ねことんぼプロムナード

新しいルネサンスの小径

「ウルトラセブン」〜そのユマニスム〜

脚本家の上原正三が亡くなった、というニュースがあった。

ウルトラセブンについて、そのストーリーの精神性と社会性の高さについて語る文化人たちも多い。

私自身、いつ頃からそう思ったのか定かではないが気づくと、「ウルトラセブン」はとても「哲学的」な作品だ、という認識を持っていた。ただ怪獣と戦うだけではなく、人間として、地球人として考えさせられるエピソードが多い。

ウルトラセブン」は、例えて言えば「スター・ウォーズ」よりも「スター・トレック」に近い。クルーたちの葛藤があったり、様々な価値観を持った異星人との出会いがあるところは、まさにそれである。

私は「スター・ウォーズ」よりも「スター・トレック」のほうが好きなので、「ウルトラセブン」ファンであるのは自明の理だと自認している。

 

ウルトラセブン」ファンとして、機会があれば、特に好きな作品についてひとつひとつ身勝手に語りたいという情熱を持っていた。が、できずにいた。怠け者なのである。

脚本家の死、という悲しい出来事ではあるが、せっかくいただいた機会なので、簡単に記録しておこうと思って筆を取った。

ここに「大人のウルトラセブン大図鑑」というムック本があるのでそれを眺めながら、特に私の好きな作品をあげさせていただきます。

 

第8話「狙われた街」脚本/金城哲夫

メトロン星人モロボシ・ダンが、夕暮れの古びたアパートの一室でちゃぶ台を挟んで語り合う名シーンで有名なエピソード。

メトロン星人は、タバコに仕込んだ「宇宙ケシの実」を使って地球人たちを撹乱させ、互いに争わせて自滅させるという計画を実行。

そして、ちゃぶ台のシーンでウルトラセブンメトロン星人が語った内容は、なんとも地球人への皮肉な問い掛けであり、批判となっている。

実験は成功したというメトロン星人

赤い結晶体が人類の頭脳を狂わせるのに十分に効力があることが分かった。

我々は、人類が互いにルールを守り信頼しあって生きていることに目をつけた。地球を壊滅させるのに暴力を振るう必要はない。人間同士の信頼感をなくすればいい。人間たちは互いに敵視し、傷つけあい、やがて自滅していく。

どうだ、いい考えだろう。

ラストシーンのナレーションが秀逸。

メトロン星人の地球侵略計画はこうして終わったのです。人間同士の信頼感を利用するとは、恐るべき宇宙人です。

でも、ご安心ください。このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え?なぜですって?

我々人類は今、宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから。

メトロン星人のおっしゃる通り。人の間に信頼感がなくなれば地球人は自滅するだろう。

2020年現在の地球では、お互いの信頼がどうのこうのの前に、差別、排除、分断が加速している。

メトロン星人が手を下すまでもなく、地球はこのまま勝手に自滅いくのだろうか。メトロン星人はどこかでその様子を観察しているのかもしれない。いや、もしかしてこれは巧妙な彼らの実験なのかもしれない。

メトロン星ではどうなんだろう。はるかに文明が進んでいるとすれば、信頼云々よりも互いの思考はお見通し状態なのかな。でも、そんな精神性の高い異星人が他惑星を侵略しに来るとは思えない。とすると、神の目線で試しにきた、ということか……。

空想は尽きない。

 

第9話「アンドロイド0指令」脚本/上原正三

おもちゃじいさんを名乗るチブル星人が、子どもたちに配ったおもちゃの発信器を使って子どもたちを操り、地球征服を目論むという物語。

ある種の「ハーメルンの笛吹き男」ストーリーかな、とも思う。あるいは「洗脳」の恐ろしさを喚起しているようにもみえる。発信器を使用してはいるものの、幼い子どもたちを洗脳、すなわち権威者の思い通りの世界にするための教育を与えるということは、社会をコントロールする格好の手段のひとつだろうから。

子どもたちが大挙して行進してきたら、大人もなすすべがないかもしれない。と同時に思うのは、日本ではかつて学生デモは鎮圧されて以後学生たちはおとなしくなった、ということ。現在香港では民主主義を手放すまいと学生たちが立ち上がっているが、その行く末はどうなるだろう。

空想は尽きない。

 

第23話「明日を捜せ」脚本/南川龍 上原正三

安井与太郎という年配の占い師が、地球防衛軍の超兵器開発所の倉庫が爆発すると、ウルトラ警備隊に助けを求めてきた。誰も信じないなか、キリヤマ隊長だけが彼を信じる。そのキリヤマ隊長をダンも信じる。

キリヤマ隊長を中心に描かれる地味な雰囲気の物語だが、そこがいい。

危機が迫っていることを察知した人が予言のように警告しても誰も信じない、というが世の常だ。ノストラダムスの大予言だって嘘だったじゃないか、と私たちは思っていたりする。万が一に予言通りのことが起こったら、その告知した人物は犯人扱いされるだろう。

誰も信じてくれないなか安井は言う。

「今日がダメなら明日、明日を捜せばいいんですよ」

キリヤマ隊長は、

「あの男を信じたついでに、あの男が言っていた明日を捜してみます」

と休暇願を出して明日を捜しに行く。

ダンはキリヤマ隊長を追いかける。

「隊長と一緒に、明日を捜したくなりましてね」と。

キリヤマ隊長は、霊感や予知能力を無視できないタチだと話す。その理由が、古いタイプの人間だから、と。

ウルトラセブン」が放送されていた時代は、霊感を信じるのは「古い人間」だったのだろうか。

この数年後、ユリ・ゲラーの超能力ブームが、そしてさらに数年後、占い師・和泉宗章の天中殺ブームがやって来る。

信じるか信じないかはあなた次第」だが、このエピソードの「明日を捜す」というセリフが妙に心に残っている。

 

第26話「超兵器R1号」脚本/若槻文三

このエピソードのなかでダンがつぶやくセリフはあまりに有名だ。

それは、

血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ。

超兵器開発に地道をあげている防衛軍。興奮してはしゃいでいる研究者と隊員たち。

「これで地球の防衛は完璧だ。地球を侵略しようとする惑星なんかボタンひとつでこっぱみじんだ」

「ボタンの上に指をかけて、侵略しようとする奴を待っておればいいんだ」

「それよりも地球に超兵器があることを知らせるのよ。使わなくても、超兵器があるだけで平和が守れるんだわ」

このアンヌのセリフは女性ながらなんとも恐ろしい言い分だ。まさしく現在の地球の核兵器競争の様相そのものである。核の傘、核抑止力、などと言われている。

超兵器の威力を試す実験のために、ある惑星が選ばれ、これからその惑星へ向かって発射されると言う。

「地球を守るためなら、何をしてもいいのですか」

とフルハシ隊員に問い掛けるダン。

「地球は狙われていることを忘れるな」

と念を押すフルハシ。

(ダン)侵略者は、もっと強烈な破壊兵器をつくりますよ。

(フルハシ)我々は、それよりも強力な兵器をまたつくればいいじゃないか。

(ダン)それは、血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ。

ギエロン星が実験惑星に選ばれ、超兵器R1号は発射された。すると猛烈な勢いでギエロン星から地球に向かって飛んでくる物体を感知。巨大な生物だった。

生物が住める環境ではないはずの星なのに、生物がいた。しかも、超兵器R1号の影響で変異しているようだ。科学者たちは驚愕した。

かわいそうだが、攻撃するしかない。

恐ろしい姿になってしまったギエロン星獣

「本当は美しい星ギエロンに住む平和な生物だったのかもしれません」と語る博士。

 被害者であるギエロン星獣だが、地球人を守るためには攻撃しなければならない。ウルトラセブンの悲しい戦いだった。

(タケナカ参謀)

超兵器R2号が完成したら、地球の平和は絶対に守れると思うかね?

(キリヤマ)

しかし侵略者は、それより強力な破壊兵器で、地球を攻撃してくるかもしれません。

(タケナカ)

我々はさらに強力な破壊兵器をつくる。地球を守るために。

(キリヤマ)

そういえば、ダンがしきにうわ言を言ったんです。血を吐きながら続けるマラソン、だと。

(博士)

人間という生物は、そんなマラソンを続けるほど、愚かな生物なんでしょうか?

委員会で、R2号の製造の中止を提案することにしたタケナカ参謀。

 

このエピソードは全く古くなっていない。古くなっていないどころか、21世紀の今も警鐘を鳴らし続けている。

地球人は、血を吐きながらマラソンを続けている。

このエピソードを観たとき私は、ギエロン星獣をとても哀れに思ったのと、超兵器がギエロン星の爆破に成功したときの関係者たちの狂気じみた歓喜の姿にぞっとした。

そして、ダンが言った「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」というセリフは、初めて視聴した日からずっと忘れることができない。

 

第37話「盗まれたウルトラ・アイ」脚本/市川森一

これも、悲哀に満ちたエピソードだった。そしてとても印象深い。

地球に派遣されたマゼラン星人マヤを演じた吉田ゆり(香野百合子)がとてもかわいらしい雰囲気の女優だったので、ストーリー展開とも相俟って強い印象が残るのだと思う。

ダンからウルトラ・アイを盗んでマゼラン星に迎えにきてほしいと電波を送り続けていたマヤは、結局母星に裏切られる。マゼラン星はマヤを地球に残したまま、地球への攻撃を開始しようしていた。

そのことに気づいたダンは、マヤを捜し出して事実を告げる。

きみははじめから見捨てられていたんだ。

この星で生きよう。この星でいっしょに。

ダンの誘いにもかかわらず、マヤは死を選ぶ。

なぜ他の星ででも生きようとしなかったんだ。僕だって、同じ宇宙人じゃないか。

よその星で生きるたったひとり、かもしれないその寂しさ。そんな気持ち、分かるはずもないのだが、なんとなくじんと心に染みてくる、そんなラストだった。

ヘルメットを小脇に抱えた制服姿のダンが、夜の街灯りのなかを通行人を除けながら歩いていく。哀愁が漂う。

この通りはおそらく新宿?と思っていたら、ネット情報によると新宿東口通り、だそうだ。

このエピソードでは、夜の新宿、そしてロックやアングラなど当時の若者文化が色濃く反映されていた。

 

第42話「ノンマルトの使者」脚本/金城哲夫

ダンとアンヌの休暇中デートのシーンからはじまる。

海岸の砂に埋まっているアンヌのところへ少年がやってきて「海底開発を止めないと大変なことになる」と忠告する。するとその通りに海底爆発が起こる。

ダンとアンヌが近くの小学校へ少年を捜しに行くが見つからない。

実は2年前に亡くなった少年だった。海が大好きだった。

海底はノンマルトのもので、ノンマルトは今の人類よりも先に地球にいた、人類は地球の侵略者だと少年は言う。

訝るダン。ダン(ウルトラセブン)の星では、地球人のことをノンマルトと呼んでいる。

これは、自然破壊への警鐘でもあるのだろう。現在、地球環境破壊は凄まじい勢いで進んでいる。気候変動は声高に叫ばれている。金儲けに邁進している商人や政治家たちは無視すらしている。その一方で、グレタ・トゥンベリのような勇気ある少女に啓発された若者たちによるデモなどでのアピールが始まっている。

この「ノンマルト」という名称を聞くと、私は「アヌンナキ」を連想してしまう。いや、正確に言うと長じてから「アヌンナキ」について知ったとき、このウルトラセブンの「ノンマルト」を想起した。アヌンナキとは、シュメール神話に出てくる神々の集団のことだが、地球にやってきた最初の地球人だと言っている人もいる。私のなかで、なんとなく相通じるものがこの2つの間にあったのだろう。

いずれにせよ、示唆深いエピソードだ。

 

第43話「第四惑星の悪夢」脚本/川崎高 上原正三

なんと言うか、なかなかの秀作だ。ハリウッドでも十分に通じそうだ。「世にも奇妙な物語」に収めるにはもったいない。

ダンとソガがたどり着いた惑星は、地球そっくりだが自分たちの地球ではない惑星だった。

人間の姿をしたロボットが生身の人間を支配している。今ならAIに支配された惑星、といったところだろうか。

全く穏やかな世界ではない。独裁国家

映画の銃殺シーン撮影現場では、人間たちが本当に殺される。

地球を植民地にする計画があるという情報を得て、ウルトラセブンは第四惑星を破壊する。

ダンとソガは地球に帰還する。

が、これは本当に体験したことだったのか、宇宙船に乗っている間に見た悪夢だったのか……。

似たような世界、社会はいまだ地球にもある。独裁国家と言われるところに多い。

いまだ、と書いたが、もしかしたらAIの発達でこれから来る社会、世界なのかもしれない。

 

第45話「円盤が来た」脚本/川崎高 上原正三

マチュア天文家のフクシンくんは、宇宙に思いを馳せるしがない青年。工場で働いているが、夜は天体望遠鏡をのぞいているので、仕事場ではボーッとしている。

ある日、土手に寝転がっていたフクシンくんはある少年と出会う。

会社でヘマばかりしている、夜に星を見ているから、と少年に愚痴るフクシンくん。

どうして星を見るのかと尋ねられて、自分の名前の星を持ちたい、と。

それに、星は汚れてなくてきれいだろ。地球なんか人間もウジャウジャいるし、うるさくて。

とフクシンくんが言うと、

「今夜いいことあるよ、きっと」と言って少年は立ち去る。

その夜、フクシンくんは円盤の大群を目撃する。ウルトラ警備隊に連絡するも信じてもらえない。

翌日、再びと少年と会うフクシンくん。何か見なかったか、と問われて、円盤を見たが錯覚だとウルトラ警備隊から言われた、と答える。

その夜、再び円盤を目撃。

フクシン青年だけではなく他にも通報が多いので、調査を始めるウルトラ警備隊だが……。

再び土手に寝転がっていると少年が現れる。

星を見ることだけが楽しみだった、と話すフクシンくん。

(フクシン)どこでもヘマばかりやって、怒られてばかりだろ。それに人間なんて嫌いなんだ。

(略)

いいだろ、星はきれいで。星の世界に行ってしまいたいよ。

(少年)僕がお兄ちゃんののぞみをかなえてあげるよ。きれいな星の世界に連れてってあげる。

(フクシン)いいだろうなぁ、星の世界で暮らすのは。のんびりと誰にも煩わされずに。

このあと、フクシンくんは少年の家へ行くことに。

そして少年は自分の正体を明かす。地球を征服に来たペロリンガ星人だ、と。

そして言う。

約束を果たしてあげよう。私は、地球にあきあきしたキミを、星へ連れて行ってあげるよ。もうずいぶん大勢の地球人を、私は星へ連れて行ってあげたんだ。ほら、ある日突然蒸発していなくなった人たちがキミの周りにもいるだろう。

ウルトラ警備隊とウルトラセブンによって、ペロリンガ星人たちの陰謀は阻止された。

そして、フクシンくんはウルトラ勲章をもらうことになる。

 

このエピソードもなかなかシュールで社会性に富んでいる。今の世の中にも十分に通じる内容だ。

フクシンくんは仕事はしているが、いわゆる「ひきこもり」と言われている人々と相通ずる雰囲気がある。今の社会に、人生に、生きがいや喜びを見出していない。別の星へ行きたいとすら思っている。

その理由がこうだ。

星は汚れてなくてきれい。

地球は人が多くてうるさい。

自分を怒る人ばかり。

人間が嫌い。

のんびりと誰にも煩わされずに暮らしたい。

こんな風に思っている人は、けっこういるのでは?

私もどちらかというと、いや、完璧にこちらタイプなのでよく分かる。

これらの理由は、2020年の今、更に甚だしくなっている。

それから、ちょうどこの時代、高度経済成長期、「蒸発」という言葉が世間に広がっていた。突然どこかへ行ってしまう人が大勢いたらしい。朝ドラ「ひよっこ」でも描かれていた。

もしかしたら、それこそ今でいうところの無謀な労働を強いられていた日本人のなかに、くたびれ果てて、異星人と別の惑星へ行ってしまった人もいたのかもしれない……。

 

 

名作の多い「ウルトラセブン」のなかから8作品を一気に取り上げてみました。

ひとつひとつ丁寧に論じることのできるものではあるが、そのときがいつ来るかわからない。とりあえず、端的に書き留めておこうと思った次第です。

 

私はあるとき「何歳になっても、年取ってもウルトラセブンを見続ける」と、いとこのお姉さんに宣言したのを今でもはっきりと覚えている。

私の感性は鋭かったのだな、と自負しているところだ。

 

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「ツトムと異星人」 @kinirobotti