心身症と絶望感。
「同期のサクラ」日本テレビ水曜夜10時
結局、あれから会社に行けなくなってしまったんだね。
ずっと引きこもっていたサクラ(高畑充希)。
仲間たちの励ましも無益に終わり……。
2019年3月には、サクラのゴミ屋敷も片付いて、冷蔵庫とAIアシスタントのみの殺風景な室内。サクラはフローリングの床にまるまって寝ている。
自分はこれからどうしたらいいのか。
何のために生きているのか。
自分みたいな人間は死んだほうがいいのか。
AIにいろいろ問いかけるサクラ。
自分を疑い、生きる意欲をなくしている。
これはいわゆる心身症の状態だ。絶望感に襲われたとき、人はこうなる。もぬけの殻とはこのこと。
一年もこんな状態を続けていたのか。いや、一年なんてあっという間だ。
正直に生きようとしてこうなった。サクラの応援者だったじいちゃんが死んでしまったことも大きい。
世の中、不正直に適当に、自分の得になるようにずる賢く生きている人のほうが、楽しく生きている。
正直者はバカをみるのである。
いや、バカをみるどころか、不正直に適当に、自分のことだけ考えて生きている人たちからは、ほら言ったことないと脱落者のレッテルを貼られる。ときには悪にすら見えるのかもしれない。本当は善なのに。根本的な善が悪になるという逆転世界。それが社会なるもの?「バカだな。だからおとなになれって言ったじゃないか」。
「おとなになる」とは「嘘つきになる」ことなんだ。
誠実、正直、倫理観、道徳、思索を大切にする人(これをユマニスト/ヒューマニストと言う)は「世渡り下手人間」ということになる。
それを痛烈に遊川の脚本は見せつけてくる。
「女王の教室」では、天海祐希演じる阿久津先生が、そうならないように生徒たちに訴えかけていた(同時にそれは社会風刺となっていた)が、「同期のサクラ」では、だったらそういう人はどう生きていけばいいのか、死ぬしかないのか?を問いかけてくる。
それが第8話まで、だ。
同期たちの作戦が実ってサクラはちょっと息を吹き返したが、表へ出たところで、隣室住人の息子をバイク事故から救おうとして脳挫傷になってしまった。
第1話で、何もない部屋でサクラが倒れていたシーンはここだったのか、と回収される。
もうひとつの回収は、初回で百合(橋本愛)が抱いていた赤ちゃんが葵(新田真剣佑)との間にできた子どもだったこと。これは、ドラマの早い時期にすでに予想がついていたが。
菊夫(竜星涼)は熊本地震のあと会社をやめて故郷に戻り、ボランティア団体で働く道を選んだ。
百合は葵とは結婚しない、と言う。
家族のいないサクラ。専門の病院へ移る許可を病院側は同期の4人に求める。
サクラのいない世界は考えられない、絶対に諦めない。
そう言って病室を去る4人。
そして、サクラの目から涙が流れ、サクラはその目を開く……。
え?どうなるの?
意識が戻るの?
気になったので来週の予告概要の最初のところだけ、ちょこっと、読んでしまった。
どうやら目覚めるようだ。
ここから先、物語はどう展開し、「おとなになれない」人間はどう回収されていくのだろうか。
「純と愛」では、明確に回収されていなかったという印象が残っている。そもそも愛(いとし)くんは、植物状態から目覚めなかった。
話は前後するが、サクラを励ます百合にむかってサクラはこう叫んでいた。
夢夢夢夢、うるせんだわんね。
夢があれば偉いんけ。
夢がなくちゃ生きてちゃいけねんだけ。
あれほど夢を大事にしていたサクラが、全く反対の心境になっている。これを絶望と言わずして何と言おう。
「私には夢があります」と、元気に3つの夢を表明していたサクラなのに。
あのとき、嘘をついていれば、夢は叶っていたのかもしれない。それでもじいちゃんの死は訪れただろうが。そして、サクラは自分の言動の善悪にずっとまとわりつかれてしまうだろう。
すみれが言っていた。どちらを選択してもそれはサクラを苦しめることになる、と。
なかなかすごい選択だったのだな、あれは。どちらの道も険しく、虚しい。こんな試練、神様が与えるなんて。
せめてじいちゃんさえ生きてくれていれば。
いや、こんなときのためにこそ一生信じ合える仲間をつくったのでは?この夢は叶った、とサクラは言っていたはず。
詩人で書評家の若松大輔が、奇しくも「同期のサクラ第8話」放送日同日(2019年12月4日)に次のようなツィートをしていた。
どんなに
優れた人間であるかを
声高に語る必要はないのです
聞きたいのは
あなたが あなたで
あろうとするときの 苦しみです
どうあがいても自分にしかなれない
でも 自分であろうとするとき
こんなにも 痛みを感じなくてはならない
そんな不条理を
どう生きていけるかを
ともに考えたいのです
「あなたがあなたであろうとするときの苦しみ」
「自分であろうとするとき こんなにも痛みを感じなくてはならない」
「そんな不条理を どう生きていけるか」
この詩は、サクラがAIアシスタントに問いかけていたことであり、サクラの苦しみそのものではないか。