ねことんぼプロムナード

タロット占い師の神秘と現実

竹原芳子著「還暦のシンデレラガール」〜「カメラを止めるな!」俳優が語るシンデレラストーリーと「自分らしさ」

 「還暦のシンデレラガール」

 竹原芳子(どんぐり)著 サンマーク出版

 

 58歳で映画「カメラを止めるな!」に出演。その名前と小柄でスリムな体型に独特のおかっぱ頭が全国に知れ渡った竹原芳子。

 2022年5月、カンヌ映画祭の会場にいる竹原の姿を報道で目撃した。なんと、「カメラを止めるな!フランスリメイク版」に、日本版と同じ役で出演依頼があったのだという。すごい!すごすぎる。そう思った勢いで彼女が書いたという本を買ってしまった。

 私は「老いの哲学」なるものをこちらで執筆しているので、内容的にも何か参考になるかもしれない、私の気づかない視点を与えてくれるかもしれない、と思ったのだ。なにせタイトルが「“還暦”のシンデレラガール」なので。

 さらっと1〜2時間で読めてしまうわりに1400円+税、ちょっと高い。びっしり書かれている新書が1000円前後で買えるので、そう思ってしまった。ソフトカバーの四六版だが、イラストとか写真が載っているから、どうしてもこの値段にはなってしまうのだろう、と納得はする。

 

 竹原は、「どこかの劇団のベテラン俳優さんでしょう」「関西の古い芸人さんでしょう」と誤解されることが多いそうだ。「カメラを止めるな!」を観てはじめて彼女の存在を知ったとき、私もそう思った。愉快そうな人なので芸人さんかなとまずは想像し、そうでないなら劇団の人なのだろう、と。世間的には知られていないけれど、きっと若い頃からずっとやっているんだろうなぁ、というイメージ。

 ところが、10年前までは会社員だったということを知って、老齢(と言ってはまだ失礼かもしれないが、現在はすでに還暦を越えておられるので)になってから画家や写真家、作家としてデビューしたというシニアの方々のおひとりだったのか、とさらにびっくり、そして尊敬。

 

 明るく元気で常に前向きな竹原だが、やはりそれでもさまざま葛藤はあった。そもそも20歳のころにお笑い芸人になりたいという夢はあったようだが、周囲の反対意見に従って証券会社へ。そして50歳で裁判所を退職し、念願だったNSCへ。

 

 私がこの本から感じたのは、どん底から這い上がったとか、諦めきれない夢を追い続けてついに夢をつかんだとか、そういったサクセスストーリーではない。

 すなわち、竹原芳子はおそらく、どんな仕事でもテキパキとこなしていくことができる人だ。同僚からも先輩からも後輩からも好かれ、頼られ、他社からスカウトされるくらいの高い能力を持っている。その能力のなかでも特に光っているのは話術なのだろうと思う。加えて、そこからにじみ出る人柄の良さ。そう考えると芸人気質は生来のもののようだ。

 例えば、引きこもりがちだったり、孤高を愛する夢追い人的な人たちからすると、あまり参考にはならないシンデレラストーリーかもしれない。そうは言っても、チャンスをつかんだり、思いがけない出会いがあったりする人というのは、竹原のように積極的に動き回っている人のほうが多いのかもしれない、とは思う。

 私自身は、どちらかというと引きこもりタイプなので、竹原のような職業生活を続けることはまったく無理だ。他人からはそうは見えないらしいのだが、実はそうなのだ。私だったらどこかでぶっ倒れていると思う。いや、それほど竹原の仕事ぶりはハードだった。けれども貯金はけっこうできたんだと思う。服などもたくさん買っていて、習い事もこれでもかってくらい種々雑多やっている。

 老いも若きも、やりたいことをやろうとするとき、お金の問題で躓く人は多い。私は占い師だが、そういう相談は(意外と)本当に多い。

 

 2015年神戸クィーン落語大会で特別賞に輝いた竹原は、友人から紹介された占い師のところへ行く。「あなたは舞台に立つ人です」と言われたそうだ。当たってるなぁ。「カメラを止めるな」大ヒットの2年前だ。

 占い師にそう予言された55歳の竹原は、それでも自分がこれからどう夢を叶えていったらいいのか分からなかった。周囲からは「夢で食べていけるわけない」という声も聞こえてくる。

 

「自分がやりたいことをやろうと決めたら、1人で進んでいくしかないんやな」と、竹原の心のなかに「覚悟」が浮かんできたという。そして「これまでのつきあいの一切を断つ」ために、住所録や年賀状などを処分し、携帯電話の番号も変えた。

 芝居の勉強をするためにアクターズ・ラボに入る。若い頃から容姿にコンプレックスのあった竹原だったが、芝居は容姿でするのではないということをここで学ぶ。年齢も容姿もすべて自分で受け入れたら歯車が回りだした。舞台で役をもらい、初めての出演料を得る。その後、映画やドラマを好きだった自分を思い出し、オーディションを受ける。そして「カメラを止めるな」への出演が決まった。

 この竹原の成功プロセスは王道と言ってよいくらいに分かりやすい。すなわち、まず覚悟を決める。そして過去と決別する。さらに自分の全てを受け入れて素直になり、他人と較べたりしない。加えて、自分自身が本当に好きだったことを思い出してそちらへ向かって歩き出す。

 ちなみに「過去」というのは、捨て去るものと大事なものの復活の両方を私たちは体験しなければならない。私のタロット数秘術では、実は竹原のその運勢は2017年に回ってくるはずだったのだが、言ってみれば結果としてその年に大きく現れたということなのだろうと解釈する。とはいえ、この竹原が取った覚悟からのプロセスは、人がやりたいことをやろうとするときには、いついかなる時でも通用する。

 

カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督は、台本を役者ひとりひとりに合わせた「あて書き」に修正したという。

「みんなのこれからにつながる、名刺がわりの作品になるように、書きました」と。

 なんだかすごすぎる。実際そうなったし。予感があったのだろうか。でも、予想以上だったに違いない、と言っては失礼だが、なにせ制作費300万円の映画だ。

 映画ヒットのあと、竹原芳子をはじめ、濱津隆之しゅはまはるみ真魚など、テレビドラマなどで活躍している役者も多い。

 

 ものすごく能力の高い人で……と既述したが、竹原芳子は会社員時代もガンガンやっているように見えて、実はとても繊細な傷つきやすい人なのだと思う。そういう弱さや不平不満をたぶん表に出さない人、いや、出さないようにして生きたのだと思う。

 あるときコーチングの先生から我慢することを咎められた竹原は、「平気です!とやせ我慢はしない。平気じゃない人に、やさしくできなくなるから」という教訓を得る。

 ちなみに、ポジティブすぎる人のそばにいると心が疲弊してくることがあるが、その原因はこのコーチングの先生がおっしゃることに集約されるのではないか、と気づいた。いや、本人だって平気じゃないことはいくらでも経験しているのだろうが、けれどもどこかで学んだのであろうポジティブが信仰のようになっているのかもしれない。本当の優しさや励ましはきっともっと穏やかなものだ。

 ゆえに、この本にはコンプレックスや、そんな体験したの?というほどの出来事の告白も書き記したという。

 それでも全体的にポジティブすぎな感じが私にはしてしまう。私だったら、もっとマイナスな事々もぐだぐだ考えながら、哲学を装って書いてしまいそうだ。

 読んで元気になる本がコンセプトなのだろう。

 でも再読すると、そこはかとなく哀愁が漂ってくる。

 でもやっぱり、この人すごい。仕事能力、生きる能力が高いのは間違いない。

 

 私はこちらで「らしさの哲学」なるものも執筆している。

 ということで、最後にこちらを引用させていただく。

 第5章「奇跡を止めるな!」

  31「モノを削ぎ落として残るのが自分らしさ」

服や持ち物は、断捨離してかなり数を絞りました。

(P160)

 竹原は、あふれるほどのモノを持っていた。小学校時代の作文や工作、中学時代に友人と交わした手紙。証券会社時代に山ほど買った服や靴、アクセサリー、バッグ。マイセンなどの食器の数々。

でも、お芝居の世界に行こうと決めたとき、引っ越しを機に思い切って処分。(略)必要最低限だけにしました。

(P161)

 処分するときは辛かったので、今はモノをため込まないように気をつけている。

人づきあいも、昔のように「多ければ多いほどいい」ということはなくなりました。芝居をしようと決めたときに携帯を変えたし、人づきあいは減りました。

(略)

還暦を越えた今、ようやく見つけた「お芝居がやりたい!」ということに集中したい。限りがある人生の時間を、できるだけ自分らしく使うには、「みんなにいい顔をするのは無理や」と、あきらめたんです。

こうやって削ぎ落としていくと、(略)私が持っている、自分でもわからなかった自分らしさに、たどり着けたような気がしています。

(P161)

 この竹原の言葉は、「らしさ」だけではなく「老い」の哲学でもある。

「限りがある人生の時間を、できるだけ自分らしく使うには、みんなにいい顔をするのは無理や」

 これは「わがまま」の提唱であり推奨である。すなわち「我慢しない」「無理しない」ということでもある。人生の時間の限りが見えてきたときこそ。

 私が執筆中のテーマは「60歳からのわがままタロットセラピー」。符号して嬉しい。

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