安藤玉恵ってすごい人だな、と思った。
「とんかつ屋のたまちゃん」
安藤玉恵著 幻冬舎
現在(2025年)49歳の俳優・安藤玉恵が、ここまでの人生を振り返るエッセイ。
1〜2時間くらいで読めます。
とてもインパクトのある俳優で、「あ、この人みたことある」から「あ、この人また出てる」となって、「ああ、この人安定感あるよなぁ」と、私の安藤玉恵への評価はおそらくここ10年くらいの間に変わっていった。
容貌なのか、演技なのか、一度みたら記憶に残る俳優だと思う。
この本のような半生を振り返る、すなわち子供時代、学生時代を振り返る著作を読むと、自ずと我が身を振り返る、というか読書とともに自動的に記憶が蘇ってきたりして、良いのか良くないのか、ときどき分からなくなることがある。なぜなら、思い出したくない出来事もあるからだ。
でもこの安藤の回想録には、思い出したくないような、ちょっとひどいなそれ、というアクシデントのことなんかも書かれていて、なんだか救われた。誰にでもあるんだよね、理不尽なことって。
実家は「とんかつ屋」。商店街で育った著者の周辺には、さまざま騒がしい人々がいる。そんな人たちを話し相手にしていたというのがすごい。
加えて、著者の両親、祖父母、親類がみんな、なんだが奇妙に個性的で驚くばかりなのである。やはり安藤一族は、人一倍パワルフなのだろう。でなければ、こんな生活をしているはずがない(ぜひ、お読みください)。
そもそも、もちろん、安藤玉恵自身がすごい。上智大学を中退して、早稲田大学に入りなおす(夜間)のもすごい。いやいや、上智大学に合格する時点で相当優秀だ。意味を見出せないからって、こんな優秀な大学やめるか?
でも、早稲田に入って、そこで演劇と出会うので、これは運命…なのだろうな。どうしても著者を演劇と引き合わせたい、何か目に見えない特別な力が働いていたとしか思えない。
やはり、役者をやるような人が持っているエネルギーというのは強大なのだなと、あらためてこの本を読みながら感じてしまった。
そうでなければ、俳優業は務まらないだろう。政治家と似ているかもしれない。
もちろん、さまざまな人間の役を演じるのであるから、繊細でもあるにちがいない。感受性も豊かだろう(そうでない俳優もいるだろうが)。が、ただ単に繊細で感受性が強いわけではない。それを役者のエネルギーに変換するパワーと特殊能力を持っているようだ。
結婚もして、子供もいる。ちょっとそんな風には見えない…ですよね…。独身の役者バカ的雰囲気を、私は感じてきた。
最近のドラマだと、「らんまん」(2023年NHK朝ドラ)の十徳長屋の差配人役もよかったし、「ゴールドサンセット」(2025年NHK)と「僕達はまだその星の校則を知らない」(2025年カンテレ)では、母子家庭でのちょっとナイーブな娘の母親役がすっごく適役だった。
そういえば「阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし」(2021年NHK)で、木村美穂を演じた。うまかった。安藤が阿佐ヶ谷姉妹じゃないかと錯覚した。
これからどんなドラマ、映画で、どんな役を演じるのか、安藤玉恵がますます楽しみである。見逃せない。見逃したくない。
松尾諭の自叙エッセイ「拾われた男」(2022年NHK)のように、NHKでドラマ化したら面白いのではないでしょうか。
