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「ハケン占い師アタル」全9話~占いで人は変われるのか?~何か捨てるものありますか?~死神幸福論

「“ハケン占い師”ってそういうことだったのね」

「予言を伝えるのは逸脱でしょう」

というのが、最終話を観終えたあとの私の「納得」と「不服」の感想。

 

ハケン占い師アタル」

テレビ朝日木曜ドラマ 2019年1月17日~3月14日

脚本/遊川和彦

出演/杉咲花 志田未来 野波麻帆 板谷由夏

   間宮祥太朗 志尊淳 小澤征悦 及川光博 若村麻由美

 

アタルは、占い師というよりも霊能者だ。人の考えていること、その人に今起きていることが分かったり、過去や未来が見える。そういう意味では大抵の占い師は霊能者だと言えるのかもしれない。

このドラマがはじまったばかりのころ「占いっていうから楽しみにしていたのにこれは占いじゃない」というドラマ評論家の感想があった。だからつまらないドラマだ、と位置づけていた。「占い」というと予言的なものを思い浮かべる人が大抵なのだ。

アタルが「ハケン社員」として雇われたこの会社でやったことは、相談者(仲間)の未来を予言することではなかった。「あなたを見ます」と言うときアタルは、彼らの「悩みの本質」を見抜いてそれを知らせるのである。前進するためには向き合って解消していかなければならないところだ。私たちが、固定観念に従って大事に抱え込んでいたり、弱さゆえに正視できずに蓋をしていたり、プライドが邪魔をしてしがみついていたりする、そのようなものだ。それをアタルは、きっぱりはっきりと見抜いて「厳しく」問い掛け、いわゆる「痛い所」をついてくる。

上記のドラマ評論家たちは、それをもって「説教されてるみたい」で嫌だ、と感想を述べていた。つまりこのアタルの「占う姿勢」をこのドラマの評価を低くしている要因にしているわけだ。確かにアタルの口調は、普段の「アタルちゃん」とは別人のように乱暴になるので、怖いというのは正しいのかもしれないが、一方でそれがまた痛快でもある、と私は評価する。もしかしたら、自分の「悩みの本質」は見抜かれたくないという感情を本能的に抱いているのかもしれないな、とこのドラマ評論家たちを評してしまうのは、いささかナナメ目線すぎるだろうか。自分自身の弱さや固定観念やプライドは見たくも知りたくもない、というのがごく普通の反応だろうから、評論家たちの気持ちも理解できる。

けれども、このドラマの登場人物たちはみな、殻をかぶって苦しい思いをしている自分と向き合うことに成功した。 

ちなみに、アタルの大声と乱暴な言葉づかいは、相談者への覚醒を促す手法でもある、と私は思っている。最終話でアタルは、「占うときずっと態度がでかかったのは、もうしないって誓ったのに破った自分にはらがたったっていうか、みなさんに嫌われたほうが二度と占ってほしいって言われないかなぁって思ったからで……」と言っている。が、最後の最後に同僚たちを占ったときにも思わず「態度でかい口調」が出ていたところを見ると、自分への腹立たしさとか嫌われるように仕向けるためとかいった消極的な理由からの故意ではない、と解釈させていただく。もちろん見下しているわけでは全くない。ある種の「じれったさ」もあるのではないだろか、どうして分からないの?簡単じゃん、と。そして同時に、自分自身に腹を立てている。「誓いを破った自分」ではなく「本当の自分を生きることを避けている自分」「それを母のせいにしている自分」に。

  

「何か捨てるものありますか?」

と各話の最後に、ダストカートを押しながらやって来る清掃員のおばさんがいる。

悩みの根源に気づいた社員たちは、大切にしていた物を机の引き出しや鞄から取り出してダストカートへ捨てる。私が最も賛同できたこのドラマのシーンである。

こだわり続けて自分の世界を狭くしていた物、それらは自分の前進をはばんでいたものだ。まさにタロットカードの「死神」が私たちに迫ってくることだ。

 

「何か捨てるものありますか?」 

第1話 神田さん(志田未来) 香水とパワーストーン

「アタルちゃんいろいろありがとう」「決めたのは神田さんですから」

第2話 目黒くん(間宮祥太朗) 目覚まし時計 婚活アプリ削除 実家を出る

第3話 品川くん(志尊淳) パワハラ報告書 退職届 転職アプリ削除

第4話 上野さん(小澤征悦) 伝説のイベントと賞賛された過去の栄光の品々

第5話 田端さん(野波麻帆) 大量の占い関連書籍とグッズ 鍵 店員からもらった癒しメモの書いてあるコーヒーのスリーブ

第6話 大崎課長(板谷由夏) 内服薬 リーダー論書籍

第7話 代々木部長(及川光博) 上司をアテンドするための立派なメモ手帳 

第8話 的場中(杉咲花) 鳥籠

キズナ(アタルの母・若村真由美)がアタルを自由にする。小学校時代イジメを回避するために霊が見えるふりをして占いをはじめたキズナ。この会社にいたいというアタルに、もう占いはしないと約束できるならと条件を出す。キズナ自身は、これから勉強して立派な占い師になると宣言。

 

第9話 アタル サングラス

サングラスは見えすぎてしまうものを見えないようにするために身につけていたもの。そういえば「キャッスル・ロック(アメリカドラマ/スティーヴン・キング原作)」のモリーもサングラスをつけないとパニクっていたなぁ。

 

最終話では、通奏低音として第1話から流れていたアタルと母の神秘で不健全な関係を終わらせることができ、アタルは占いを自分の仕事としていくことを決断する。

母親はアタルの霊能力を頼りにしてきた。今では信者もいるちょっとしたカルト集団のようさえなっていた。良い人生を送れるように人の手助けするのが占いという仕事の本質なのに金儲けの手段にしている、と母をなじってきたアタルだった。

「人は運命を避けようとしてとった道でしばしば運命に出会う(ラ・フォンテーヌ)」の言葉通り、アタルは避けようとした自分の個性と再会したのだった。 

 

「納得」と「不服」がこのドラマの感想だと冒頭に書いた。

「不服」の部分は、最終話の最後に「みなさんを見ます」と言ってアタルが仲間たちに渡した置き土産だ。それは「予言」だった。せっかくここまで「当て物」ではない占いをしてきたのに、急に俗っぽくなってしまった。ここには大変ひっかかった。

「目黒さんはもうすぐ運命の人に出会います」ここまではいいのだが、目黒にどうすればその人だって分かるのかと尋ねられて「その人は何かピンクの物を持っています」と答えたのである。さらに、品川と大崎へも。

「品川さんは伝説のイベントをつくります。だからめげずにがんばってください」

「大崎さんは会社をやめちゃだめです。将来ここの社長になる人です」

彼らを励ますための方便と考えることもできるが、方便にしては予言が過ぎている。

社員食堂で、目黒はある女性と出会う。彼女はピンクの物を持っていた。ところが、周囲を見渡すとみんなピンクの物を持っている、というラストシーン。これがある意味バランスを取ってくれたのかもしれない。与えられるのではなく気づくのはあなた自身ですよ、と。 

ホラー映画でも、妙に低俗なお決まり的にしめくくったり、ユーモアっぽくしようとして失敗して終わっているものを見かけるが、いただけない。だったら結論づける必要はない、と私は思う。

 

「納得」の部分は、「ハケン占い師」という名称の意味が判明したこと。「ハケン占い師アタル」とは「派遣社員になった占い師アタル」のことなのかと思っていたところ、そうではなかった。

最終話の最後、アタルは別の会社へ「ハケン占い師アタルです」とやって来る。なるほど「派遣されてやってくる占い師」というわけだ。その会社に働く人々の「心の再生」を手助けする、そういう道を選んだという設定だった。そこが復活すれば、また別の会社へとアタルは移っていく、という物語の続きを想像させてくれる。

 

さて、アタルの母親キズナはどうしているかというと、ストリート占い師になっている。こちらも健全を取り戻した。

みんなぞれぞれ自分がしたいこと、自分にできることをやっていく。そして認め合っていく。社員たちも、清掃員も、食堂のおばちゃんも、警備員も、居酒屋のおにいさんも……占い師も。それが幸福な人生、社会だよ、という脚本家・遊川和彦からのメッセージを私は受けとめることができました。

 

「大切な何かを見失っているかもしれないのに、取り残されるのが怖いからどうすることもできない」

これは、第1話の冒頭でキズナが視聴者(相談者)に向かって語るセリフ。

見失っていた大切なものを取り戻した登場人物たち。

その登場人物たちの配役もよく、それぞれの俳優たちにとってもよい役回りとなったのではないだろうか。役者にとっての役も当たり外れがあるように私は思っている。役どころや脚本によっては、俳優をつぶしてしまうものさえある。もちろんその逆もしかりだが、その場合はその俳優を選んだ側の審美眼に問題があるか、日本の場合は事務所やスポンサー的問題も大きいようだ。

このドラマの俳優たちは、各々の役を見事に(は言い過ぎかもしれないが)演じ切っていた。

 

内容もさることながら「オープニング」も良かった。シンプルでそれでいてインパクトがある。映像も音もシンプル。ほんの数秒というのも良い。だが、主題歌(エンディング)なるものが有名歌手のもので、こちらは日本のドラマのお決まり踏襲でいただけない。こちらも海外ドラマのようにシンプルだったらもっと良かったと思う。

 

尚、登場人物たちが捨てたものの意味とそれぞれの物語は、BSやネット配信などで視聴して確認してください。 

ご視聴おすすめです。