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占い師サリーが語る2023冬ドラマ終②〜「舞いあがれ」はいったい何だったんだろう…

「舞いあがれ!」NHK連続テレビ小説

出演/福原遥 赤楚衛二 永作博美 高畑淳子

 

 これは、どう評したものか……。

 ひと言で言うと、つまらなかった。途中から視聴をやめようかとすら思った。

 朝ドラは好きなドラマ枠ではあるが、それでもほぼ最初から観なかったものもいくつかあるなかで、「舞いあがれ」は、苦痛だったけどなんとか最後まで観た。

 面白いドラマ(映画)というのは、最初から観ても途中から観ても「おもしろい」と感じるものである。「舞いあがれ!」は、前半、いや最初の3分の1くらいまでは上昇していった(学生たちのギスギス関係と取ってつけたようなラブシーン的な場面がちょっと、いや、かなりいただけなかった)が、そのあとは次第に高度を下げていき、そして着陸地点が見えなくなった。

 

 そもそもこのドラマは羊頭狗肉ではないか、とすら思ってしまった。つまらなかった、というよりも、騙された感が私にはあった。

「女性パイロットの物語」だと聞かされていた。そう思って観ていたら、なんと町工場の話にどんどんすり替わっていき、ほとんどがその話だった。

 いや、町工場の話が悪いのではない。だったら最初からその話にしてくれればよかったのだ。いやいや、人の道は紆余曲折だし…かもしれないが、にしても!である。

 

 舞(福原遥)の母親めぐみ(永作博美)は、舞が子供のころ毒親だった。舞はそのせいで自分を抑え込んで熱ばかりだしている弱々しい少女だった。めぐみの母である舞の祖母祥子(高畑淳子)のいる五島列島へいき、強くなる。

 めぐみはかつて、浩太(高橋克典)と結婚するため、祥子とけんか別れてして大阪へ行ってしまったのだった。五島列島への帰省はそれ以来だった。祥子はめぐみの混乱を見抜き、舞を預かる。

 舞は飛行機が好きだった。大学を中退して航空大学校の試験を受ける。入学後は厳しい訓練に耐え、みごと卒業。博多航空に就職が決まっていたが、リーマンショックの煽りを受けて、1年間入社が延期となる。

 その間に舞は、やはりリーマンショックの煽りを受けていた実家のネジ工場を手伝うことにしたが、父浩太が過労で亡くなってしまう。そして、舞はパイロットの夢を諦めてネジ工場で働く決意を固める。それは、母めぐみを助けるためだった。めぐみには工場を手放す選択もあったが、自分が社長を引き継いで、浩太の夢をつないでいきたいと思ったのだった。

 ここから舞は、ねじ工場で奮闘し、工場を発展させ、東大阪の職人たちと協力しながら新しい取り組みに挑んでいく。

 さらに、元新聞記者の御薗(山口紗弥加)と会社を立ち上げる。その事業もうまくいき、幼なじみの貴司(赤楚衛二)と結婚。繊細だった貴司は歌人となっている。

 最終章は、大学時代の部活「なにわバードマン」の先輩たちと空飛ぶ車を開発し、2027年五島列島の就航がはじまる。そのパイロットは舞だった。それは、大学時代のなにわバードマンのパイロットだった舞の姿と重なるのであった。

 

 ざっとこんな感じ。

 何気に物語は回収されているけれど、これを夢が叶った、と言うのだろうか。もちろん、夢というのは直接的ではなくても別の形で叶うこともある。けれども、舞は航空機のパイロットの資格を持っている。

 そう考えたとき、舞の母親めぐみが、申し訳ないけど、いちばん自分本位に生きた人に見えてくる。

 

 序盤では、めぐみが島を出て祥子と絶縁しているのは、祥子が毒親だったからなのかな、と想像していたが、そうではなかった。結婚を反対したことは親子の亀裂の原因ではあったけれど、そしてそれは祥子が思い描いていた娘の将来とは違っていたので祥子も感情的にはなったが、それでも毒親ではなかった。

 それはドラマが進むにつれて明らかになっていく。この人は、舞や貴司のようなちょっと生きづらさを感じている個性的な人間を肯定し、受けとめ、励ましてくれる人だ。私は、このドラマのなかで「ばんば」こと祥子さんがいちばん好きだ。

 

 めぐみの話に戻るが、私が母親だったら、娘の夢を奪ったりしない。

 だって、パイロットだよ。パイロットになるのは大変なんだよ。パイロットの資格試験に合格するって、かなり優秀な、努力した人間のはずだ。例えば医者とか弁護士の資格があるのに、それを放棄して実家を手伝えなんて言えないし、娘から提案されても私なら、あなたはパイロットになりなさい、と言う。でもこの母めぐみは、浩太の工場と夢を守るとか言って、息子悠人(はると/舞の兄/横山裕)からのせっかくのマンション経営の提案をも断っている。

 駆け落ちまでして夫とつくりあげた工場ゆえ、諦められないのはめぐみの人生のドラマではある。が、そこに娘を巻き込んでいくのは、結局めぐみの固執に娘は付き合わされた格好になった、すなわち実は毒親のままだったのだと私は感じている。

 もちろん、舞にはそちらの才能もあったようだ。航空大学校編から、舞が人と人を繋げる能力に長けていたり、アイデアマンだという伏線は確かに張られてはいた。

 細かく考えていけば、それなりに練られた作品なのだろうが、とはいえ、なんともしっくりこない。

 観ていて、全くわくわくしなかった。

 

 このドラマのなかで最初から最後まで自分自身を貫き通したのは、看護師になった久美子(舞の幼なじみ/山下美月)と、その父親佳晴(松尾諭)だ。

 佳晴は元ラグビー選手で怪我をして引退してからは自暴自棄になってこのドラマのなかの悪役のように見えていたが、それでも終盤にさしかかると、あ、この人自分を貫いてるんだな、と分かってきた。これもね、なんだか変な話で、主人公の影がいささか薄れる。

 加えてもうひとり。舞の祖母祥子。上にも書いたが、舞や貴司を精神的に助けてくれた人物。やりたいことは我慢しないでやりなさい、と励ましてくれる人(めぐみの結婚には反対したのだが…ってことは、めぐみは母をひとり残して大阪に出ていって、そのめぐみは自分の娘には寄り添ってもらったわけで、このあたりも上に書いたように、やっぱりめぐみがいちばん利己的だった、と言ってしまいたくなるような人物像だ)。

 余談にはなるが、最終週のエピソード。空飛ぶ車を完成させるために数学に強い学生を探していたところ、舞が心当たりがあると連れてきた青年が朝陽くんだった。彼は小学生のとき、人に馴染めない繊細な少年で、五島列島の祥子のところに滞在していた。優秀な青年はその少年だったわけだが、観ていてなんとなく、あ、あの子かなと想像できるにはできたが、確実に彼だという証拠が映像には流れなかった(私の見落としだったらごめんなさい)。もちろん名前は言ったが、名前なんて忘れている人も多いだろう。ここは、少年時代の映像をオーバーラップしてくれたほうがよかったかな。ちょっと不親切だと思いました。

 

 舞が旅客機のパイロットになって荒波を乗り越えながら活躍するドラマを期待していたし、観たかった。博多航空でもどこでもいいので、航空会社に入ってからの訓練もあるだろうから、ぜひそこを観たかった。女性特有の様々もあるだろうし。リーマンショックやコロナをストーリーに取り入れているのだから、たとえばコロナで言えば航空会社は大打撃を受けたわけで、その間の出来事のあれこれをタイムリーに表現することもできたのではないか。というのが私の個人的視点。貴司をパリに行かせてコロナで帰国できなくするなんてエピソードより、ずっと醍醐味が違うと思うが。

 いずれにせよ私には、パイロットとねじ工場の話はまったくつながらないのである。別の物語だ。この朝ドラは、本来は2つの全く違うストーリーを無理につなげてしまった、と私は理解している。夏井いつき先生の俳句査定で言えば、盛り込みすぎ。

 とはいえ、舞のパイロット資格がなければ、最終章の空飛ぶ車はなかったわけだけど。

 でも、2027年の空飛ぶ車(ドローン)って、けっこう唐突で、いや、実際そうなるのかもしれないけれど…、物語としては唐突で。これは国の宣伝、プロパガンダか何かなのかな。映画やドラマには、良くも悪くもそういった側面があるので。

 

 そんな風に思ってしまうほど、本当にごめんなさい、わくわくできませんでした。がっかりなドラマでした。福原遥を応援していたので、なおさらがっかりです。私は、女性パイロット、飛行機(旅客機)のパイロットの物語を期待していたので。

 でも、今後の福原遥には期待します。

 加えて、高畑淳子の演技は相変わらず光っていました。

ツトムと飛行機 ©2023kinirobotti