ねことんぼプロムナード

タロット占い師のetc

「霊媒探偵 城塚翡翠/invert 城塚翡翠 倒叙集」/「エルピス」〜占い師サリーが語る2022秋ドラマ終②

 ①のほうでは医療もの「PICU」と「ザ・トラベルナース」を取り上げた。

 ②では、サスペンス推理ものを2タイトル「城塚翡翠」と「エルピス」。

 正確に言うと「エルピス」は推理ものというよりも社会派ドラマだが、冤罪事件を通しての真犯人探しとそこにまつわる話でもあるのでここに入れさせてもらった。

 

霊媒探偵 城塚翡翠/invert 城塚翡翠 倒叙集」日本テレビ

出演/清原果耶 小芝風花 及川光博

 なかなか面白かった。全10話のうち「霊媒探偵」と「倒叙集」で5話ずつ。

霊媒探偵」のほうは初めから、「倒叙集」では最終話で、見事に視聴者を騙してくれた。ちなみに倒叙というのは、最初に犯人が分かっていて、それを刑事や探偵が紐解いていくパターン。視聴者は犯人を推理するのではなく、犯人を追い詰めていく様を楽しむドラマ。有名なことろでは「刑事コロンボ」「古畑任三郎」があげられる。

 上に「倒叙集では最終話で」と書いたが、厳密に言えば、すでに前のエピソードで伏線ははられていた。それは最終話ではじめて明かされるのが、さすがに驚いた。そこまで仕込んであるのかぁ。ぜひとも再視聴したいという欲望に駆られる。加えて、こういったシーンは小説ではどのように描かれているのかな、と読んでみたい気持ちになるが、そちらはたぶん実現しない(小説を読むのが苦手なので)。

 

 まだ、本人たち、すなわち翡翠(清原果耶)と真(小芝風花)の謎が明かされていない。二人はどう出会ったのか、それまでの二人の背景は?

 シーズン2は、おそらくあるのだろう。

 

 なにより、朝ドラ「あさが来た」で注目を浴びた二人、清原と小芝の親密な共演が嬉しかった。

 

「エルピス―希望、あるいは災い―」フジテレビ(カンテレ)

出演/長澤まさみ 眞栄田郷敦 鈴木亮平

 こちらも面白く視聴できた。

「エルピス」はテレビで放送できないだろうと言われ続けてきたらしい。圧力がかかるから、と。どこから圧力がかかるのか、誰が妨害してくるのか、そのほうが問題だろうと武田砂鉄がラジオで言っていた。アメリカではこの類いのドラマも映画もよく見かける。

 私が懸念していたのは、このドラマの終わり方。やっぱり強いものには巻かれなければならないんだな、権力は怖いし強いんだ、という印象が視聴者に浸透すること。そのようなドラマ展開のほうが、日本の場合は多いように思う。「相棒」も右京さんの正義感で立ち向かうけれど結局は何もできずに終わる、というストーリーのほうが多い。清濁併せのむ的な…。

 ドラマや映画の影響力というのは馬鹿にならない、と私は思っている。ゆえに「エルピス」は、その点ではバッドエンドというよりも一般市民にとってはハッピーエンドに限りなく近かったように思う。

 

 私の心に残っているワードは「正しいこと」と「光と希望」。

 

 大洋テレビの新米ディレクター岸本拓朗(眞栄田郷敦)とアナウンサー浅川恵那(長澤まさみ)のもとに、冤罪事件の可能性を疑う情報がもたらされる。「八頭尾山女子中学生連続殺人事件」に関するものだった。岸本と浅川は独自で調査を開始する。

 岸本(眞栄田郷敦)は「正しいことをしたい」だけなのだ。

 なのに、調査結果をもとに番組で取り上げる、という二人の前に大きな力が見え隠れしてくる。誰が敵なのか、分からない。正しいことができない。

 岸本は、中学時代に自殺した友人になにもできなかったことを悔やんでいる。同級生たちは、優雅に成功の道を歩んでいるというのに。そのこともあって、正しいことがしたい、のだ。

 

 もうひとつのワード「光と希望」は、最終話で浅川が垣間見た一筋の光だ。

 岸本がインタビューを取り付けた大門亨(副総理大門の秘書で娘婿)(迫田孝也)が自殺したという報道。大門に消されたのだと、岸本。ある議員によるレイプ事件を大門がもみ消したという情報を亨は岸本に話していた。

 そのインタビューのなかで亨が岸本に、自分の話を信じてくれる岸本に出会えことを感謝していた。闇のなかの一筋の光だ、と。この音声を聞いた浅川は、その言葉に救われる。岸本は浅川にとっても一筋の光だったのだ、と気づいた瞬間だった。信じてくれる人がいることこそが希望なのだ、と言う浅川。それは、無実の罪で死刑判決を受けた人にとっても同じだろう。

 実際、正しいことをしようとするときなぜか仲間が減っていく、ということがないだろうか。そしてたいていしんどくなって人は諦めてしまう。悪が善より強いことの理由のひとつがそれだろう、と思う。

 岸本は、局を追放されてもなお、諦めなかった。

 このドラマ、主演は長澤まさみとなっているので主人公は浅川ということだが、真の主人公は岸本なのだ、と私は思った。岸本は「希望」だったのだ。パンドラの箱を開けてしまったのは岸本だったけれど、災いが飛び出したあとに残っていた希望もまた岸本だったのだ。

 諦めないで信じ続けてくれる誰かは、誰にでも、どんなときでも、人生にとって大事な存在なのだと、私もこのシーンで確信させてもらった。

 

 岸本とは対極に、このドラマのなかで私にとって非常に不可解な人物がひとりいる。それは、斎藤正一(鈴木亮平)だ。彼は、大洋テレビの報道局時代に大門に近づいた。退社後はフリージャーナリストとして頭角を現し、いずれは大門の力を借りて政界に入るのではないかと言われている。大門からも信頼が篤い。

 斎藤は浅川の元恋人なのだが、そもそも危険人物だという雰囲気は漂っていた。ついに最終話では、彼の態度はあまりに不可解だった。

 大門のレイプ事件のもみ消しについて報道しようと決意した浅川のもとに斎藤がやってきて、阻止しようとする。

 もみ消しによって自殺者(レイプされた女性)が出たことが報道されたら、内閣総辞職政権交代、株価は暴落、国際的信用を失う…云々と捲し立てながら。……そこまでか?そういえば「私がいなくなったら政治が国が動かなくなる」的なことを言っている国会議員がいたな。

 浅川は斎藤に取り引きを持ちかける。本城彰(浅川らがつきとめた連続殺人事件の真犯人)を逮捕させてほしい。報道の邪魔をしないこと。警察が逮捕することをとめないこと。

 斎藤は誰かに電話し、交換条件を受け入れる。ただし、大門と犯人の父親の関係はオフレコで、と釘を刺す。そして、今夜のトップで報道するようにと言い、「明日まで待つとキミは事故か病気で出れなくなるよ」と脅しのように付け加える。

 シリアルキラーを特定する報道を浅川が担当するニュース番組「NEWS8」で流し、ついに冤罪は晴らされる。無実の人間の死刑執行は回避できた。

 

 この斎藤は、いったい何をしたい人なのか、しようと思っているのか。私には疑念だけが残る。

 行動をとめるための浅川への説得、そのための主張なのだろうとは思う。だから、国が転覆する的な大げさなことまで言ったのだろう。

 だが、このとき斎藤は「しかるべき力がついたときには君の期待に応えることができる」とまで言っている。自分が政治家になったとき、ということだろうか。内側に入って改革するんだ、ということなのか?この政権が倒れたら日本の危機だと顔をこわばらせながら、一方で、自分が権力を握ったときには…と理想主義者か改革者のようなことを言う。

 浅川に諦めさせるための大げさなパフォーマンスだとするのが納得度が高いように思うが、だとすれば、斎藤の本音はどこにあるのか?自分の地位、名誉、野心?「事故か病気で…」のくだりは、亨と同じ目にあうぞという脅しなのか。けれどもそこには、このあとすぐ今夜のトップニュースで報道しなければ…という条件が加わっている。危険な目にあってしまうから(あわせたくないから)必ず今夜のトップでやれと強制しているのか。すなわちこれは、いわゆる脅しではなく、浅川を守るためなのだろう、という推測も可能だ。

 もうひとつ気になるは、シリアルキラーが大門が懇意にしている人間の息子(大門副総理と結びつきのある八飛市一帯の土地を扱う本城建託の社長・本城総一郎の息子)で、それを逃してあげて、しかも全くの別人を犯人に仕立てていた、っていうほうが、レイプもみ消し事件より世間への衝撃が大きすぎると私は思うのだが。いくらオフレコにしたって、記者たちはすぐ嗅ぎつけるだろう。現に真犯人報道後、記者たちに囲まれる大門のシーンがあった。知り合いの息子よりも議員のほうがより自分に近い、ということなのか。

 ということで、斎藤が私のいちばん不可解な人物。本当は正義の味方なのだと信じたいけれど、そこまでの信頼度は薄い。そして斎藤に関してはこの脚本、演出でよかったのか、という疑問も残る。

 もしかしたらこの奇妙な斎藤正一の言動は、実は浅川恵那への愛情表現なのかもしれない。ドラマ前半での二人の寄りが戻ったシーンは、ここへの伏線だったのかも。

 

 視聴率は高くはなかったようだが、質の高いドラマだったと思う。

 いつも言うことだが、視聴率と質は比例しない。

 このような社会派ドラマを、今後も望む。

「エルピス」岸本&浅川 a la TsuTom ©2022kinirobotti


こちらもどうぞ

risakoyu.hatenablog.com