ねことんぼプロムナード

タロット占い師のetc

「素直」ということ〜2つの意味〜タロットの世界〜死神

 今さらなのであるが、先日占いをしていて(私はタロット占い師)ふと心を過ぎった「素直」についての疑義。

 あの相談者さん、私が言った「素直」の意味を別の意味に捉えていないよな、と。

 

「死神」というカードがある。意味は様々あるが、私の場合は「素直」というキーワードも読む。素直な自分でいてください、素直に選んでください、と助言する。

 本当に本当に、長年占いを仕事にしてきて今ごろ何を言っているのか!なのであるが、なんだかとっても気になったのである。

 そういうことって…ある。普段は全く気になっていないのに、降って湧いたように唐突に気になりだす。それはおそらく「無意識と意識」の狭間に関係しているのだろう、ということは分かっている。慣れていること、習慣化していることは無意識に行為するのが人間だ。ゆえに、やったかやらなかったか、分からなくなってしまうことがある。あれ?カギ閉めたっけ?といった具合。身体が覚えていることはいちいち意識して確認したりしない。そんなことをしていたら車の運転はできない。あれは、車と自分が一体化しているからできるのだ、と私は思っている。

 そんな言い訳はどうでもいいか。

 

 私が気がかりに思っているのは、これまで「素直にね」と助言させてもらってきた相談者さんたちに私の真意が伝わっていたのかどうなのか、ということ。もし誤解されていたら、別の意味をつかんでいたら、カードからのアドバイスとは真逆になってしまうので。

 なぜ今まで気にしたことがなかったのかというと、誤解されるかもしれない意味合いのほうは、すでに私自身の人生の辞書にはないからなのだ。そちらの意味で使ったことが、100%とは言わないがまずほとんど、ない。

 

「素直」というと、どのような態度を思い浮かべるだろうか。

「あんた素直じゃないんだから」「もっと素直になんなさい」「はい、そうですね、って素直に言っときゃいいのよ」といった具合に親から言われたことのある人はけっこういると思う。私もある。その状況は、おそらくたいてい親に抵抗しているときではなかっただろうか。親でなくても、兄弟姉妹、友人、知人、先生、上司…さまざまな人間関係のなかにそれはある。

 すなわち「(素直に)はい」と言えない、あまり良くない状況での心の態度だ。叱られているとか、説得されているとか。

 このときの「素直」の視点はどこにあるだろうか。もちろん「相手」だ。自分ではない。「素直じゃないな」と言っているその人の思惑だ。その人は、あなたを思い通りにしようとしているとか、自分の意見が正しいことを証明しようとしているとか、とにかく自分の考え、意見を通そうとしている。ゆえに、あなたが肯定、賛同しないと「素直じゃない」といささか怒りの感情を湧かせるのである。客観的にみればまこと身勝手な言い分と言わざるを得ないのだが、「言うことを聞かない子ども、人」というのは、世間からすると「良い子」ではない。どれほど理不尽な命令だとしても。

 そして、このようなことは世の中にあふれている。「私はそう思いません」「私の意見は違います」などと、日本の組織のなかではまず言えない。日本では、自分の考えを持っている人は「素直」な人とは見られない。

 

「死神カード」からのメッセージである「素直」の視点は「あなた自身」だ。

 疑問を持たずに誰かの言うことを聞くのではなく、その選択は、その行動は「自分に素直」かどうかを考えてほしい。別の言葉で言えば「自分に正直」かどうか、である。

 本当はそうじゃないのに誰かの意見や促しに従ってしまうとか、いわゆる世間の価値観と同じにするとか、あるいは他人からよく見られたいという虚栄心やときに恐怖心からの選択というのは、それで安心感や優越感を持って幸せになれると思っている人もいるかもしれないけれど、それをタロットの世界では幸福とは言わない。

「本当の自分」「自分のほんとう」が望んでいることをする、選択することが「自分に嘘をつかない」ということだ。

 

「本当の自分」って何だ?って話になると思うが、それを詳細に語る余裕はここにはない。簡単に言うと、あなたがそれを選んで、行為して「楽しい」「嬉しい」「ほっとする」「わくわくする」と感じている「その人」だ。

 その人は、誰かに(盲目的に、あるいは致し方なく)服従しておらず、外の(常識や伝統という言葉で飾られた)価値観に合わせようともしていない。あなた自身の思考、選択、行動が、たまたまそれらと合っている、ということはあるにせよ。

 要するに、「素直になってね」「素直に選択してね」と私が言うとき、「自分を押し通すことは素直ではないのではないか」「親や先生の言うことを聞けない自分は素直ではないのではないか」という意味での「素直」ではない。そういう意味で「素直」を受けとめてしまったら、全く別の方向へ行ってしまうだろう。

 私はそれを心配したのだ。しかも今ごろ唐突に。

 

 まぁでも、「虚栄心」の話をしたり、「あなた自身の心に素直に」と「素直」の前にどんな種類の素直であるかを指定する語句を添えて話してきたので、おそらくは、よほどのことがない限り正しく伝わっているとは思う、のであるが。

 それでも悩みを抱えているときは、思考力が低下しているし、思い込みに大きく影響されがちでもあるので、別の意味に取ってしまうということが絶対ないとは言えない。

 加えて、こちらの助言を自分に都合よく解釈して理解してしまう相談者さんもなかにはいる。それが全く反対の意味であることもある。

 とはいえ、人間というのは誰でも、基本的に、ときに最終的には、本当の自分自身を復活させたい、そうした復元意欲を持っているものだ。そうできないから苦悩しているのであるが、そのことに気づいていない。ゆえに、「都合よく理解する」ことが「本当の自分 素直な自分 正直な自分」への道を選択することにつながるのであれば、それはそれで良いのだろう。

 

 タロットの世界にある「素直」は、「全く逆らわずに肯定して従うこと」ではなく、「あなた自身の本当の気持ちに従順であること」だ。

タロットカードNo13死神 ©2022kinirobotti