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「僕達はまだその星の校則を知らない」〜更に新たな正しい時代をつくれ 新たな星の誕生がはじまっている

 視線の先がきらめくドラマ

 

「僕達はまだその星の校則を知らない」

2025年7〜9月カンテレ(フジテレビ)月曜夜10時

脚本/大森美香 

出演/磯村勇斗 堀田真由 平岩紙 坂井真紀 尾美としのり 稲垣吾郎

           市川実和子 木野花 光石研 西野 恵未 他

           (生徒)日高由起刀 南琴奈 日向亘 中野有紗 月島琉衣 近藤華 

                越山敬達 菊地姫奈 のせりん 北里琉 栄莉弥 他

 

 やはりカンテレ制作のドラマ「僕らは奇跡でできている」(2018年 脚本/橋部敦子 主演/高橋一生)を思い出した、と言っているドラマ評論家がいた。まあ、確かに。背景や雰囲気は少し似ている。「僕らは奇跡でできている」は大学が舞台、主人公は研究者だった。

 どちらの主人公も純粋である。そして、生徒(学生)たちが自身の道を自ら見出そうとする、見出していくという、葛藤と光が感動的に描かれている。

 

 「僕達はまだその星の校則を知らない」というタイトルを見て、第1話を視聴しようかというとき、私はふと疑問を抱いた。「その星の校則」?すなわち、最初、題名を誤解して「その星の法則」だと思っていたからだ。え?「校則」なんだ。

 星は学校ではない。最終話を見終わって、分かった。学校がひとつの星、なんだね。いや、地球が地球人の学校なんだね。

 

 濱ソラリス高校。経営難から、男子校と女子校を合併させた(女子校「濱百合女学院」と男子校「濱浦工業高校」)。

 主人公は教師ではない。スクールロイヤー。弁護士だ。

 

 スクールロイヤーで私が思い出すのは、2018年にNHKで放送されていた「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(脚本/浜田秀哉 主演/神木隆之介)。この頃から、スクールロイヤーは話題になっていた。そこから約7年。スクールロイヤーの配置率はまだ14%(2025年時点)と低く、80%ちかいカウンセラー普及率に遠く及ばない。

 警備員、カウンセラー、弁護士、部活の外部委託などなど、学校の経費も大変だとは思うが、仕組みを洗練させていくことは健全なスクールライフには欠かせないのではないだろうか。

 

「濱ソラリス高校」のスクールロイヤーとして、白鳥健治(磯村勇斗)が派遣される。週3日の勤務。

星や植物、豊かな自然が大好きで、幼少期から文字や音に「色」や「匂い」を感じる独特な感性を持つ。感覚が周囲と違うことやマイペースな性格で集団行動に馴染めず、不登校になった過去がある。

(番組ホームページより)

 

 健治の良き理解者だった母が亡くなって、父親(光石研)はまったく健治を理解できず、普通になってくれと懇願するほど。そして、ついに自分には育てられないと、祖母(健治の母の母/木野花)に預ける。それから約20年、健治は祖母に見守られながら生きてきた。

 健治はある種の天才にちがいない。小学校でいじめられていたとき、法律を駆使して自ら陳述書を作成し、学校を訴えたいと、とある法律事務所に赴く。

 それが騒動になって父親が辟易してしまうのだが、そのときの法律事務所が、今現在健治が所属している事務所。所長の久留島かおる(市川実和子)は、小学生だった健治の訴えを受け入れることができなかった当時のことが心に残っていた。ゆえに、健治が雇ってほしいと訪ねてきたとき、そのことを思い出して受け入れたのだった。

 

 そういうわけで、健治は学校が大嫌い。校内に足を踏み入れるのにも決意が要る。

 その学校嫌いの健治の真摯さが、いわゆる教育虐待を扱った第6話で、語られるシーンがある。

 医師である父(池内万作)から医学部進学を期待されている有島ルカ(栄莉弥)は、成績が不調でカンニングしてしまう。ルカを救いたいと思う健治は、「まったく理想的とは思えませんが」と、自分の「生きてきた道」の話をする。

僕は受験というものの意義が全く分かりません。ただ、深く学ぶことは面白いです。宇宙の一員として働くために、大学や専門の学校で勉強したほうがいい職業もある。僕は、人の尊厳を守る弁護士に興味があり、むさしの森国際大学の法学部に入学しました。

(有島ルカ 聞いたこともないFランだ)

家から通えて、なるべく少人数制のところを探しました。その大学は緑が多く、地元の野菜を使った食堂の食事もおいしく、図書館が充実していた。ホールの裏口にはつばめの巣もあった。スカラシップがあったのも魅力でした。行事やサークルの数が少ないのがデメリットと聞きましたが、もともと僕には必要ない。おかげで落ち着いて学ぶことができて、3年のときに司法試験予備試験に合格し、翌年に司法試験に合格しました。

(北原かえで うそ、大学で?)

はい。創立以来、初めてだと教授や大学も喜んでくれました。僕も、これで自立できるとほっとした。今も苦労はしていますが、自分で選んだ道なので後悔はありません。

あなたの道はどうですか?

親という生き物は、自分の価値観で勝手に子どもを自分の理想に押し込める。(…)

自分の道は自分で考えたほうがいい。

有島さんの幸いはなんなんでしょうか。お父さんではなく、あなたの…。

 このセリフは、現代社会への抵抗であり、かつ健全なひとつの価値観を示しているように思う。

 

 ちなみに、各話にそれぞれ、社会や人生にとって深遠で意義深いセリフが散りばめられている。これみよがしではなく、極めて物静かに。

 

 Fランとかそんなの関係ない。自分の幸いを知り、自分の幸いのために頑張ると、嬉しい結果が訪れる。ただ、それだけのこと。のちに出身校の名前を聞いてくる人もいるだろうけれど、「3年のときに司法試験予備試験に合格し、翌年に司法試験に合格した」という健治のストーリーは、世に蔓延る優越的価値観を破壊する威力を持っている。

 医師になるにしても、このことを私は有島ルカに感じ取ってほしいと思った。それでこそ、患者に寄り添えるよい医師になれるのではないだろうか。いや、この星(地球)は、まだまだそこまで成長していない、かな(最終話で分かるが、ルカは…。ドラマを観てください)。

 

 3年桜組の担任・幸田珠々(堀田真由)は、宮沢賢治をこよなく愛する現代文の先生。健治のサポートを任される。

 健治と触れ合ううちに、健治のことを宮沢賢治とどことなく似ていると思いはじめ、惹かれていく。健治も。

 

 この高校にはなんと、天文台がある。

 生徒たちの力で廃部になっていた天文部を復活させ、健治は顧問となる。星を通じて生徒たちのパワーとワクワクが炸裂していく。

 

 理事長の尾碕(稲垣吾郎)は、濱学院を立て直すために必死。生徒たちのことよりも、学校経営のほうに意識が向いている。ゆえに、健治に「きみはどちらの味方なのか」と問い詰める一幕もある。

 

 各話で、生徒や教師に起きる問題を、健治は「彼らの幸いのため」にと法律を駆使して解決の道を探し、提案していく。

 事態の改善に、完璧な答えが出るわけではないが、生徒もひとりひとりが考えて自分で自分の道を選択していく。

 なかには、健治が救いきれず、学校を去っていくこととなった教師もいる。この先生、いい先生だったのですけれどね。

 

 基本的に、この学院の教師たちの心根がよい。学園ものの場合、質に問題のある教師が出てくる確率が高い。もちろん、二項対立にするためだろうが(そして現実世界にも、そういう教師はいる)。このドラマでは、理事長がその対立軸になっている(しかし理事長にも実は素晴らしい理想があったのだが…)。

 教師たちはおしなべて生徒思いだ。生徒の親に無闇に同調することもない。生徒の親でも、悪は悪。生徒を守って、親から切り離すこともしてくれる。ともすると、家庭のことだから口を出せないと投げ出す教師が多いなか、とてもすっきりする応対だと私は思った。加えて、法律が生徒の尊厳を守ってくれる。

 また、毒親も登場する一方で、「へぇ、良い親だな」と思わず言ってしまう親も登場する。私が印象に残っているのは、失恋はいじめだと訴えてきた生徒・藤村省吾(日向亘)の父親(足立智充)と、江見芽衣(月島琉衣)の母親(安藤玉恵)。世間体重視や自己保身的な態度がまったくなく、息子、娘のことを理解してくれる「いい親」だな、と思った。

 

 ところどころに、宮沢賢治が登場するのもいい。余談ですが、私は、ドラマ内に登場する賢治グッズを購入してしまいました。栞とメモ帳。

 

 磯村勇斗は、いい役をもらったのではないか。

 「ひよっこ」(2017年NHK朝ドラ)で見たときには、これほどの名優になるとは思わなかった(ごめんなさい)。役によって別人に見えるのは、演技がうまい証拠だ。「きのう何食べた?」(2019〜2023テレビ東京/映画)「不適切にもほどがある」(2024年TBS)「PLANT75」「異動辞令は音楽隊」(2022映画)「波紋」「渇水」「月」(2023映画)などなど、とりあえずこれらは印象に深く残っている作品だ。

 「月」は、2016年に起きた相模原障害者施設殺傷事件がモデルの映画。その犯人役を見事に演じている。「PLAN75」では、75歳以上の高齢者の安楽死を受けつける市の職員役で、その制度に密かに疑問を持っている青年を丁寧に演じていた。

「僕達はまだその星の校則を知らない」で健治の父親を演じている光石研は、磯村の父親役を2〜3回はやってると言っていたが、そういえば「波紋」でも、磯村と光石は親子だった。

 磯村は、これからまだまだどんどん伸びそうな、楽しみな役者だ。

 

 堀田真由も、役柄によってまったくの別人になる人だ。

 ちかくは「御上先生」(2025年TBS)で、ものすごい影のある女性・弓弦(ゆずる)を演じた。公務員試験会場で受験者を刺殺してしまう役。このドラマの幸田珠々からは弓弦を想像できない、それほどの名演技。もちろん化粧や服装の違いもあるだろうが。「アンチヒーロー」(2024年TBS日曜劇場)では、活発な弁護士役だったが、それもまた、幸田とも弓弦とも全く違って見える(ときに、どんな役も同じように見える役者もいるのであえて)。

 

 磯村、堀田、両者の出演作品をすべて観ているわけではない、ということは付け加えておく。

 

 第11話(最終話)では、山田先生(平岩紙)が、労働環境を巡って学校を訴えることになり、その代理人を健治が引き受ける(健治は、第10話で、麻薬を運ばされて陥れられた生徒の付き添い弁護士を務めるためにスクールロイヤーを辞めている。これはある意味、宮沢賢治の「カンパネルラ」「さそりの火」につながる自己犠牲的行為と言えよう)。

 この裁判は、第1話で描かれた学校制服裁判の回収となっている。理事長vs白鳥弁護士、証人尋問に立つ生徒たち。生徒たちの発言がすばらしい。生徒たちが山田先生(原告)側と学校(被告)側に分かれて証言。とてもバランスの取れた証言が描かれている。これは、健治の策略でもある。

 

 この最終話はすばらしいエピソードです。見応えがあります。すべてが心地よく回収されている。

 証人席での理事長の発言も素晴らしいですよ。現代社会、現代教育へのレジスタンスにもなっている。稲垣吾郎もいい役をもらいましたね。

 

「学校も大変、先生も大変、これはいったいどうしたらいいんでしょうね」という健治の問い掛けに、傍聴席の生徒や教師たちがざわざわとつぶやきはじめる。

 ここのシーンはワクワクします。この裁判を傍聴して、彼らの心に火がついた、気づきが表出された瞬間。実際の裁判だったら即座に裁判官の注意を受けるだろうが、ここでは裁判官がほんの少しの間、傍聴人たちのつぶやきあいを聞いてくれている(実際、時と場合によっては、そういう臨機応変な裁判官もいるかもしれない)。

 みんなが正直に語る、語ることができるって、すばらしいことだと思いました。

 

むしろ諸君よ、更に新たな正しい時代をつくれ。

 と、宮沢健治の言葉を引用する珠々。そして、「世界全体をどうにかする方法はないのか」と問い掛ける。

 みな口々に、学校や教師という仕事の楽しさを言語化する。

インフレーション。我々の新たな星の誕生がはじまっている気がします。

 最後にそう言い放ったのは、江見芽衣。星、宇宙が大好きな生徒。天文台にあこがれて入学。かなり個性的な雰囲気を持っている。勉強は苦手だが、宇宙のことはよく知っている。心が洗われるような純真キャラ。

 この「インフレーション」は、いわゆる経済のインフレではなく、宇宙のインフレーション( cosmic inflation)のことだろう。

初期の宇宙が指数関数的な急膨張(インフレーション)を引き起こしたという、初期宇宙の進化モデルである。ビッグバン理論のいくつかの問題を一挙に解決するとされる。

(Wikipediaより)

 

こんな面白い裁判って、またとあるだろうか。(…)

僕達はまだ、この星でうまく生きていくすべを何も知らない。でも、それを探しつづけることこそが、僕たちの幸いなのかもしれない。

 裁判長は和解をすすめ、双方了解する。

声をあげてよかった。裁判をしてよかった。

 そう最後に言う山田先生。平岩紙が演じた「虎に翼」(2024年NHK朝ドラ)の梅子さんを思い出す。

 

「19番目のカルテ」(2025年TBS 主演/松本潤)もそうだが、最終話がいい。何度も観たくなる。

 

 健治と珠々の恋愛の進行も、あったかくていい。恋愛ドラマ、恋愛シーンを憎悪している私でも、まったく不愉快を感じることはなかった。

「あなたのそばにいることが僕の幸いだから」

 健治はそういってプロポーズする。

 

 世間に疑問を感じてもがく人々が登場しながらも、それらを責め立てたり、否定したりすることで視聴者の心を傷つけてこない。これまで数多くのドラマで見てきた「善が悪に負ける」という構図を、いい意味で裏切ってくる。ゆえに、ストレスなく観ることのできるドラマである。

 最近、このようなことを書く記事がすこし増えたように思う。制作者側の意識が変わりつつあるのかもしれない。

 

 一話一話、ほんとうに素晴らしいドラマ。脚本家・大森美香に敬意を表します。

 こんな素晴らしい物語をつくってくれて、ありがとうございます。

 再視聴して、またいつか何かを書くかもしれない。

 

「僕たちはまだ、この星でうまく生きていくすべを何も知らない。でも、それを探しつづけることこそが、僕たちの幸いなのかもしれない」

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