ねことんぼプロムナード

タロット占い師のetc

テレビドラマ「赤鼻のセンセイ」〜人は笑うために生きている

 いやぁ〜ひっさしぶりに観たけど、い〜いドラマだ。

 

赤鼻のセンセイ」2009年日本テレビ 水曜夜10時

脚本/土田英生 根本ノンジ

出演/大泉洋 小林聡美 神木隆之介 須賀健太 香椎由宇上川隆也

 

 大泉洋の連続テレビドラマ初主演作品。

「ラストマン」(2023年TBS)を観て、かなり強い印象を受けた。そのあと偶然にその面白みを知ることとなった「水曜どうでしょう」を集中して鑑賞した。そして、そういえば大泉洋が出てる「赤鼻のセンセイ」ってドラマがあったよな、と思い出した。確か良いドラマだった、という記憶。観たいな、と思った。日本テレビだったからHuluで配信されてるかもしれない、と探したら、あった。

 今(2023年現在)からもう13年も前の作品である。

 内容は、やっぱり面白かった。笑いと涙のヒューマンドラマ。

 その内容もさることながら、他にもいろいろ感じ入った。

「ラストマン」で大泉洋福山雅治に魅了された私だったが、よく考えてみると大泉洋のドラマや映画をものすごくたくさん観ているわけではないのに、私のなかでなんだか存在感のある大泉洋。そういえば「救命病棟24時シーズン3」にも出てたよね、などと思い出す。

 他には、最近だと「元彼の遺言状」(2022年フジテレビ)。これも面白かった。

 映画「こんな夜更けにバナナかよ」(2018年日本)では、進行性筋ジストロフィーの主人公であり原作者を見事に演じ、三浦春馬高畑充希との共演は迫力があった。

 なんとなく雰囲気が好きだったのは、映画「しあわせのパン」(2012年日本)。実はこの映画は、大泉洋目当てではなく原田知世ファンなので観た、という経緯。

 

 そういう意味では「赤鼻のセンセイ」もそうだった。私は小林聡美のファンなのである。だから視聴しようとしたし、していた。大泉洋に注目していたわけではない。ゆえに実は、主演は小林聡美だとずっと思い込んでいた。今回13年ぶりに観て、大泉洋が主役なのだと認識した。よく考えてみれば当たり前だ。タイトルにある「赤鼻のセンセイ」は、大泉洋が演じる石原参太朗なのだから(ホスピタルクラウンとして活躍している副島賢和がモデルらしい)。

 石原は、家電量販店で実演販売員をしていた。その際、赤鼻を付けてお客の笑いを取っていたが、売り上げに貢献できずクビになる。そして恩師(実は病院の元院長)によって桜山総合病院を紹介される。桜山病院には長期入院の子どもたちのための院内学級がある。教員免許を持っている石原はそこの中学生たちの教師を任じられる(産休の先生のかわり)。

 責任者で小学生担当の太川絹(小林聡美)、美術の権田(光石研)、音楽の西森(平岩紙)とともに、院内学級を盛り上げようと、ときにはみ出しながら奮闘する。

 石原の生徒(中学生)は3人。八重樫守(神木隆之介)、和田雅樹(須賀健太)、田中香(高良光莉)。

 須賀健太神木隆之介も、今はりっぱな大人の俳優だ。須賀健太は「霊媒探偵・城塚翡翠」(2022年日本テレビ)に刑事役で出演していた。神木隆之介の活躍ぶりは、映画、テレビドラマ、CMと凄まじい。現在(2023年)は朝ドラ「らんまん」で、槙野万太郎を主演している。これは、植物学者・牧野富太郎の生涯をモデルとしたドラマだ。

 

 病気の生徒たちを励まし、面白がらせようと、あの手この手で騒動を巻き起こす石原。でもそれが結果的に良い効果をもたらすという、言ってみればお決まりのパターンなのだが、それでも単純に面白い。大泉ならではの効力なのかもしれないし、あるいはこの役は大泉だからこそドラマとして実現した、とも言えるのかもしれない。

 どんな世界も小さくまとまってはステップアップできない。どこかではみ出していかなければならない、ということを赤鼻の先生が体現している。

 だからといって、ドラマ全体がうるさくない(石原先生の声とジョークはうるさいが)。もちろん敵対的な人は出てくるが、最近のドラマのように激しく対立させたりしない。病気についても重篤な場面もあって視聴者はハラハラさせられもするが、そこで過度な感動を押し付けるような演出はない。

 BGMも適切だし、主題歌も良い。上に「うるさくない」と書いたが、最近のドラマはBGMもテーマソングも妙にうるさい(ものが多い)。それでもここ1〜2年ですこし変化してきているようには見受けるが。

 こういう言ってみれば「静かなドラマ」は、このところ全くと言ってよいほどなくなってしまった。と、このドラマを観ながらあらためて思った次第。

 

 難を言えば、最終話の唐突なハッピーエンドがちょっと解せなかった。なんで突然そうなるのかな…。いや、ハッピーエンドだから問題はないのだが…。

 もうひとつ解せないというか、消化不良(回収されていないように思う)なのが、太川先生。何しろ私は小林聡美に注目して観ていたので、小林演じる太川の過去について、結局なんだったのかな、という不満が残る。

 太川は、謎の人物として描かれている。石原にあれこれツッコミを入れてくるし、淡々と話す内容に力がある。それより石原が病院に来た当初、石原の赤鼻を自分についけて子供を笑わせるという技を見せてくれた。

 石原は、自分にいちいち突っかかってくる太川のことを知ろうとする。そして、院長の桜山真(上川隆也)から太川が浅草の劇場の娘だと聞かされると、その劇場を訪ねていく。そこには大道芸人たちがいた。もちろん赤鼻もいる。芸人たちの話によると、太川絹はシルクちゃんと呼ばれていてみんなの人気者だったが、18歳のときに突然家を出てそれきりここへは来ていない、という。どうやら父親と確執があったようなのだが、そのあたりの事情はその後まったく描かれていない。ただ、石原が太川の弱みを握ったというエピソードに終始。

 大道芸人の娘だから、ちょっと鋭くて、そして生徒たちを笑わせることができるのかという理解も、視聴者としては成り立つ。だとすると、それは石原が目指している「赤鼻のセンセイ」の理想の姿なのかもしれないという想像が私のなかで働いたが、そういった状況もセリフも展開もなにもなかった。

 そのうえ私は、今回再視聴するまで、石原が太川と父親の確執についておせっかいに絡んで解決するといったエピソードがあったと記憶違いまでしていた。そんな回はなかった。13年前に私が勝手に展開させた単なる空想だったようだ。

 けれども、やっぱり気になる。太川と父親の関係も描いてほしかった。

 

 とはいえ、何でもかんでも親子関係やその人物の背景を突っ込んで描けばいいということではないのかもしれない。心理学的に、人間というのは環境や背景でできていて、抱えている問題はたいてい家族や過去の影響下にある。ゆえにそこをえぐり出していくドラマも多々あるし、犯罪ドラマでもその部分は大きい。FBIのプロファイリングというのはまさにそれである。

 このドラマ、実はそのあたりあっさりしている。ひとつそういった込み入ったエピソードがあるにはあったが。

 なにしろ、石原の家族がどういう人たちでどこに住んでいるのかもまったく描かれていない。須賀が演じる和田の父親は数回登場したが、神木が演じる八重樫の親は登場しない。高良が演じる田中の友人は登場した(ストーリーの展開上必要)が親は見当たらない。

 そういう意味では、ある種不可思議なドラマではある。

 けれども、ドラマ展開的に不必要なアイテムは極力カットしてもいいのかもしれない、とふと思った。石原先生と生徒たち、太川、そして病院とスタッフたちとの関係のみを描くことで、シンプルな内容となっている。

 それでも主人公のここまでの人生の歩みや関係者がまったく出てこないって、なかなかすごいかもしれない。親と恋人はドラマの必須アイテム的なところがあるので。長所としては、主人公の恋愛エピソード的なものが皆無だったので、ストレスなく観ることができた。

 ただ、今振り返れば、石原はいったいどんなプライベートなんだろう、と謎な感じは依然として残る。

 

 ドラマのなかでも言っていたが、病院で笑いがあると患者が回復する、という調査結果がある。私も英語の教材で読んだことがある。そこでは確か病院で落語をする、というものだった。院長の桜山真はそういった笑いについて考えている人(実はアメリカに行っている兄は違う立場)。ゆえに真は石原を応援している。

 その調査結果も踏まえてのこのドラマだったようだ。

 余談になるが、この院長の桜山真は上川隆也が演じている。上川は、「ラストマン」では大泉演じる護道心太朗の兄、護道京吾役だ。大泉と上川は「赤鼻のセンセイ」ですでに密な共演をしていたのだった。すっかり忘れていました。

 

 オープニングで「まえだまえだ」のかわいらしい漫才が毎回披露される。彼らもいまではすっかり大人の俳優だ。

 

 上に書いた私の不満足な点を表現するには、話数が足りないのかもしれない。

 シーズン2があってもよかったのに。

「人は笑うために生きている」は、名言だ。

赤鼻のセンセイ」の大泉洋a la TsuTom ©2023kinirobotti