タロットカード「塔」。
塔は稲妻に打たれている。
その塔からは誰かが墜落している。
このカードを眺めるとき私はいつも、この人は塔から転落しながら、何を見て、何を考えているのだろう、と想像していました。
この人が住まわっていた塔は、ゼウスの雷のような稲妻に打たれて、塔頂部が破壊されています。
崩れ落ちていく塔は、この人物の固定観念の象徴です。
稲妻は、覚醒を促しているのです。
人類は今、いかにもこの「塔」カードの図像世界にいるかのごとくではありませんか。
突如、COVID19パンデミックの襲来を受けて、「普段通り」が崩されました。
その私たちの目にはいかなる景色が映っているのでしょう。
転落しているのですから、逆さまの世界のはずです。
これまでの価値観が全く逆だったという景色。後生大事に持っていた価値観が崩れ去っていく様子です。
いわゆるグローバル世界は、このウイルスにとって素晴らしい乗り物です。簡単に地球中に自分を運んでくれるのですから。
世界が繋がることは素晴らしいことだったのですが、その社会の仕組みの弊害を、このウイルスはあぶり出しています。
「塔」カードのように、いつも気づきは衝撃からやってきます。この衝撃はいったい誰の意図なのでしょう。ウイルスなのか、悪魔なのか、神なのか、はたまた……。
僅かな富裕層は元気いっぱいかもしれませんが、たいていの現代人は疲弊しています。
庶民は、広告の心理マジックに踊らされて欲望を掻き立てられ、周囲の誰かよりすこしでも贅沢な生活をして、高価な商品を手に入れて、豪華な食事をして羨望されようと血眼になって労働してきました。その生活にすっかり慣らされた魂は、疲労困憊の事実に蓋をして、世間から誘導された価値観に忙殺されつづけます。そしてあるときばったりと倒れる。この塔の住人です。
もしかしたら市井の人々は何も悪くないのかもしれません。社会の仕組みがそうなっているから、その通りにしないと、成功、出世どころか、ただ生きていくことすらできない。
とは言え、お金や欲しいものを手に入れて欲望を満たしたいという強い欲求は、誰にでもある。それが素晴らしいことであると教えられているからです。そして、それらが手に入らなければ、嫉妬や恨み辛みを抱いて苦しみます。
2020年冬から、COVID19パンデミックが光を当ててくれたのは、物質的に進歩した人類の負の側面でした。
それらを負であると思ったことのある人はごく少数でしょう。ほとんどの人々、社会が、きらびやかに見えるその負が拡大することを望んでいました。もっともっと、もっと高く、もっと速く、もっと沢山。
そしてそれらは、ウイルス感染拡大をなんとかして食い止めようとして社会生活に制限が加わったとき、とてもくっきりと見えてきたのでした。
普段の生活を呑気につづけていたら、永遠に見ることができなかったかもしれない物事です。
価値が逆転しました。
日頃見過ごされ、ときに横柄な人間は軽蔑さえしていたかもしれないいくつかの仕事が、いかに生活をしていくために必要不可欠な仕事であったのか、ということが明瞭になりました。そしてそれらは、低賃金だったりしています。
そして生命にとって不要な仕事、人が生きていくのにどうしても必要かと問われればおそらくは誰もが要らないと答えるであろう、ときにその仕事のせいで誰かがどこかで虐げられていると言っても過言ではない仕事をしている人たちの方が高額所得者です。
なくても誰も困らない仕事をしている大威張りな大金持ちたちは、生活に必要な仕事をしている人たちがいなくなったら、おそらく大半は死んでしまうでしょう。いくらお金がたくさんあっても生きていけません。
分かったことがあります。
在宅ワーク、リモートワークをすることで、わざわざ遠出する必要も、出社、登校する必要もなくなりました。
大量の飛行機が空港で翼を休めていたら、空気がきれいになりました。プライベートジェットは、大金持ちの証、ステータスでもあったのだと思いますが、必要不可欠なものなのでしょうか。
工場が止まったら、人の動きが鈍くなったら、河がきれいになりました。
知ってはいたけど、社会の発展と誰かの利権のためにやめることができなかったことです。温暖化などない、と言い切る政治家もいます。
環境破壊、気候変動は解決していくことができるようです。やればできるけど経済が成り立たないと思い込んでいるがために、減らすことができない。
「塔」カードの塔は「思い込み」の象徴です。
けれども2020年、リモートでできることが多々あることに気づかされました(日本の場合、働き方改革というのであればここまでしなければ無意味でしょう、と私は思います)。
世の中には無駄なことがたくさんあることが分かりました。本当に大切なことも分かりました。
やろうと思えばできる。でもやらない。さまざまな利害に基づく支配欲が政治や経済の世界でうごめいているから。
科学の発展は何のためだったのでしょう。
小池百合子は都知事選のとき、満員電車をなくしますと公言していました。今こそチャンスですよ。
毎日毎日同じ時間帯に全員が満員電車で出社する必要がないことが分かったのですから。
「密」を避けることがウイルス感染拡大を防ぐ方法です。電車をはじめ「密空間」はあまりに多かった。
交通機関、商店や飲食店、劇場、映画館などは「密」になってこそ儲かるわけなので、人数制限をすると仕事が成り立たないのかもしれません。
私は経済学者ではないので分かりませんが、空間に余裕のある生活をしても、いや、するからこそ、幸せに豊かに暮らせる社会をつくっていくことができる、その方法があるのではないでしょうか?「今までどおり」に「拘る」ので「できない」と思ってしまうのです。
ただ、ライブハウスとかコンサートとか、大勢がひしめき合って興奮することが目的の場合、「密」は天国です。でも私には、地獄図にしか見えません。「蜘蛛の糸」でも明白なように、いわゆる地獄というところは人間でひしめき合っているのです。でもそれが素晴らしいというのですから否定はしません。けれども、今回言われている避けるべき「密」であることは間違いありません。新しい生活様式なるものが推奨されています。これは、アドホックなものではなくルーティンになっていく、変容とその後、ということになるのであれば、ライブハウスやコンサート、祭り、大人気の展覧会などなどというものの様態も変わっていくのだろうな、と思わざるを得ません。
よく考えれば満員電車云々の前に、電車やバスの座席で隣りの見知らぬ人とほぼ接触しているような姿勢で座るという状態に平気でいることが、例えば25世紀の世界から見たらなんとも野蛮な時代でしたと歴史の教科書に書かれるかもしれません。
価値観を変えることで、これまでの「信条」のようなものを壊していくほうが先かもしれません。
物質欲
消費社会
刺激的享楽
金銭を得るための労働に追われる日々
無駄な会議
環境(地球)破壊
今さえよかったらそれでいい。
(「今を生きる」ことは賢明だが、「今さえよければそれでいい」は愚昧)
「塔」カードは、人類の傲慢さに対する一撃なのかもしれません。「バベルの塔」です。
社会全体にも個々人にもあります。
「塔」カードは、個々人の限界、爆発なのかもしれません。
世間体とか慣習とかに我慢しきれなくなった人々の様子です。これは、人間や地球の健全さを取り戻すためには必要な行動で、そうすることをこのカードは勧めているのだと思います。
いずれにせよ、COVID19の登場がさまざまを明瞭化してくれるということです。
稲妻は「aha moment(アハ・モーメント)」です。
「気づき」です。「悟り」です。
人はときに人生から大きな衝撃を与えられることがあります。そのために、疫病や天変地異があるのかどうなのかは知りません。
目を醒まさせるためには、気づかせるためには、突発的な驚嘆が人間には必要だ、ということは歴史が示しています。
タロットカードNo16「塔」は、神の鉄槌で衝撃を与えて覚醒を要求しています。
そして、このカードはさらにこう言っています。
「土台から作り直さなければ倒れてしまうよ」と。
産業革命からここまでの経済至上主義、資本主義社会のなかで醸成されてきた価値観が、コロナ禍によって真っ逆さまに翻っていこうとしています。
いや、そこまではいっていません。
そのチャンスが与えられています。
どうか、全く元通りには戻らないことを私は「塔」カードのエネルギーに託したいと思います。
もとに戻れば、さらなる鉄槌はやってくるだろうし、もしかしたら地球人の終末がやってくるかもしれません。
映画「地球が静止する日」のように。