されない」  

 しみじみと読み上げる寅子。

 X(旧ツイッター)に次のような投稿があった。

國本依伸@yorinobu2 6月7日
まさか自分が生きてるうちに朝ドラで日本国憲法12条が全国津々浦々、各家庭の茶の間に届けられる日が来るとは、つゆほども思わなかった。
#虎に翼


錦見 真樹@009sapphire 6月7日

法学部にいた数十年前から、ずっと思ってました。まだ実際には、日本の隅々まで、みんなに日本国憲法が行き渡っていないんじゃないかって。でも今回、全国ネットの朝ドラがそれをやってくれたのでは

 

内田樹@levinassien 6月7日
NHKの人が「報道は腰抜けですが、ドラマは違います」と言っていたことの意味がよくわかります。NHKえらい。

 

〜〜〜〜〜花岡の死

 かつて、いつも仲間で昼食を取っていた公園のベンチ。

 そこへ花岡(岩田剛典)が現れる。東京地裁で経済事犯専任判事をしている。食糧管理法違反の事案を担当。すなわち、ヤミ商売を摘発し、罰する。

 寅子は弁当の蓋を閉じる。ヤミで買った米だった。

 花岡の弁当の中身はとても粗末だった。 

「猪爪は変わらないな」と花岡に言われて、自分は変わってしまったようだ、とつぶやくように言葉を返す寅子。

「どうなりたいかは自分で選ぶしかない。本当の自分を忘れないうちに」そう語る花岡。これは、梅子(平岩紙)の受け売りだった。

 このときの花岡の箴言もあって、寅子は自分を取り戻すことができたのだった。

 帰り際、ホーナーからもらったチョコレートを半分渡そうとすると、花岡は拒否する。「自分のなりたい自分に反する」と。お子さんに、と言うと受け取ってくれた。

 夕刻、桂場の顔が見たくなったと、花岡は桂場を訪ねる。

人としての正しさと、司法としての正しさが、ここまで乖離していくとは思いもしませんでした。でもこれが、おれたちの仕事ですもんね。

 そう言って静かに立ち去って行く花岡。

 何かを感じる桂場…。そっと見送る。

 

 その日以来、花岡を公園で見かけることはなかった。

 寅子が仕事場へ戻ると、みんなが沈み込んでいる。

「花岡が死んだ」とつぶやく小橋(名村辰)。

「え?」

 な、なんと、自殺かと思ったら、餓死……って。

 

 衝撃の知らせで第10週が終わった。

 この件については「第10週番外」で語らせていただきます。

「虎に翼」 寅子と花岡 ベンチにて この日が最後になるなんて ©2024kinirobotti

 

〜〜〜〜〜〜追記

 そうそう、あの水沼(森次晃嗣)、A級戦犯になったんだね。ライアンが言っていた。

それにしても皮肉だよねぇ。たくさんの犠牲を払ったあげく、戦争に負けて、そうしたら憲法が変わって、平等な社会に一歩近づいた。

で、きみはというと、水沼のじいさんがA級戦犯になって、やっと共亜事件の呪いから解放された。軍の甘い汁を吸っていた連中は全員いなくなって、一度外された出世街道にまたこうして舞い戻って来た。

 桂場は、あの見事な判決によって、出世街道から外されてたんだ。なんと。

 あの戦争によって、変な言い方だけど、良い方向に進んだ人もいたわけだ。それに、ライアンが言うように、「皮肉」だ。私も前にちょっと書いたが、この戦争に負けたおかげで、この戦争に負けたおかげで(おかげで、は語弊があるか)、国のあり方が良い方向に変わっていくことになった。

 もし負けていなかったら、家父長制、封建主義、男尊女卑はいまでも続いていたのかもしれない。そうはいっても、本質的にはあまり変わっていない、とも言える。日本のジェンダーギャップ指数は、146カ国中125位(2023年)だ。

 なんというか…こういうハルマゲドン的なことがないと変われないのか。

 現在起きている戦争や超格差社会、気候変動などについても、ハルマゲドンが起きなければ変わらない、と言っている人たちもいる。

「スター・トレック」もそうなんだよね。あの世界は、大戦争での破壊のあとなんだよね、確か。そのあとで、バルカン人たちと会って、そして地球は平和な惑星となる。ちなみに、「スター・トレック」の世界では「お金」はありません。

 寅子の時代は、まだ戦争で済んだけど(他に良い表現を見つけられないのでごめんなさい)、映画「地球が静止する日」(2008年アメリカ)みたいなことにならないとも限らないよね。映画がつくられるということは、ある程度まで真実味があるんだと思う。

 その話題はまた別の機会に。