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「PICU 小児集中治療室」/「ザ・トラベルナース」〜占い師サリーが語る2022秋ドラマ終①

 興味深いドラマの多かった2022年秋。

 感想を書き留めておきたいもののみ取り上げておく。

 まずは医療もの、2タイトル。

 

「PICU 小児集中治療室」フジテレビ

出演/吉沢亮 安田顕 大竹しのぶ 高杉真宙 木村文乃

 なんと言っても吉沢亮がよかった。私としては、この作品によって吉沢亮への評価が変わった。すなわち良くなった。

 

 北海道が舞台の医療ドラマ。

 小児専門の集中治療室は日本ではまだまだ不十分、というのが日本の現状としてあるようだ。今回そこにドラマという形で光を当てた。さらに北海道という広大な地域での医療の難しさについても、私には新しい気づきとなった。

 アメリカでPICU医の資格を得た植野(安田顕)は、日本各地でPICUを推進してきた。その植野が北海道知事に呼ばれ、医療用ジェット機を運用できるPICUを目標に、丘珠病院で動き出す。

 命と向き合う子どもたちとそして医師たち。なかでも主人公の志子田武四郎(吉沢亮)は、とても繊細な心の持ち主。熱心さがときに暴走してしまうこともある。でも武四郎はいつも正論を言っていると私は思う。汚れのない正論。

 武四郎の幼馴染の勇太は、網走の病院で救命医をしていたが、過酷な待遇とパワハラで自信を失い自殺を図る。丘珠病院に搬送されて助かった勇太はその後、丘珠病院で働くことになる。

 救命医として呼ばれた綿貫りさ(木村文乃)は優秀な医師だが、自身の子どもの死について病院(医師)を相手に裁判を起こしており、いささか心を閉ざしている。

 医師たちも個人的な問題を抱えつつ、PICUを軌道に乗せようと奮闘する。

 

 実は私の予想が外れた。武四郎の幼馴染の桃子(生田絵梨花)が妊娠していたので、ドラマの終盤ではここに何か問題が発生するのでは、と予想していたのだがそれはなかった。

 それではなく、武四郎の母(大竹しのぶ)に問題は起きた。膵臓がんをずっと隠しており、武四郎に分かってからも治療はしないと言う。夫のがん治療のときに嫌な思いをしたのが原因だった。結局、武四郎の母は治療をせずに死を迎えた(東京の病院へも説得して連れていったのだが手遅れだった。母との最後の思い出旅行となった)。

 武四郎は、医師である自分に何もできなかったことを悔やむ。そして、医師とは何なのだろうかと問いかける。

 一度は退職届を出した武四郎だったが、稚内の山田病院の老院長(イッセー尾形)(命を失った少女を通じて知り合っている)のもとを尋ねて心を落ち着かせ、また、助けなければならない心臓病の少年にも呼ばれることで、丘珠に戻ってくる。

 

 最後は、医療用ジェットの諸問題、そこに立ちはだかっていた対立関係も片付き、ハッピーエンドで終わる。ちょっと激しいドラマだとこういった二項対立を浮き立たせて面白おかしくバチバチやるのだろうが、このドラマの場合はそこは背景のひとつだ。いや、もちろん北海道のPICUにとっては最重要課題なのであり、行政の難しさについても考えさせられる。

 だが、このドラマ全体を貫いているのは命と向き合う、否、向き合わなければならない「人間の思い」だった、と私は思う。

 医師だったら誰でも助けられるのかといえばそうではない。患者からすれば、医師なら助けてくれる、治してくれる、と思って当然だ。助けることができないなら医師でもなんでもないだろうとすら思ってしまう。患者の側はときに医師を責める立場になるのかもしれない。

 そして医師のなかには、この武四郎のように、深く思いを致して悩む医師もいる。そんな心優しい新人医師の姿が、静かに描かれているドラマだった。

 

「ザ・トラベルナース」テレビ朝日

脚本/中園ミホ

出演/中井貴一 岡田将生 松平健 寺島しのぶ 菜々緒 浅田美代子

 こちらは「PICU」とはうってかわって、大きな声や大げさな動作も演出されるコメディードラマ。

 横暴な医師、横暴な患者、合理主義の院長……、そんななかで「人を見るのがナース」と、患者の願いに寄り添いながら次々と問題を解決していくスーパーナース九鬼静(中井貴一)。

 アメリカから呼び寄せられたトラベルナースの那須田歩(岡田将生)は、そんな九鬼を訝りながらも、次第に彼の凄さに気づいていく。

 

 このドラマは、不条理な医師やわがままな患者やその家族を描きつつ、爽快に権威や権力に静と歩が立ち向かうという、正義の物語なのかと観はじめた当初は思っていた。

 ところが最終話を観て、あ、そっちだったのか、と思った。

 静が「フローレンス財団」の理事長(視聴者には途中から分かる)で、歩を学生時代からサポートしてくれていた人だった、という事実が歩自身に明かされるシーンがある。看護師長(寺島しのぶ)が歩に向かって、「九鬼さんは、あなたの“あしながおじさん”だったのよ」と言う。

 もちろん、医師や患者の問題解決ストーリーもユーモアたっぷりによく仕上がっているのであるが、実はそのなかに、静(あしながおじさん)が歩(ジュディ)の成長を見守る物語が隠されていたのだった。

 静はマルファン症候群という病を負っていた。そのこともあって、歩を立派なナースに育て上げようとしていたのだった。

 最終話ではその病気の手術をすることができる医師のもとへと、静と歩はニューヨークへ旅立っていく。

 シーズン2はあるのだろうか。この二人の活躍をもっと観たい気がする。

 

「PICU」にもシーズン2を望みたい。武四郎たちにもう一度会いたい。

「PICU」武四郎 a la TsuTom ©2022kinirobotti

 

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